老後ひとり暮らしのお付き合いマナー|おひとりさま向け3大サービスとは?
いまは夫婦ともに元気でも、いつかは夫に先立たれてひとり暮らしを余儀なくされる人は多いだろう。老後の「女のひとり暮らし」に備えて、子供との関係や、ご近所づきあいを見直しておくことが大事。おひとりさまのほうが受けやすいサービスについても知っておこう。
→女性は男性より6年長生きする!「おひとりさま」生活を快適にする心のケア法
女のひとり暮らしは人間関係が希薄に?
家のリフォームや相続の準備を始めるのは、定年後から70才頃。この頃になると、気持ちの面にも少しずつ変化が訪れる。高齢者の生活支援や居住環境調整に詳しい、大阪保健医療大学准教授の山田隆人さんが語る。
「身体能力の低下を著しく感じるようになるのもこの時期です。50代、60代前半の頃と違って、より具体的に“老後の生活”について思い描くようになり、不安も募ってきます」
子供が独立し、心身の機能が低下して仕事をリタイアすると、持っていた社会的な役割を奪われたような気持ちになりやすい。するとつい、子供に依存してしまったり、一方でご近所づきあいをないがしろにしてしまったりすることも多い。
「外に出ることがおっくうになると、それまで築いてきた人間関係も希薄になってきて、認知機能の低下につながり、けがのリスクも上がります」(山田さん・以下同)
これまでは高齢者の転倒によるけがは体力の低下が主な原因だとされていたが、近年では、認知症も転倒の大きな要因だと考えられている。
女ひとりの老後は新たな生きがいを
こうした閉塞感のある暮らしを続けていると、認知機能が低下するばかりか、本当の“いじわるばあさん”になってしまう恐れもある。
「生きがいを失って生活範囲が狭まり、時間ばかりが余っていると、小さなことでも気になって、人に対して不満ばかり言うようになります。例えば、高齢になって聴覚が衰えると、子供がドタバタと騒ぐ音が振動として感じられたり、音に対して過敏になるのです」
年を重ねるほどに脳が衰えて感情のコントロールが効きにくくなり、聴覚の衰えによって声が大きくなれば、“ちょっとしたことですぐに怒鳴るお年寄り”になりかねない。それを防ぐためには、新たに“生きがい”を持つことが大切だ。
老後のご近所づきあいの心得とは
「まず、高齢になったら自分はもう“世話する側”ではなく、“世話される側”なのだと考えた方がいい。そのうえで、“趣味”“子供や孫と一緒に暮らす” “人の役に立つことをする”など、自分が大切にしたいことは何か、考えてみてください。それが老後のアイデンティティーになり、子供やご近所とどうつきあいたいかを決めるヒントになります」
見守りボランティアやゴミ拾い
例えば、小学生の登下校時に横断旗を持って見守るボランティアや地域のゴミ拾いに参加するなど、少しずつ“顔見知り”が増えていくようなものがいいと、山田さんは言う。
「心理学の用語で『ハロー効果』といって、人は顔を合わせる機会が多ければ多いほど、その相手に対して好感を抱くということがわかっています」
かといって、「じゃあ、新しい人間関係をつくらなくちゃ」と、焦って新たなコミュニティーに参加するのは、あまりおすすめしないという。
散歩で挨拶や井戸端会議を
「“ご近所づきあいをするため” “老後のため”という目的では、本来の人間関係をつくることはできません。“大好きなお花の教室で出会った人とお茶飲み友達になって、いつのまにか介護したり、されたりの関係になった”といった関係が理想です。
とはいえ、知らない人ばかりの中に飛び込んでいくことは、多かれ少なかれストレスになります。それを差し引いても、自分が大切にしている趣味や家族との関係、やりがいなどを得られるかどうか、よく考えてからにしてほしい」
もし、人が多い環境が苦手なら、毎日の散歩や買い物で、顔を合わせる人たちに挨拶したり、ただ井戸端会議をするだけでもいい。外に出やすい玄関にリフォームされていれば、毎日の外出も苦にならなくなる。
→夫亡き後…女のひとり暮らしに備える|老後リフォーム5つの準備
子供との関係は依存しすぎない
ご近所づきあいは“広く浅く、いずれ深く”が理想。では、生まれたときからずっと一緒にいた、わが子との関係はどうだろうか。
「困ったら子供を頼ることができる」と考えている人は少なくない。しかし、遠方で暮らしていたり、仕事や育児が忙しかったりと、たとえ親子関係が良好でも、子供側の事情を優先されるケースが多い。いくら信頼できるわが子とはいえ、依存しすぎるのも考えものだ。
「もちろん、日頃から良好な関係を築けているなら、本当に困ったときには助けてくれるでしょう。でも、当たり前のこととして、期待してはいけません。子供にとって負担になりますし、もしやむを得ない事情で子供に手を貸してもらえなかったときに、必要以上にショックを受けてしまう可能性もある。過度な期待は、お互いにとってマイナスです」
夫を亡くしたとある70代の女性が息子夫婦を頼って同居したが、生活リズムや価値観の食い違いで関係が悪くなり、同居解消を言い渡されてしまったというケースもある。
「きっと助けてくれるはず」と期待して頼ると、いざ関係に亀裂が入ってもなかなか解消を切り出しにくい。居心地の悪くなった子供の家にいつまでも居候し続けるのは、強い閉塞感やストレスのもとになる。認知機能の低下を招く環境であることは間違いない。
家の相続は子供たち側に意思確認を
一方で、いつまでも「わが子のために何かしてあげたい」という親心も、押しつけないようにしたい。
相続実務士の曽根恵子さんが話す。
「“子供に家を残したい”という人は多いですが、子供側の意思確認を忘れていることがあります。子供に財産を残すつもりでいても、家は年々老朽化して価値が下がりますし、所有しているだけで維持費もかかる。子供にとって負担にしかならないことも多いのです。そういった意味でも、財産を正確に把握して、自分の意思だけでなく、子供たちの状況も判断材料にしてください。そのうえで、どうやって相続するか考えておくことが非常に重要」
“おひとりさま”の方が受けやすい3大サービス
もしものときに頼るあてがほしければ、ひとり暮らしをしている人のみが使えるサービスを利用するのもいい。
いずれも各自治体の高齢者支援窓口などに相談を。
●ホームヘルプサービス
ホームヘルパーが家に訪問し、食事や入浴などの身体介護や掃除、買い物などの生活支援を行う。ひとり暮らしであれば、介護度が低くても利用することができる。
●高齢者向け緊急通報システム
急激な体調の変化や転倒、火事などの緊急時にボタンを押すと通報できる。各自治体のほとんどで導入されているが、家族と同居の場合は利用することができない。
●火災安全器具給付
火災による緊急事態に備え、自動消火装置やガス警報器などの安全器具を無償または微額の負担で給付を受けることができる。自治体によって基準は異なるが、65才以上で認知機能の低下した高齢者のみの世帯が対象など、ひとり暮らしの方がサービスを受けやすいことが多い。
夫亡き後のひとり暮らし・子供やご近所付き合いを見直す【まとめ】
近所づきあいにしても、親子関係にしても、最低限の挨拶や情報共有は徹底しながら、“つかず離れず”をキープしておくことが、有意義な老後を過ごすコツだ。山田さんは、
「昔ながらの人情を“セキュリティー”として活用するのがいい」と話す。
「例えば、お隣さんに“お歳暮でお菓子をたくさんいただいたからどうぞ”と声をかけたり、“病院に行っている時間に荷物が届くから、少しの間預かっていただけませんか”とお願いしたり、プレッシャーにならない程度の気遣いや頼みごとをしてみるのがいいでしょう。そうしてつながりができると、“しばらく顔を見ていないな”“郵便受けに新聞がたまっているな”などと、もしものときにお互いに気づきやすくなります」(山田さん)
そうやって日常的にゆるい関係性をつくっていくことが、ひとり暮らしのセーフティーネットになってくれるのだ。
教えてくれた人
大阪保健医療大学准教授・山田隆人さん、相続実務士・曽根恵子さん
※女性セブン2020年10月22日号
https://josei7.com/