暮らし

老親の「閉じこもり」を考える|「最近、親の外出が減った…」それ危険です|

「年を取ったら、家で静かにしていてもいいわよね。それのどこが悪いの?」

 などと、家の中でだらだらと過ごすうちに、外出が億劫になってしまう。そんな高齢者の“閉じこもり”が社会問題になっている。この状態を続けると、寝たきりや要介護状態になるのを早める危険がある。

「あの時こうしておけばよかった」と後悔する前に、閉じこもりの怖さを知っておこう。

実態がつかみにく「閉じこもり」

 本誌メルマガ『セブンズクラブ』のアンケートで、「親の閉じこもり」に関するアンケートを実施したところ、519人中201人(約39%)が「最近、親の外出頻度が減った」と回答。親の閉じこもりは、私たちの身近な問題であることがわかった。

「高齢者が外出しなくなることを、本人も家族も世間もよしとする点が問題」

 と、首都大学健康福祉学部准教授の藺牟田(いむた)洋美さんは指摘する。

「閉じこもりというのは、介護保険を受け取る際のチェック項目にも含まれている行政用語で、要介護状態でない人が、週1回未満しか外出をしない状態と定義されています。実際問題、65〜80才くらいの高齢期になると、週1回未満、つまり、必要な買い物や通院以外は、月に2〜3回しか外出しない人がどの地域にも1〜2割いると実感しています」(藺牟田さん・以下同)

 なぜ実感で語るかといえば、閉じこもりは、独居ではなく、家族と同居している人に多いため、「暮らし方に口を挟んでほしくない」などの理由で、実態がつかみにくいからだ。

「ひとり暮らしの人は、自分で買い物などに行かなければならないため、外出頻度が減ることは少ないのですが、家族がいると、必要にかられることが少ないため、閉じこもる人が増えるのです。誰もが寝たきりや要介護になりたくないと思っています。でも、閉じこもりがそれを促進するかもしれないという現実を知っている人は多くありません。寝たきりになってから『もし知っていたら、そんな生活はしなかったのに』と、悔やむ人もいるのです」

「閉じこもり」が続くと認知機能の低下や要介護、寝たきりの可能性が高くなる

 では、なぜ閉じこもりは危険なのか? 

 それは、外出頻度の減った状態を長く続けていると、活動量が減り、心身機能が低下した廃用(はいよう)症候群と呼ばれる状態になる。これが悪化すると、認知機能が低下し、要介護や寝たきりになる可能性が極めて高くなるからだ。

 東京都健康長寿医療センター研究所の桜井良太さんは、

「さまざまな定義があるが、『引きこもり』は世代を問わず社会とのかかわりを断っている状態であり、『閉じこもり』は高齢者において物理的に外出頻度が低下している状態」と話す。

 桜井さんらが都市近郊に住む要介護状態ではない65才以上の人を対象に「閉じこもり傾向」(※1)と「社会的孤立」(※2)が生存率に及ぼす影響について、2008年から6年間追跡調査を行ったところ、他者との交流が活発で外出も多い人に比べ、社会的孤立と閉じこもり傾向のある人の死亡率は、6年後に2.2倍も高くなった。

※1:「閉じこもり傾向」とは、外出頻度が2〜3日に1回程度以下の人。
※2:「社会的孤立」とは、同居家族以外との対面や電話・メールなど非対面のコミュニケーション頻度が週1回未満の人。

社交的なグループと閉じこもり傾向のグループの生存率グラフ

 また、2年後には歩行だけでなく、認知機能の障害リスクも3倍以上高い結果が出た(ともに上のグラフ参照)。

「筋肉を使わないでいると、1週間入院しただけで、太もも前面の筋肉は約3%萎縮し、筋力は約15%低下するとの報告もあります。それに、外出で促進が期待される社会的なつながりは、ダイエットや運動、節酒、禁煙以上に健康維持に貢献する度合いが大きいことも証明されています」(桜井さん)

 つまり、閉じこもって社会的に孤立することは、高齢者にとって、百害あって一利なしということだ。

「閉じこもりの要因は、身体的、心理的、社会・環境的の3つ(下図参照)。ですが、『外はいいよ』と言うだけでは、連れ出すのは難しい。いかに閉じこもっている人の気持ちに寄り添えるかがカギになります」(藺牟田さん)

閉じこもりになる3つの要因を図解

 では、実際に家族が閉じこもっている人はどうしているのか見ていこう。

「閉じこもり」を脱した6つの事例

●家事の一部を任せて頼りにしたら活き活き

 東京郊外に住む長男夫婦の家に、実家でひとり暮らしをしていた母親の吉永千恵子さん(71才)が引っ越してきたのは昨年5月のこと。

 夫を交通事故で亡くした後は近所に姉がいたが、その姉ががんで亡くなったのを機に「一緒に暮らそう」という長男の誘いに応じて上京。同居することになったのだ。

「しかし、転居してからは知人も友人もおらず、私たち夫婦も仕事で不在。いつの間にかテレビばかり見て自宅に閉じこもる生活になってしまったんです」(長男・拓哉さん)

 そこで心配した拓哉さんが相談したのが地域包括支援センター(※3)だ。同センターは、自治体ごとに存在し、介護予防サービスを用意し、地域の老人会や公民館での体操教室などを行っている。

※3:「地域包括支援センター」とは、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関として、各区市町村に設置されている。

「母は、最初は『いいわよ、ほっといて』などと及び腰でしたが、母の好きな民謡のサークルがあるのを見つけて、一緒に2、3回行ってみたら、顔見知りができて、ひとりでも行くようになりました。引っ越してきた当初、母に負担をかけまいと掃除・洗濯・炊事・買い物を家内がすべてやってしまい、それが『私は役立たず』と母を落ち込ませる結果になったようです。今では家事を分担し、娘に田舎料理を教えてくれるようになりました」(拓哉さん)

 高齢者をかばいすぎると、本来できることもできなくなる。気遣いしすぎず、役割を与えるのも大切だと覚えておこう

●尿もれ対策で外出の抵抗をなくて活き活き

 最近、CMでもすっかりおなじみになった尿もれパッド。

「たかが尿もれと思うかもしれませんが、頻繁に尿もれするようになるとショックで、しばらく外に出かける気になりませんでした」

 と話すのは、神奈川県に住む池田澄子さん(66才)だ。

尿もれに不安を持っているシニアの調査グラフ

 上のグラフでも60〜70代の60%以上が尿もれで「長時間の外出」に不安を感じており、4人に1人以上は、尿もれが不安で週5日以上「家から出ない日がある」と答えている。尿もれも、閉じこもりにつながる、実にデリケートな要因なのだ。

「私の場合は、尿もれなどの排泄トラブルが原因で、嫁とけんかをしてしまい、食事以外は部屋に閉じこもっている状態になったのが閉じこもりのきっかけです。3か月ほどこもっていたある日、近くの公民館で尿失禁講座が開かれたんです。息子がそこに連れて行ってくれ、同じ悩みを持つ人と話ができたことがきっかけで、尿もれパッドを活用するようになり、旅行が楽しめるまでに回復しました」(池田さん)

 スマホで使えるトイレマップのサイトを併用すれば、より安心して外出できる。

トイレ情報共有マップくん(App Store版)

トイレ情報共有マップくん(Andoroid版)

●犬をわが子のように育て出して活き活き

 ペットとして犬を飼うと外出習慣が促され、犬好きな人との会話によって社交性も養われることが昔から知られている。

 尿もれの不安を抱える閉じこもり気味の高齢者であっても、犬との共生が外出や仲間との交流・会話を促し、認知機能低下抑制に効果的であるのは、下のグラフでも明らかだ。神奈川県の大崎ひとみさん(50才)は、母を連れ出そうと犬を飼い始めたという。

尿もれを抱える高齢者が犬を飼うと、非飼育者より認知機能低下抑制に効果的であることを表したグラフ

「同居を始めて1年になる母が、今年に入って、何やかやと理由をつけて出歩かなくなったので、犬がいたら自然と外に連れ出せるかと思って、トイプードルを飼い始めたんです。でも、うちの子は外を怖がって散歩に行きたがらない。私も主人も働いているので、このままでは作戦が失敗に終わってしまう、と慌てました。でも、案ずるより産むが易し。外出したがらず、どこか不健康そうなワンコを見た母の母性が急に甦(よみがえ)ったのです。抱きかかえ、語りかけ、外に連れ出し始めました。実は、母が出歩かなくなった原因は尿もれだったんですが、臆せず外出するようになりました。ワンコと自分の姿を重ね合わせたのかどうか…ン十年ぶりに“子育て”を楽しむ母は、とっても活き活きしています」(大崎さん)

●免許証返納後、自転車ライフ満喫で活き活き

 最近は高齢ドライバーの事故が頻発したこともあって、運転免許証を返納する人が増えた。愛知県に住むHさん(51才)の父もこの春に免許証を返納した1人。車を手放した途端、自宅から外出する頻度が減ってしまった。

「実家は40~50年前に高台にできた古い住宅街で、道が狭くてコミュニティーバスも入れず、バス停も遠く、マイカーがないとスーパーや病院にも通いづらい場所にあります。免許証を返納すれば、徒歩圏内にスーパーがないから不便になることはわかっていました。でも、父はそれを逆手にとったのです」(Hさん)

 Hさんの父は自転車好きで、かつては国体のトラック・ロードレースに出場したほど。80才になった今、さすがに競技用とはいかないまでも、スポーツサイクルを購入したという。

「最初はちょっとヨタついていましたが、そこは昔取った杵柄(きねづか)。あっという間にカンを取り戻しました。『お若いですねぇ』とご近所さんの目を丸くさせるのが生きがいになっています」(Hさん)

●人との他愛ないおしゃべりで活き活き

 最近は買い物弱者・買い物難民を救済するサービスとして、宅配や通販などを利用する人がぐんと増えた。

 東京・杉並区の木下陽子さん(46才)もその1人。以前は同居している義母(73才)が、フルタイムで働いている陽子さんの代わりに買い物や食事の準備もしてくれていたというが…。

「階段で足を踏み外してけがをして以来、義母は『あそこが痛い、ここが痛い』と言って、全然買い物に行かなくなってしまったんです。それを境に義母はだんだんとぼんやりする時間が増えました。私が会社帰りに買ってきた食材が冷蔵庫にあるのに食事の準備もせず、ボーッとテレビの前にいるようになってしまいました」(木下さん・以下同)

 そこで木下さんが考えたのが、宅配サービスを利用して義母に再び食事のための買い物をさせること。外出は難しいにしても、必要な食材を考え、注文してもらう。宅配業者には「商品を届けるだけでなく、ひと言ふた言でもいいから会話を交わしてほしい」とお願いした。

「商店街のあちこちの店で他愛もない話をするのが大好きだった義母は、宅配が届くのが待ち遠しくなり、明るい性格が戻りました。外部との接触の大切さを感じました」

●趣味の読書を役立てて活き活き

 千葉県在住の野口均さん(41才)の父親は、小学校の校長だったが、38年に及ぶ教員生活を勤め上げ、この春、退職したばかり。

「引退したら地元でボランティア活動をしたいと、うちの父も当初は張り切っていました。でも、あるサークルの会合に初参加した時、『この組織運営のやり方はよくない』って、いきなり管理職目線で意見しちゃって…。あとで父は反省していましたが、結局“あの人、面倒臭い”などと煙たがられ、地域に溶け込めず、家から出なくなって本ばかり読むようになりました」(野口さん・以下同)

 その後しばらくして野口さんの父親は、『ライフレビュー』という訪問型の心理プログラムを受けることに。

「カウンセリングの時に、父は本が好きで、図書センターにもよく行っていて、月に30冊ほど読むなどと話したそうですが、その後、『そこまで本がお好きで詳しいなら、図書館で本を紹介する時間を作ってもらったらどうですか?』とカウンセラーの人から言われ、月に1度、図書センターで本の紹介をするようになったんです」

 それからは元気復活! 元校長だけに話も上手なことから、次第に人が集まるようになり、今では“本のおじさん”として利用者から愛される存在になっている。

今できる最大限の活動を続けること

 以上のような事例からも、閉じこもりは誰にとっても他人事でないことがわかる。 6つ目の事例に登場した『ライフレビュー』という訪問型プログラムを開発した前出の藺牟田さんは、

「閉じこもり高齢者は、健診や地域の活動には参加しない。だからこそ画一的な介護予防メニューよりも、戸別訪問のような個々人に即した手法でないと支援は届かない」と言う。

「その点、ライフレビューは人生を振り返る回想法による心理療法の1つで、家族以外の第三者が聞き手として週1回訪問。話題は本人チョイスで1時間話をすることを6回行うもの。ここで大切なのは、“あの時、あのことがあったから、今がある”とプラスの評価をすることです」(藺牟田さん)

 自分はまだやれるという感覚を取り戻せば、外出への動機付けにつながるが、その心理はデリケートだ。

「私の実証研究では閉じこもりの約3割が寝たきり・死亡に至るというデータがあります。そのリスクを認識しつつも、“やらないと要介護になるよ”といった言葉は避けた方がいいですね」(藺牟田さん)

 前出の桜井さんによれば、65才以上の高齢者は、約20%が心身機能的に恵まれた人、約60%が普通の人、約20%が助けの必要な人に大別できるという。

「15~20年も老後がある今は、その人の健康に応じてできる最大限の活動をすることが、自身の健康維持につながります」(桜井さん)

 就労、ボランティア、趣味・稽古、友人・近所づきあい、通所サービスで、今できることに励むのが長寿への道。

 下のチェックリストを参考に、親のため、自分のためにできる閉じこもり対策をコツコツ始めよう。

閉じこもりを防ぐチェックリスト

外出を後押しする 注目情報&取り組み

●優待カードが高齢者の外出を支援

茅ヶ崎市の優待カード

 神奈川県茅ヶ崎市では、市内に住む65才以上の高齢者に、協賛店で提示すると割引等の特典が受けられる「優待カード」を発行。たとえば、ウクレレ教室の入会金が半額に。外出や趣味のきっかけになると人気。茅ヶ崎市高齢福祉介護課(電話)0467・82・1111

●閉じこもり対策の星「近江八幡おやじ連」

滋賀の退職男性グループ『近江八幡おやじ連』の調理風景

 18年前に男性の閉じこもり対策で誕生したのが滋賀の退職男性グループ『近江八幡おやじ連』。「今や25団体・350人。いろんなサークルが毎月さまざまな活動をしているのが取り柄。新しい仲間を募集中です」(会長・高橋作榮さん)。https://oyajiren.jimdo.com/

●買い物弱者の味方! 乗り合いタクシー

 愛知県豊明市で4月から、自動車部品メーカー・アイシン精機主導で運行が始まった乗り合いタクシーサービス『チョイソコ』。乗降場は市内に約100か所。会員制で乗車1回200円。民間企業からも協賛金をもらうシステムは全国初。(電話)057・00・81194)

●尿もれ・頻尿派のトイレ探しに一役

 NPO法人Check運営の情報サイト『チェック ア トイレット』は多機能トイレ約7万2000件をマップ上に表示し、スマホやPCで閲覧可。通常トイレも併設されている。https://checkatoilet.com/index.html

●軽くこげる高齢者向け自転車

高齢者向け自転車イラスト

 ペダルの重さを44%軽減し、フレームを下げて乗りやすくした高齢者向け自転車『こげーる ネオ』。電動アシスト自転車より軽く扱いやすい。8万6184円(20型)/サギサカお客様相談室(電話)0565・28・6000

イラスト/松本孝志

※女性セブン2019年8月22・29日号

●親に届ける料理|頑固で料理好きの母も満足!圧力鍋で骨まで食べられる煮魚

●認知症に似た病気|間違いやすい「せん妄」「老人性うつ」など誤診に注意

●親の介護、田舎と都会ではどちらがいいのか。メリットデメリットは?

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