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猫や犬に財産を遺す3つの方法|注目のペット信託とは【弁護士が回答】

 ペットの飼い主が病気や事故で入院したり、急死したりしてしまったら…。もしもの時に備え、ペットに財産を残したいと考える人が増えているという。ペットに財産を遺す方法について、ペットの法律問題に詳しい弁護士に話を聞いた。

法律上ペットは“モノ”扱い…財産の相続は?

 2010年の内閣府調査※によると、ペットを飼育している人の割合は、60代が36.4%、70代以上が24.1%。10年で人もペットの寿命も伸びているため、これより多くの割合のシニアがペットを飼っていると考えられる。

 高齢化が進み、おひとり様の飼い主も増えていると予測されるが、ペットより先に自分が逝ってしまったら…。残されたペットに財産は引き継げるのか?

 ペットは家族の一員として、人間と同じように接している方も多いだろう。しかし、日本では法律上、ペット(動物)は“モノ”として扱われる。

「“モノ”であるペットは、権利の主体にはなれません。つまり、遺産を相続することはできず、たとえ遺言書に『愛猫に財産を相続させる』と書いてあったとしても、法律上そのような記載は無効となります」

 こう話すのは、ペット法学会理事でペットに関する法律に詳しい弁護士の杉村亜紀子さんだ。

※内閣府「平成22年 動物愛護に関する世論調査」より。
https://www.env.go.jp/council/14animal/y143-06/ref01.pdf

→ペットと暮らせるなど“自分らしく生きる”ための高齢者ホーム最新事情|専門家が太鼓判

ペットに財産を遺す3つの方法

 ペットは財産を相続できないが、財産を遺す方法はあるという。

「ペットの世話をしてくれることを条件に、ペットの世話人に財産を渡すことができます。以下の3つの方法が考えられます」(杉村さん、以下同)

1.負担付遺贈

2.負担付死因贈与

3.ペットのための信託

 それぞれの特徴や注意点を順に解説する。

1.負担付遺贈

 負担付遺贈(ふたんつきいぞう)とは、財産を渡す代わりに、ペットの面倒を見てもらうことを遺言書に遺す方法のこと。

「飼い主は、遺言書にペットの世話をお願いしたい人に対し、ペットの世話することを条件に、ペットとその他の財産を渡すことを記載します。

 遺言書は、法律上有効となるための書き方がありますので、公正証書で残すのがよいでしょう」

 ただし、この負担付遺贈は、受け取る側が拒否することもできる。なので、遺言書を作成する前に、相手の了解を得ておくことが肝心だ。

「世話をする人は、遺贈の目的価格を超えるような負担は負わなくてよいとされています(民法1002条1項)。

 そのため、ペットが亡くなるまで十分に世話ができるだけの財産を渡す必要があります。

 あくまで信頼関係の上で成立するものなので、金銭だけ受け取り、面倒を見てくれないという懸念も…。遺言書の内容をきちんと実行しているか確認する“遺言執行者”も指定したほうが安心でしょう」

2.負担付死因贈与

 負担付死因贈与(ふたんつきしいんぞうよ)とは、贈与者(飼い主)が亡くなったら、ペットの世話をしてくれる人に、ペットと財産を贈与するという贈与契約のこと。

「負担付遺贈と違い、あくまで“契約”なので、生前にペットの世話をしてくれる人と、世話の内容について細かく決めておくことができます。

 贈与を受ける人と先に取り決めをしておくことで、前述の負担付き遺贈よりも、ペットの面倒をしっかり見てもらえる可能性は高まります。

 負担付死因贈与の契約は、口頭でも成立はしますが、後々のトラブルを防ぐためにも、書面を作成しておいたほうがいいでしょう。公正証書にしておくとより安心です」

3.ペット信託

 ペット信託とは、財産の所有者(飼い主)が、あらかじめ財産の一部を信頼できる人や団体に託し、自分に何かあった時、その財産から、ペットの新しい飼い主や預かり施設に対し、飼育費などが支払われる仕組みのこと。

「ペットのための信託は、飼い主が亡くなった際だけでなく、“入院したら”や“老人ホームに入ったら”など、開始時を自由に決められます。

 また、信託監督人を定めて、財産の管理やペットの飼育について、見守ってもらうこともできます。

 さらに、飼い主が死亡した場合、ペットのために信託されたお金は、相続財産とは別に扱われるので、実質的にペットのために財産を遺せるというメリットもあります。こういった利点から、最近はペットのための信託を支援する団体も増えています」

→家族信託のメリット|相続対策などにも有効。手続き、費用などを解説

ペットに財産を遺す上で注意すべきこと

 飼い主が財産は全額ペットのために使ってほしいと願っても、法定相続人(遠くで別居中の子どもなど)が権利を主張してくるケースもあると、杉村さんは続ける。

「相続財産に対し、ペットに残す額の割合が多い場合、法定相続人から遺留分減殺請求(最低限受け取ることができる権利を主張すること)をされる可能性があります。

 そんな状況を避けるために、飼い主が亡くなったり、病気などで面倒をみることができなくなったりした場合に備え、育ててくれる人や団体を探しておくことが大事です」

 また、「世話を頼むはずの人が先に亡くなってしまった」「契約後、事情が変わりペットの世話ができなくなった」など、月日が経つと遺言書や契約書を交わした時と状況が異なる場合もある。

「ペットの世話を託す人を複数にしておく、個人だけでなく保護団体などの法人に依頼するなどの対策も検討しておくとよいでしょう」

教えてくれた人

弁護士・杉村亜紀子さん

リソナンティア法律事務所(http://www.resonantia-law.jp/)所属。ペット法学会理事。一般民事、家事事件、企業法務などのほか、ペットに関する事件やトラブル案件も取り扱う。共著に『ペットのトラブル相談Q&A』(民事法研究会)など

取材・文/鳥居優美

●老いてからやってはいけない事3つ|ペットを飼う、子供と同居、あとひとつは?

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