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【東西線】注目の特養と介護付有料老人ホームとサ高住【まとめ】

 評判の高い高齢者施設や老人ホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。

 東京都中野区の中野駅と千葉県船橋市の西船橋駅を結ぶ東京メトロの東西線。全部で23駅あり、その名の通り東京都心を東西にわたって横断している。若年層や子育て世代が比較的多い路線ではあるが、自宅近くに高齢の親を呼び寄せるため、介護施設を探している人もいるという。そこで今回は、東西線の特別養護老人ホーム(以下、特養)や介護付有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)を紹介する。

地域交流の拠点になった高齢者総合福祉施設「神楽坂」

 飲食店の賑わいと閑静な住宅街の顔を持つ東西線「神楽坂」駅。高齢者総合福祉施設「神楽坂」は神楽坂駅から徒歩2分と利便性の高い場所に建っている。名前に総合とついている通り、特別養護老人ホーム、ショートステイ、認知症高齢者グループホーム、デイサービス、居宅介護支援事業所の5つの機能を合わせ持っている。また、地域交流の拠点として、地域文化の発展に貢献することを目指しており、それを実現するため1階に地域交流スペースを設けている。

 早稲田通りに面した建物の1階は、全て地域交流スペースとして開放されている。憩いの場として自由に使うことができるので、散歩の途中で立ち寄ったり、おしゃべりに花を咲かせる人も多いという。また、地元の会議や行事のために無料に貸し出しており、公共スペースとして機能している。もちろん、高齢者のためだけの場所ではなく、親子連れの利用も多いそうだ。訪れた日にも乳児にミルクをあげているお母さんの姿があった。

 地域交流スペースにはカフェ「しの笛茶房」が併設されていて、コーヒーやお茶、パンなどの軽食を楽しめる。通常のカフェと同じように誰でも利用可能だ。

 この場所には元々あったのは、明治時代から80年余り地域を災害から守ってきた牛込消防署。都有地である跡地を特別養護老人ホームなどの用地として貸し付ける東京都の公募があり、運営会社の社会福祉法人三篠会が応募し、選定されたという。商業地でもあるこの地に高齢者向けの施設を作ることには様々な声もあったというが、今ではすっかり地域の福祉拠点として受け入れられているようだ。

 高齢者総合福祉施設「神楽坂」の2階ではデイサービスが提供されている。利用にあたっては、要支援・要介護の認定と面談、契約が必要だ。担当のケアマネジャーへ面談希望日を伝えると、施設側がケアプランに基づいてサービス調整をしてくれる。

 この日に行われていたのは、ピアノの演奏と歌を楽しむ音楽会。多くの人がピアノの演奏に聴き入ったり、合唱を楽しんでいた。こちらのデイサービスの特徴は、楽しみを重視していることだという。気軽に集って楽しめる、高齢者のためのサロンを目指しているそうだ。

「デイサービスは平均すると週3日、多い方には週5日利用いただいています。顔見知りができると『デイサービスに行こう』ではなくて『あの人に会いに行こう』という気持ちになり、モチベーションも違ってきます。利用者同士でもコミュニケーションを取っていらっしゃっていて、それを楽しみにしている方も多いです。ご本人のお気持ちを無視して無理にリハビリをするようなことはありません。それぞれの方が楽しく、やりたいことをして過ごせる場になるように意識しています。ご高齢になると外出する機会が減ったり、ご家族が仕事などで日中は不在で家に一人でいる人も多いですが、デイサービスに通うことで生活にメリハリをつけることができます」(高齢者総合福祉施設神楽坂施設長の稲田純一さん 以下「」は同)

 デイサービスの大きな楽しみの一つが食事。こちらのデイサービスでは行事食など食を楽しむイベントを定期的に開催しているという。料理はバイキング形式で、料理人として腕を磨いてきた厨房のスタッフが寿司を握るなど、手作りの本格派。イベントの時はいつもよりも食事量が増える人も多いそうだ。特別な食事で非日常を味わってもらうだけではなく、日々の健康管理も行っているという。

「デイサービスでは体重やバイタルを測り、健康チェックをしています。食事の様子を職員が見ているので、週に何日か来ている方の場合、心身の変化が分かります。このような形で体調管理をしていて、もし何か問題があればケアマネジャーを通してご家族に様子をお伝えしています」

 いかがだっただろうか。地域に施設を開放し、高齢者にサービスを提供している高齢者総合福祉施設「神楽坂」。1階の地域交流スペースとカフェは誰でも気軽に立ち寄れるので、まずは雰囲気を感じてみてはいかがだろうか。

→地域交流の拠点になった新宿・神楽坂の高齢者総合福祉施設<前編>
→神楽坂の高齢者を支える高齢者総合福祉施設<後編>

施設長はレクの専門家!笑顔が溢れる介護付有料老人ホーム「サンライズ・ヴィラ西葛西」

 東西線「西葛西」駅から徒歩13分のところにあるサンライズ・ヴィラ西葛西。施設長を務める和氣俊也さんは、青少年団体でレクリエーションの普及に尽力し、専門書の出版までしているレクリエーションの専門家。レクリエーションを主体とするセクションの立ち上げのために、ある老人ホームで仕事をするようになったのが介護に関わるようになったきっかけだという。

 ここでは原則として1日1回のレクリエーションが行われ、近隣への外出にも積極的に取り組んでいるという。レクリエーションには健康ヨガや書道、寄席など様々なジャンルのものが用意されている。週に1回行われている健康ヨガの先生は看護師と保育士で、それぞれの専門性も活かしながら入居者にヨガを教えているそうだ。回を重ねるごとに参加者も増え、車椅子の入居者が床に敷いたヨガマットでの動きに挑戦したり、男性の参加者が増えるなど変化が出てきているという。

「ご入居者が日中所在なく過ごすことがないように、体や頭、心を動かせるようなプログラムを考えています。ご入居者の皆さん同士でコミュニケーションを取っていただくことも重視しています」(和氣さん)

 レクリエーションの専門家である和氣さんには、大切にしていることがある。それは子供だましのような内容にならないように、その道のプロに講師を限定し、謝礼を支払うこと。高齢者施設で行われるレクリエーションは、ややもすれば訪問する側の発表会の場になってしまったり、一方的な思いによる慰問のような雰囲気になりがち。そうならないように、和氣さん自ら講師を探し、依頼をすることも多いという。今後は女性に比べて消極的になりやすい傾向のある男性向けの企画も積極的に立てていきたいとのこと。

 サンライズ・ヴィラ西葛西で、施設長肝いりのレクリエーションと同じくらい力を入れているのがリハビリテーション。「ご入居者全員にリハビリの機会を」という考えのもと、理学療法士が常勤する体制を整えている。理学療法士の三田地敏希さんは病院勤務を経てアメリカに留学し、PNFという手法を学び、高齢者のリハビリに活かしているという。

「アメリカのカイザー病院に留学してPNFを学んできました。PNFはポリオ後遺症患者に対するリハビリテーションから始まり、脳梗塞や脊髄損傷のリハビリ、スポーツ障害などで使われてきました。プロ野球選手やプロゴルファーなど、スポーツ選手も取り入れています。PNFは3次元的な動きをすることが特徴で、一つの箇所に負担がかからないので、高齢者のリハビリにも向いています」(三田地さん)

 理学療法士が常駐しているメリットの一つは、入居者の日々の変化を把握できること。三田地さんはリハビリが始まる前に一人ひとりの部屋を訪ねて、ベッドから車椅子への移乗を手伝うなどして、身体の状況や体調を確認しているという。

「リハビリの場に来ていただくための工夫もしています。ただ『リハビリが始まりますよ』と声がけをするのではなく、お一人おひとりに合わせたお話をして、モチベーションを高めることを心がけています。リハビリに取り組む意欲を持っていただけるように、介護職と効果的な声がけの方法を共有しています」(三田地さん)

 入居者の心を三田地さんがほぐしていくことで、リハビリに消極的だった人も楽しみながら参加するようになってきたという。どんなに高い技術を持っている理学療法士がいたとしても、入居者が信頼し、楽しいと思わなければリハビリは続かず、意味がなくなってしまう。

 レクリエーションとリハビリの専門家が揃っているサンライズ・ヴィラ西葛西。できるだけ元気に過ごしたい高齢者のニーズを捉えており、今後も人気を維持していきそうだ。

→施設長はレクの専門家!笑顔が溢れる介護付有料老人ホーム<前編>
→米国仕込み!リハビリに力を入れる介護付有料老人ホーム<後編>

入居後は元気になる「高齢者向けのシェアハウス」的サービス付き高齢者住宅「銀木犀・浦安」

 東西線「浦安」駅からバスで15分、バス停から徒歩3分のところにあるサービス付き高齢者住宅(以下、サ高住)「銀木犀・浦安」。介護が必要になったらサ高住には住み続けられないというイメージを持っている人もいるかもしれないが、銀木犀には介護事業所が併設されているので、要介護5、寝たきり、認知症の状態でも入居が可能だ。定期的に医師が往診してくれるので、日常の健康管理、緊急時の対応も安心できる体制が整えられている。

 高齢者が自宅を離れて新たな住まいを探す際に重視したいのが、他の入居者との関係だ。特別養護老人ホームや介護付き有料老人ホーム、サ高住などを選ぶ際に忘れないようにしたいのが、施設は集団生活の場であるということ。周りにどのような人がいるのか、入居者同士がどういった人間関係を築いているかなどは日常生活の大きな要素となる。サ高住は他の施設と比較すると集団生活の要素が少ないが、それでも部屋を一歩出れば共用スペースで他の入居者と顔を合わせ、食事時には同じ空間で時間を共にする。

 サ高住である銀木犀を「高齢者向けのシェアハウス」だと考えるとイメージしやすいと教えてくれたのは、銀木犀・浦安所長の麓慎一郎さんだ。

「銀木犀を表す一番分かりやすい表現が、『高齢者のシェアハウス』です。入居者の方同士で助け合って、それでもダメな時にはじめて我々職員が手を出します」(麓さん。以下「」は同)

 高齢者向けの施設では、入居者に危険が及ばないように職員が先回りをしてそのリスクをできるだけ排除していることが多い。椅子から立ち上がる際に転倒しないように身体を支え、熱い飲み物をこぼしてヤケドをしないように配膳・下膳をする。これは決して悪いことではない。しかし、あまりにも手助けをしすぎてしまうとデメリットも出てきてしまうという。

「ケガなどのリスクを下げるために職員がなにもかもをしてしまうと、どんどんその方の身体機能や生活意欲が下がってしまいます。せっかく自分で何かをしようとしているのに毎日ダメだと言われてしまうと、やる気を失ってしまいますよね。『危ないですよ。座っていてくださいね』と言われ続けると、自分で何かをしてはいけないと思うようになってしまいます。そうすると、今までできていたことができなくなってしまい、いずれ寝たきりになってしまいます」

 銀木犀の最大の特徴は、入居者の7割以上が入居後に身体面または精神面での改善が見られること。90歳代で食事の量が増えた人もいれば、中には元気になりすぎて自宅に帰ってしまった入居者もいるという。入居した際にはしかめっ面をして化粧っ気もなかった女性が、他の入居者と買い物に行くようになり、自然とメイクもするようになったこともあるそうだ。外見や雰囲気的な変化だけではなく、要介護5から要介護3になるなど数字で表すことのできる改善も枚挙にいとまがない。

 銀木犀が実践していることを危ないと思うのではなく、人と共に生き生きと暮らすことだと感じる方は、ぜひ自分の目で一度確かめてみてほしい。入居者が入居前よりも元気になっていること、そして明るい笑顔がその何よりの証拠。まさに「高齢者向けのシェアハウス」と呼ぶにふさわしい雰囲気にあふれている。

→入居後は元気になる「高齢者向けのシェアハウス」的サ高住<前編>
→入居後は元気になる「高齢者向けのシェアハウス」的サ高住<後編>

 利便性が高く住宅地としても人気のある東西線沿線。豊洲や有明など江東区でのタワーマンション建設の影響もあり、2018年度の国土交通省の調査で木場駅と門前仲町駅間の混雑率が199%で日本一となるなど、人気と比例して混雑緩和も課題となっている。局地的な人口増加は高齢者の介護事情にも影響してくるので、東西線沿線で介護が必要な人は早めにニーズを満たす施設を探しておくのが良さそうだ。

撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ

※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。

→このシリーズのバックナンバーを見る

●特養に早く入所する裏ワザ|判定会議で優先順位を上げる方法や狙い目

●施設内「感染リスク」の高い危ない老人ホームの見分け方

●新型コロナで要介護認定はどうなる? 要介護申請の流れをおさらい

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