特養に早く入所する裏ワザ|判定会議で優先順位を上げる方法や狙い目
数ある施設の中でも、圧倒的に人気なのは「特養」と呼ばれる特別養護老人ホーム(以下、特養)だ。社会福祉法人や地方自治体が運営しており、民間の老人ホーム等では受け付けていない場合が多い「看取り」までしっかりケアしてくれる。
そして、なんといっても、月5万~15万円前後という年金でまかなえる安さが魅力だ。
かつては全国でおよそ50万人以上が入居待ちを余儀なくされていた特養だが、現在は30万人を切るほどまで減少した。
しかし、待機者が減ったからといって、決して入居しやすくなったわけではない。介護評論家の佐藤恒伯さんはこう解説する。
「2015年4月から制度が変わり、『要介護3』以上の判定がなければ特養には原則として入居できなくなりました。『要介護3』ともなると、家庭での介護がすでに限界に達している場合が多いのですが、優先されるのは介護度の重い人です。自分より重い人がいれば、先を越されます。さらに都心では今も、500人以上が待機する施設がザラにある。必ずしも自宅近くの特養にすぐに入れるわけではありません」
しかし、人気の特養の早期入居を勝ち取るコツ、いわば裏ワザもあるというのだ。知っておきたい、その裏ワザをご紹介する。
いくつかの特養に“ふたまた”登録する
特養の入居は、登録した順番通りというわけではない。
「特養のベッドが空くと、施設では施設長や生活相談員による『判定会議』が開かれ、次はどの人に入居してもらうかを話し合って決めます。その際に重視するのは『緊急度』。いかに現状が大変かということが選ばれるポイントになってくるのです」(佐藤さん)
つまり、要介護度の高い待機者が多ければ、いつまで経っても順番が回ってこない恐れがある。
そこで実践したいのが、複数の施設への重複登録だ。
「重複登録することで、入居のチャンスが回ってくる確率が単純に高くなります。いくつ登録しても違反などにはなりませんから、激戦区なら、近隣の施設を中心に2~3か所に登録しておくといい」(佐藤さん)
公表されている待機者の数は、重複登録も含めた延べ人数のため、実際の待機者数は半分以下ともいわれている。“ふたまた”をかけておくことで、思っていたよりも早めに順番が回って来る幸運に恵まれることも珍しくはない。
申込書の「特記事項」欄は、別紙を添付してアピールする
緊急度の高さは、特養の申込書の「特記事項欄」に記入することができる。
「申込書には、基本的な情報を回答する選択質問の他に、特記事項を記入できる欄があります。書き込まずに提出する人もいますが、それでは施設員が緊急性を判断しきれず、先を越されるばかりです。できるだけ細かく、どんな問題行動があるのかを具体的に書き記しましょう。スペースが足りなければ、別紙を用意しても構いません」(佐藤さん)
特記事項には、要介護者の状態だけでなく、自分たちがいかに困っているかを書くことも決め手になるという。ケアタウン総合研究所代表の高室成幸さんが解説する。
「金銭的な困りごとも“繰り上げ当選”を成功させる大きな要因です。たとえば、『現在入居している有料老人ホームの費用が年金では補えなくなり、子供夫婦たちが共働きをして支えている』などの苦境を説明することで、“繰り上げ当選”に至ったという実例もあります」
決して面倒くさがらずに、思いの丈をさらけ出すことが特養の空席を手に入れる近道だ。
「従来型」よりも、狙うは「ユニット型」
特養の中でも“競争率が低いシステム”に狙いを定めるのも賢い手段。
「特養には、主に多床室の『従来型』と、個室の『ユニット型』の2種類があります。月々の費用が3万円程度高くなることもあって、ユニット型は競争率が低い傾向がある。ユニット型に的を絞って探すと、意外と空室がありますよ」(高室さん)
金銭面に余裕があれば、検討してみる価値は充分あるだろう。
デイサービスやショートステイで「顔を売る」
特養では、3~7日ほど入居する「ショートステイ」や、日帰りの「デイサービス」も実施している。
「これらのサービスを積極的に利用すると、“こんなに頻繁に使うほど大変なんだな”というアピールになります。さらに、要介護度が同じくらいの人たちが順番待ちをしている場合、全く知らない人よりも、知っている人を優先しようという心理も働くわけです。入所担当の生活相談員も人間ですからね」(高室さん)
ショートステイやデイサービスを利用して“顔を売る”ことは早期入居の可能性を上げてくれるだけでなく、たとえ短時間であっても、介護する家族の息抜きにもなる。積極的に利用して損はない。
→関連記事:狭き門の特養 デイサービス、ショートステイが入所に繋がる
インターネットで空室状況を小まめにチェック
役所の老人福祉課を訪れたり、電話で空室状況を問い合わせることもできるが、インターネットを利用すれば簡単に素早く情報を手に入れることができる。
「自治体によっては特養のベッドの空き状況を一覧で公表しているところがあります。インターネットの情報をもとに待機人数の少ない特養や、新設の特養を探すのも有効的な手段です。情報収集を細かく行っているケアマネさんを選ぶことも重要です」(佐藤さん)
特養の中には、施設のHPで空き状況を小まめに提供しているところもある。ネットをチェックする習慣を身につけておこう。
“ショートのロング”で長期入居できる
ショートステイに空きがある場合は、それをうまく活用するのもワザの1つ。
「介護業界の専門用語で、ショートステイを連続で使用することを『ショートのロング』と呼んでいます。ショートステイは連続30日までという上限がありますが、上限に達したら1日帰宅し、再び30日使う。この『ショートのロング』を繰り返して、特養に数年入居している人もいます。ショートステイも人気サービスなので空きがないこともありますが、都心では入居待ちをし続けるよりは空室が出る確率は高いです」(高室さん)
一泊の料金はだいたい800~950円(自己負担1割の場合。食費別)。民間の老人ホームよりは、はるかにお得に使えそうだ。
→関連記事:ショートステイを賢く利用するコツ<1>~プロが教える在宅介護のヒント~
専業主婦をやめると、緊急度が格段にアップする
特養の入居に、家族の就労状況は大きく影響する。
「たとえば、Aさんが同居している娘は専業主婦で毎日家にいて、一方、Bさんの家は共働きのため日中は誰も見られないというケースであれば、Bさんが優先される可能性が高い。今、世の中は“70才まで働ける社会を目指そう”といったかけ声と、介護離職ゼロを応援するムードがありますから、それを追い風にしない手はありません。その上、専業主婦をやめて働き出すことで、『経済的にも大変なんだな』というアピールにもつながります」(高室さん)
さらに、企業に勤める人たちには、介護をサポートする制度が非常に充実していると横井さんは言う。
「2017年に施行された『改正育児・介護休業法』により、企業は介護による離職を防止し、仕事と介護の両立を支援する制度を設けることを義務づけられました。介護休暇を取ることはもちろん、介護費用を援助する企業もあります。
しかし、各社で調査を行ったところ、同制度のことを知っている社員はわずか5%しかいませんでした。これから親の介護が必要になりそうだと感じたら、速やかに職場の上司や人事部に相談し、支援制度を確認してください」(横井さん)
「うちはまだ大丈夫」と後回しにしていると、急に仕事を休んで迷惑をかける羽目になるかもしれない。
人は誰しも老い、衰えていくのが自然なこと。決して後ろめたさを感じる必要はない。早め早めに手を打ち、しっかり主張することが、介護で苦しまない最も重要なコツだ。
教えてくれた人
佐藤恒伯さん/介護評論家
高室成幸さん/ケアタウン総合研究所代表(http://caretown.com/)
※女性セブン2019年4月11日号
●介護施設の種類と選び方|親の状態・費用|チャートでわかる最適施設