介護中でも行きたい!【バリアフリー温泉】ガイド<1>
介護している人も、される人も、家族みんなで行けて、笑顔になれる。昨年の秋に出版された『バリアフリー温泉で家族旅行』(昭文社)の著者であり温泉エッセイストの山崎まゆみさんが、介護中の家族に優しい温泉施設選びの心得、オススメの施設をご紹介する。
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どんな状態の人でも温泉でくつろいでほしい
高齢者にアンケートを取ると「一番行きたい場所は温泉。しかし温泉入浴は困難がともなうため、諦めている」(「国土交通政策研究所」調べ)という温泉への憧れと諦念の声が浮かび上がます。19年間、温泉に携わってきた私は、どんな状態の方にも温泉を諦めてほしくない。むしろ足腰弱ったご高齢の方にこそ、温泉でくつろいでいただきたいと心から思うのです。
バリアフリー温泉選びのポイントとは
バリアフリー温泉とは、足腰の弱った人から、車椅子がなければ身動き取れない人まで、どんな状態の人にも安心して滞在できる宿のことをいいます。 具体的な条件をいえば…
・身体の不自由な人でも入りやすい風呂、もしくは貸し切り風呂がある
・バリアフリールームがある
・バリアフリー対応のトイレがある
・名湯が湧く
・宿側に気持ちの上でも、受け入れ体制が整っている 等
ただ、これらの条件を満たせば、誰もが温泉を楽しめるかというと、実は、忘れてはならない重要なポイントがあるのです。それは「マッチング」です。
そもそも身体の状態というものは、人それぞれ。足腰の弱った高齢者から、車椅子がなくては動けない障がい者など、人の顔が異なる様にそれぞれ個性であると私は捉えています。その多様な状態の人に、「滑る、危険、だから怖い」と思われている温泉(浴場)に、安心して心地よく入ってもらうには、工夫と心遣いが必要なのです。
そのためには、宿の主、スタッフの気遣い、そして症状に合わせた宿との「マッチング」が重要。例えば、右麻痺の人にとって、右側にある手すりはバリアフリーどころか、大変な障害(バリア)となります。だから、その利用者に適した部屋であるか、その利用者の状態で入れる風呂があるのか、それらを前もって判断しなければいけません。
宿のスタッフと前もって入念に行われる会話が大切になります。施設のバリアフリーの状況に加え、“受け入れの心得”がともなった温泉宿を慎重に選ばなければ、せっかく温泉に行ったものの、楽しめないという状況に陥ってしまいます。拙著『バリアフリー温泉で家族旅行』には可能な限り詳細な宿側の情報を載せています。それらの情報などを参考に宿のスタッフと話を進めていただければと思います。
バリアフリー温泉選びで、ハード(施設)のバリアフリーと同じか、いやそれ以上に重要視しなければならないのはハート(心)のバリアフリーなのです。温泉宿の中には、「温泉は誰もが享受するものであり、遠慮なく甘えてほしい」(新潟県えちご川口温泉 ホテルサンローラ)というメッセージを出しているところがあります。そうした良心的な宿の中から今回は、特に、Webで細かく情報を発信している施設をご紹介します。
世代を超えて利用できる:伊東温泉 青山(せいざん)やまと
「前身の旅館の時には、お断りせざるを得なかったお客様もいらっしゃいます。それが残念で、『青山やまと』を建てる時には、どのようなお客様も伊藤温泉にお入りいただけるようにしたいという社長の思いから、バリアフリールームをつくりました」と話すのは「伊東温泉 青山やまと」の支配人、島倉秀峰さん。
バリアフリールームは「琥珀」「翡翠」の2つ。客室には2つのリクライニング式のベットが置かれ、車椅子を自由に動かすことができる広さがあります。どちらにもコネクティングルームが付いているため、3世代、4世代の家族旅行も対応可能。実際、お爺ちゃん、お婆ちゃんの古希、米寿のお祝いに親族が一堂に会す場として使われることも多いのだそう。
「琥珀」「翡翠」の部屋には、遠く、静かな伊東の海が見渡すことできる展望露天風呂が付いています。
またこちらの宿には、貸し切り風呂「すずめの湯」があります。3〜4人入ることができる広さで、ここなら人に気兼ねすることなく、家族で入浴することも可能です。実は、この貸し切り風呂に行くには、階段が7段あるのですが、心配することはありません。宿のスタッフが車椅子を抱え、持ち上げてくれるのです。「伊東の湯に癒されてほしい」という、その気持ちからのサポート。
伊東という立地柄、海の幸が美味しいのはいうまでもありません。宿のホームページでは、「琥珀」「翡翠」の部屋の見取り図や動画が掲載されているので、一度、ご覧ください。
【データ】
「伊東温泉 青山やまと」
住所:静岡県伊東市岡203
http://www.seizanyamato.jp/index.html
実体験にもとづく工夫が随所に:小野川温泉 鈴の宿登府屋(とうふや)旅館
バリアフリー温泉は、まだ基本となる事例がなく、宿の多くは独自のやり方を貫いています。そういった創意工夫に溢れる宿をご紹介します。