《13年以上の勤務経験》マッハスピード豪速球・さかまきが語る介護職のリアル「勤務初日に便失禁の処理を5人経験してすぐに慣れた」、“魔法の言葉は”「だめだこりゃ」
お笑いコンビ「マッハスピード豪速球」のさかまきさん(43歳)。芸人として活動するかたわら、13年以上介護職員として勤務し続けている。コロナ禍には同じく芸人の安藤なつさん(45歳)とともに、介護福祉士の国家資格を取得。芸人ならではの視点で、ストレスを乗り越える秘訣などを明るくポジティブに語ってくれた。【全3回の第1回】
バイト先の閉店を機に飛び込んだ介護の世界。初日は衝撃の連続
――お笑い芸人として活動される中、数ある仕事から介護職を選んだ理由を教えてください。
さかまきさん:芸人の友人からのすすめで始めました。それまでは深夜帯に漫画喫茶のバイトをしていたのですが、お店がつぶれてしまったんです。夜勤の仕事を探していたら、芸人仲間が「介護だったら夜勤の求人もあるし、イメージしているほどしんどくないからいいんじゃないか」と教えてくれたのがきっかけです。介護の仕事を始めたのは13、14年前になります。
芸人と介護職を兼業している人は多いですよ。単純に介護職の募集が多くて仕事に就きやすいのと、施設にもよると思いますが、ぼくの働いているところはシフトの融通を利かせてくれるので、芸人の活動と両立しやすいんです。
――まったくの未経験から介護の世界に入られたそうですが、現場の第一印象はいかがでしたか?
さかまきさん:お年寄りとコミュニケーションをあまり取ったことがなかったので、初日は衝撃の連続でした。認知症を抱える方との会話が、これほどまでに成立しないものだとは知らなかったんです。
例えば、パジャマの上からベルトを締めているおじいさんがいて、先輩の介護士が「ベルトはいらないですよ」と声をかけたら、そのおじいさんはベルトを外してゴミ箱に捨てちゃったんです。それを見た時は思わず笑ってしまいました。異世界に飛び込んだような気分になりましたね。でも同時に、その噛み合わなさを面白く感じました。
「下の世話」も心から感謝されるから苦にならない。居酒屋バイトとの決定的な違い
――10年以上も介護の仕事を続けることができているのは、なぜでしょうか?
さかまきさん:介護職はきついイメージがあると思うのですが、ぼく自身は介護の仕事にあまりストレスを感じないんです。その理由は、基本的にすごく感謝してもらえる仕事だからだと思います。
居酒屋でバイトをしていたこともあるのですが、ビールを持っていけば「ありがとう」とは言われます。でも、それはあくまで形式的な言葉ですよね。一方で、介護の現場で下の世話やオムツ交換をしたときに利用者さんが言ってくれる「ありがとうね」という言葉には、心からの感謝を感じるんです。
何かをサポートすることによって、これほど深く感謝される仕事って、なかなかないと思うんです。それがストレスを感じない大きな要因ですね。
――介護職というと「汚い」「大変」というネガティブなイメージが先行しがちですが、いかがでしょうか?
さかまきさん:排泄介助などのイメージが強いですよね。ぼくも最初は不安があったのですが、出勤初日に便失禁をしてしまった方が5人くらいいらっしゃったんです。そんなことは滅多にないんですが、その日に一気に処理を経験したら、すぐに慣れて今では手に便がついてしまっても何とも思いません。
居酒屋で嘔吐物を掃除するのは嫌だなと思っていましたし、感謝されることもありませんでした。相手は酔っ払いですからね。でも介護の場合は、そこに「ありがとう」という感謝があるので苦にならないんです。
コロナ禍に安藤なつとともに国家資格を取得
――働きながら「実務者研修」を修了し、「介護福祉士」の国家資格を取得されたそうですね。きっかけは何だったのでしょうか。
さかまきさん:コロナ禍でお笑いライブなどの仕事がなくなって時間ができたので、資格を取ってみようかなと。当時からブログなどで介護のエピソードを発信して「介護芸人」のような活動はしていたのですが、無資格だと説得力がないなと感じていたんです。それで、2021年頃に実務者研修を受けました。
介護福祉士の試験を受けるには実務者研修の修了が必須なので、どうせならと介護福祉士も取ることにしました。ちょうどその頃、安藤なつさんも介護の仕事をしていて、同じタイミングで実務者研修を取っていたので、一緒に勉強しました。
介護福祉士の勉強用アプリを使って、お互いに問題の出し合いをしました。勉強していくうちに得意ジャンルが分かれてきて、なつさんは病気について詳しくなり、ぼくは失禁の種類について詳しくなりました(笑い)。「病気の安藤、失禁のさかまき」みたいな感じで、「くしゃみで漏れるのは腹圧性失禁」なんて言い合って楽しく勉強できました。おかげさまで、お互い一発合格です。
――資格を取得したことで、介護に対する考え方に変化はありましたか?
さかまきさん:変わりましたし、勉強してよかったと思っています。介護の資格と聞くとオムツの替え方のような技術を学ぶイメージがあるかもしれませんが、実は「利用者本位(利用者の意思や尊厳を最優先に考え、選択・決定を尊重する考え)」や「自立支援」といった介護の基本理念を学ぶんです。
以前のぼくは、忙しいからと自分都合で利用者を待たせてしまうことがありました。でも、それは利用者本位ではありません。また、自立支援の観点から言えば、何でもかんでもやってあげるのはダメなんです。自分で食事ができるのに手伝ってしまうと、その人の機能が落ちてしまい、自分で食べられなくなってしまいます。
無資格で始めた頃は「誰でもできる」と思っていましたが、理念を知らずに介護をしていると利用者の生活の質を下げてしまうことになります。プロの介護士はそこをしっかり理解しているかどうかが大きいのだと、資格の勉強を通じて学びました。
「だめだこりゃ」は魔法の言葉。芸人視点で介護のストレスも笑いに
――芸人と介護の仕事を長く両立されていますが、現場での経験がお笑いに生きたことはありますか?
さかまきさん:とんねるずさんの番組に出演した際、石橋貴明さんが「バイト、何やってんの?」と振ってくれたんです。「老人介護です」と答えたら、それがすごくウケて、そのまま即興で介護のネタをすることになり、現場はすごく盛り上がりました。オンエアはされませんでしたが(苦笑)。
それに、ライブのトーク企画でも介護のエピソードで優勝したことがあります。こうして取材を受けたり本を出させてもらったりと、介護の経験が、芸人としての活動の助けになっています。
――反対に、芸人としてのスキルが介護現場で役に立つことはありますか?
さかまきさん:それもありますね。介護の現場では、普通の感覚だとイライラしてしまうような場面が多々あります。例えば、認知症の方がご飯を食べた直後に「飯まだか」と聞いてくる。それが1回や2回ではなく、1日に何度も繰り返されるんです。
あるおじいさんは、結果的に1日で9回くらい食事をしたことがありました。でもぼくは腹を立てるのではなく「また言ってるわ」と、面白い現象として捉えるんです。そこをストレスにせず「面白い」と変換できるのは、芸人的な視点があるからだと思います。
ぼくの中で、いかりや長介さんの「だめだこりゃ」という言葉を、魔法の言葉として使っています。腹が立ちそうなときでも、心の中で「だめだこりゃ」とつぶやくと、深刻にならずに済むんです。これは現在、ご家族の介護をされている方にもおすすめですよ。
◆お笑い芸人、介護職員・さかまき
さかまき/1982年6月30日、岐阜県生まれ。2010年にお笑いコンビ「マッハスピード豪速球」を結成、ボケを担当。2019年、ビートたけし杯漫才日本一で優勝。芸人として活動する傍ら、介護職員として13年以上勤務する。コロナ禍に介護福祉士の国家資格を取得し、“介護芸人”としてSNSでの発信や講演など活躍の幅を広げている。著書に『介護芸人のコントな世界』、漫画原作に『お尻ふきます!!』などがある。
撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香
