《夜勤介護約13年》介護芸人・さかまきが語る「介護施設での入居者家族とのトラブル」 ゼロにはできない「転倒事故」へのクレームに現場は疲弊
お笑いコンビ「マッハスピード豪速球」で活動する傍ら、10年以上にわたり介護施設に勤務してきた、さかまきさん(43歳)。芸人としての独自の視点を交えながら介護現場の日常を発信し、2023年には介護福祉士の国家資格も取得した。超高齢社会における介護の現在地と、現場で直面する課題などについて話を聞いた。【全3回の第3回】
家族からのクレームはなぜ起こるのか? 転倒事故から考える介護の限界
――長年介護業界に携わり、現場で働いているからこそ感じる問題点は何でしょうか?
さかまきさん:一番難しいと感じるのは、利用者さん本人とのトラブルよりも、ご家族との関係なんです。例えば、転倒の問題ですね。どんなに注意を払っていても、施設での転倒事故をゼロにすることはできません。1対1で24時間ずっと見ているわけにはいきませんから。
でも、いざ転んでしまったときに「介護士のせいだ」「なぜちゃんと見ていなかったんだ」と責め立てるご家族の方もいらっしゃるんです。心配ゆえの言葉だとは分かります。ただ、100%防げるものではないということを理解していただかないと、現場の人間はどうしても疲弊してしまいますし、変なクレームに発展してしまうこともあります。これは根深い問題だと思っています。
転倒のリスクを減らす工夫はできますが、ゼロにするのは無理だという現実を共有すること。これから本格的な超高齢社会を迎える中で、そうした「介護の常識」みたいなものが世間に広く浸透していけば、現場の負担や理不尽なクレームはある程度減るんじゃないかなと思います。
――介護業界は「人手不足」が課題としてよく挙げられますが、現場レベルで改善されたと感じる部分はありますか?
さかまきさん:最近はかなりデジタル化してますね。昔は記録もメモもすべて紙だったので、書く作業が多くて大変だったんです。最近はiPadやパソコンに打ち込むスタイルになってスタッフたちと情報共有しやすいし、だいぶ楽になってきていると思います。
あとは「見守りセンサー」の導入ですね。ぼくが働いている有料老人ホームでも使っているんですが、これがすごいんですよ。各部屋の入居者の脈拍などの数字が一覧で表示されて、ベッドから起き上がったことや、立ち上がろうとした動きなどを感知して、ピピピピッてアラートで知らせてくれる。昔はそんな便利なものはなかったので、かなり進化していると感じます。
――システム化がどんどん進んでいくと思いますが、現場の職員としてさらにどのような技術を望みますか?
さかまきさん:ぼくはAIに期待しています。夜勤をしていると、夜中に何度もトイレに行く方がいらっしゃるんですよ。ご自身で歩けるから身体的な介助は必要ないのですが、認知症なのでトイレの場所が分からなくなってしまう。そこでぼくたち職員は、「トイレはあちらです」「手を洗うのはあちらです」と声かけをするんです。これって、必ずしも人間じゃなくてもできる部分だと思うんですよ。その状況に応じて的確な声かけをしてくれるAIシステムができたら、介護現場は劇的に助かるはずです。
なぜ若い介護職員は辞めてしまうのか?離職率の高さと新たな働き方
――外国人スタッフの方も現場では増えているのでしょうか?
さかまきさん:増えています。ぼくの職場にも中国系の方がいらっしゃいます。ただ、日本語の微妙なニュアンスが難しかったりするので、介護において重要になる「声かけ」の面では苦労されている部分もあるかもしれません。でも、ぼくの知っている外国人スタッフの方は、みんな本当に献身的に働いています。
外国人スタッフに対して、利用者さんも気にしていない方が多いと思います。ただ、中には抵抗感がある方もいらっしゃるので、そういう場合は担当者を変更しています。でも、とにかく介護業界は人が足りないので、ICTやAIの活用や、外国人の方々も活躍できる場にしないと人手不足は解消できないと思います。
――介護職員の待遇や離職率の高さについてはどのようにお考えですか?
さかまきさん:ぼくは正社員ではないので給料面に関してはそこまで詳しくないのですが、仕事のハードさを考えると、安いと感じる人が多いんだと思います。離職に関しては、若い方の方がすぐに辞めてしまう印象があります。新卒で正社員として入ったのに、あっという間に辞めてしまう、みたいな。逆に、年配になって働き始めた人の方が定着している気がしますね。
理由は、偏見かもしれないですが、若い方って現場でストレスを感じてしまうことが多い気がします。また、介護はどうしても死と隣り合わせの仕事なので、若いうちからそういう部分を目の当たりにすると、ネガティブな気持ちに引っ張られてしまうのかもしれません。でも、ある程度年齢を重ねていると、利用者さんの人間模様や命の営みが味わい深いと感じられる。
だから、人手不足解消のためには、条件や待遇を良くして、高齢の方の求人を強めたらいいんじゃないかと思います。介護を受ける側としても、年齢が近い人に介護されたほうが気が楽かもしれないですしね。
――最近は単発で働くような、スポット派遣の働き方も増えていると聞きます。
さかまきさん:そうなんですよ。ぼくの職場にも単発の派遣で来る方がいますし、副業という形で働くのもいいかもしれないですね。ただ、介護現場って利用者さんの細かい情報や状態を頭に入れておかないと適切な対応ができないので、毎回知らない人が1回だけ来るとなると、正直心配な面はあります。
でも、何回か入って慣れてくると「夜勤も任せようか」という流れになったりします。週に1回だけでも同じ施設を継続すれば働きやすいですし、人手も補充できます。これからの介護職の入り口になるかもしれません。
「家族介護」と「他人介護」は別物。家族介護の限界と排泄介助の極意
――家庭での介護に限界を感じて悩んでいる方々に向けて、現場からのアドバイスはありますか。
さかまきさん:家族がする介護と、ぼくらプロが他人にする介護はまったくの別物です。ぼくも身内の介護経験があるので分かるのですが、「施設に入れることは、家族を見捨てることになるんじゃないか」と罪悪感を持ってしまう方が多いんです。でも、それは絶対に違います。身内だからこそ感情的になってしまうし、自分ひとりで頑張って抱え込むと、精神的に追い詰められてしまいます。だからこそ、プロの介護サービスをためらわずに利用してほしいですね。
――さかまきさんは父親の介護をされているそうですね。
さかまきさん:はい、父が要介護2になり、認知症はありませんが、歩行などが難しくなってきたので2年ほど前から世話をしています。介護職の経験が生きる部分もありますが、仕事と家族介護は違うと痛感します。
例えば、いくらぼくがプロだとはいえ、親からすれば実の息子に下の世話をされるのには抵抗がある。ぼくもその気持ちがわかるので、変に遠慮してしまって、仕事のときのようにスムーズに介助できないんです。以前、父の尿パッドが濡れてしまったときにぼくが交換しようとしたら、拒否されてしまって。
他人だからこそ、お互いに割り切って遠慮なくできる部分があるんですよね。だから、ぼくができる介助であっても、あえて介護士さんやヘルパーさんにお願いするようにしています。
――「介護芸人」として、今後の超高齢社会に向けて果たしていきたい役割や展望はありますか?
さかまきさん:ぼくが原作を務めて、倉田真由美さんに漫画を描いていただいている『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)という作品があるんですが、これをテレビドラマ化してほしい! 今の時代、現場のリアルな状況を周知することはすごく大事だし、介護とはどういうものか理解していただくためにも、こんなにすばらしいドラマの題材はないと思っています。
◆お笑い芸人、介護職員・さかまき
さかまき/1982年6月30日、岐阜県生まれ。2010年にお笑いコンビ「マッハスピード豪速球」を結成、ボケを担当。2019年、ビートたけし杯漫才日本一で優勝。芸人として活動する傍ら、介護職員として13年以上勤務する。コロナ禍に介護福祉士の国家資格を取得し、“介護芸人”としてSNSでの発信や講演など活躍の幅を広げている。著書に『介護芸人のコントな世界』、漫画原作に『お尻ふきます!!』などがある。
撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香
