介護で使えるキレない技術|いらだちの抑え方、上手に怒りをコントロールする方法
介護でキレそうになった時に役立つのが、アンガーマネジメントの代表的なテクニックの1つ、6秒間待つ「カウントバック」だ。
「怒りのピークは長くて6秒。怒りによって分泌され、全身をめぐっていたアドレナリンが再吸収されるまでの時間が、だいたい6秒間だといわれています。その間、怒りの感情をコントロールできれば、瞬間的にキレることを防げます。“たった6秒?”と思うかもしれませんが、カッとして言い返してしまっている時などは、0.5秒くらい。6秒は充分な時間です」
その間、ただがまんし続けるのは難しいので、頭の中で数を数えてみるといい。
「ゆっくりと“100、97、94、91、88…”と、100から3つ飛びに数えていくのが『カウントバック』のコツ。3つ少ない数を考えること自体に集中力が必要なので、怒りから意識をそらし、しっかり6秒待つことができます」
頭の中に空白や白い紙などを思い浮かべて文字通り頭を真っ白にする「ストップシンキング」のテクニックもある。スマホなど近くにあるものの形や色を観察することでやり過ごす「グラウンディング」も有効だ。いったんその場を離れる「タイムアウト」も、衝動を抑えるのに役立つ。
「こうしたテクニックと併せて、日常の中で取り入れてほしいのが、『アンガーログ』、“怒りの記録”です。自分が、親のどんな言動や事柄に怒りを感じるのかを記録する。イラッときたら、すぐに『いつ、どこで、何があったのか、何を思ったのか』の事実と、“今感じた怒りは、10段階評価だと4くらいかな”と“怒りの温度”をメモしてください。落ち着いた頃に見返すと、自分がどんな時に怒るのかの傾向がわかり、自分の感情を客観視することができます」
“伝え方上手”は介護もスムーズ
薬をのんでくれない、お風呂を嫌がる、デイサービスに行きたがらない…。説得しても聞き入れてもらえないと、やっぱりイライラしてしまう。
「“なんで薬をのまないの!”などと言いたくなりますが、老親に“なんで”と聞いても仕方ない。“お母さんって絶対、お風呂を嫌がるよね”という言い方も逆効果です」
「なんで」「絶対」「いつも」は相手を責める言葉なので、親はかえって反発する。 「しっかり」「きっちり」「ちゃんと」などの“程度言葉”もおすすめできない。「しっかり片づけて」と言っても、親が思っている「しっかり」と、自分が思っている「しっかり」とでは程度が違うため、その食い違いが怒りの原因になる。
「よく“5W1H”(*)といいますが、より詳細な“6W3H”を使うのがいいでしょう。いつ、どこで、誰が、誰に、何を、なぜ、どのようにするのか。どれだけするのか、いくらかかるのか。私たちは“なんでできないの”とか“こうするのが当たり前”と、自分の価値観で判断してしまいがちですが、介護が必要な親に対しては、かなり細かく言わないと伝わらないのです」
(*)5W1H…What(何を)やHow(どのように)など、伝えたいことの趣旨を明確にするため、発言や文章に入れるとよいとされているキーワード。
過去のことを持ち出すのもNGだ。
例えば「昨日、デイサービスに行くって約束したでしょ?」と言っても、相手は約束したことなど記憶にない。忘れたことを責めるのではなく、「今日は、お母さんの好きな手芸をやるらしいよ」とか、「どんな歌を歌うのかな。楽しみだね」などと、自分から行きたくなるような前向きな会話を心がけたい。
「アンガーマネジメントは、怒らないことを目指すのではありません。怒りも自然な感情なので、どう向き合っていくかが大切です。怒りの感情を引きずってしまいそうなら、好きな音楽を聴く、食べたいデザートを思い浮かべる、かわいいわが子やペットのことを思い浮かべるといった、“気分転換メニュー”を用意しておく。自分に“大丈夫”とか沖縄言葉の“なんくるないさ”などと言い聞かせる『コーピングマントラ』という方法も、気持ちが楽になりますよ」
上手に自分の怒りをコントロールできれば、それが介護の自信にもつながるはずだ。
教えてくれた人
川上淳子さん/アンガーマネジメントコンサルタント(https://www.angermanagement.co.jp/facilitator/2115)。著書に、『高齢者に「キレない」技術』(小学館)がある。
※女性セブン2020年2月27日号
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