介護で使えるキレない技術|いらだちの抑え方、上手に怒りをコントロールする方法
毎日身を粉にして世話をしているのに、親は「薬なんていらない!」「食事の味がうすい!」と文句ばかり。それにキレても仕方がないとわかっていても、いらだちを抑えられないこともある。介護のための“怒りとのつきあい方”とは。
財布を盗まれたと話す認知症の親に対して怒ってしまう…
「財布がない。お前、おれの金を盗んだんだろう!」
そう言いながら認知症の義父がA子さんを睨みつけた。
「私が盗むわけがないでしょう。お義父さんがどこかにしまったんですよ!」
言い返しながら部屋中を探し回る。ようやく見つけて「ほら、あった!」と見せると、義父は、「お前が隠したんだから、場所を知ってるのは当然だ」と平気な顔。A子さんは怒りが抑えきれず、つい「いい加減にしてください!」と怒鳴ってしまった。
義父は大事な財布を“自分で見つからない場所にしまった”ことを、忘れただけ。もちろんA子さんだって、わかってはいるのだけれど──
休むことなく続く、食事や入浴、排泄の世話。親の介護は大変だ。毎回のようにみそ汁をこぼされたり、トイレ以外の場所で失禁されたりすれば怒りたくもなるし、忙しいのに同じ話を繰り返し聞かされると、「その話はさっきも聞いた!」とキレたくもなる。
認知症でなくても、高齢者は感情を抑制する脳の前頭前野の縮小が始まっているため、どうしても怒りっぽくなってしまう。それに対して言い返したりキレたりすると、相手に“負の感情”が残ってしまい、介護されるのを嫌がるなど、逆効果になることが多いのだ。親の介護で「キレない」ためには、どうすればいいのだろう。
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「まあ許せる」のゾーンを広げる
「まず自分の“怒りの正体”を見極めることが大切です」
そう話すのは、『高齢者に「キレない」技術』(小学館)の著者で、アンガーマネジメントコンサルタントの川上淳子さんだ。
「私たちは何に怒っているのか。その正体は“べき”です。“みそ汁はこぼさずに食べるべき”“義父は毎日介護している私のことを泥棒扱いすべきではない”という、自分の中の“べき”が裏切られた時、人は怒りを感じます。“べき”には、【1】許せる、【2】まあ許せる、【3】許せないの3つの境界線があります。キレないためには、【2】の『まあ許せる』のゾーンを広げて、安定させること。そして、それを越えたら、機嫌に左右されずに適切な言葉で上手に伝えられるようになるのが望ましいのです」(川上さん・以下同)
この「まあ許せる」のゾーンを広げるには、相手の“本当の感情”を知ることも大切だと、川上さんは言う。
「相手の怒りの背景にあるものを理解することが大切です。感情は海に浮かぶ氷山のようなもので、本当の気持ち(第一次感情)は表に出ていないことがほとんど。怒りは第二次感情といわれ、本当の気持ちではありません。氷山の9割が水面の下に隠れているように、怒りの下には、その背景となる不安や心配、恐怖、悲しみ、寂しさといった、ネガティブな“本当の気持ち”が隠れているもの」
例えば「盗んだだろう!」と言う義父の第一次感情は“財布がなくて不安”。その感情を想像すれば、「まあ許せる」と思えるかもしれない。
「怒りは、相手が親子などの身近な人であればあるほど強くなる。毎日介護しているのならなおさらでしょう。“自分をわかってくれる”“相手をコントロールできる”と思ってしまうから、裏切られると怒りがわいてしまうのです」
元気な頃を知っているからこそ、「食事もまともにできないなんて」「どこまで世話を焼かせるの?」というマイナスの感情が生まれてしまうのだ。
でも、親がみそ汁をこぼしたのは、たんに指に力が入らないからかもしれない。“量が多くて器が重かったのかな?”と推測できれば、「許せるゾーン」が広がる。「次はもう少し量を減らすね」と、キレずに対応できるのだ。