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高木ブーの名付け親は?ドリフメンバーの芸名が決まった日【第9回 「ブー」という名前】

「高木ブー」という芸名の名付け親は、クレージーキャッツのリーダーであるハナ肇さんだとか。以来、50年以上にわたって「ブー」として生きてきた高木さん。文字通りスマートとは言えない響きだが、ご本人としては、長い付き合いである「高木ブー」という名前をどう思っているのか。率直な気持ちを語ってもらった。(聞き手・石原壮一郎)

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ハナ肇さんの「お前はそれでいいや」のひと言で決まった

 誰も知らないと思うし、自分でもたまに忘れそうになるけど、僕の本名は「高木友之助」って言います。でも、「友之助」より「ブー」のほうが、はるかに長い付き合いになっちゃった。本名を目にする機会は、病院で保険証を出すときくらいかな。

 学校を卒業してプロのミュージシャンになるときに、自分で「高木智之」っていう芸名を付けた。「友之助」って漢字3文字だし「~之助」って時代劇みたいだし、ちょっと古臭い気がして好きじゃなかったんだよね。「智」は、どうしてその字にしたんだっけな。忘れちゃったけど、賢そうに見えると思ったのかもしれない。

 1964(昭和39)年にザ・ドリフターズに入ってからも、最初のうちは「高木智之」だったんだけど、みんなには「ブータン」って呼ばれてた。ある日、渡辺プロダクションの社長の渡辺晋さんの家で集まりがあって、クレージーキャッツのリーダーであるハナ肇さんが、長さんに「お前たち、芸名はあるのか?」って聞いたんだよね。

 長さんが「ありません」って答えたら、じゃあ、俺が今から付けてやるって流れになった。僕は内心「もう智之っていう芸名があるのにな……」と思ったけど、事務所の大先輩であり雲の上の存在だったハナ肇さんが、わざわざ「付けてやる」って言ってくれてるのに、口なんてはさめるわけがない。

 長さんは本名は「碇矢長一」なんだけど、もっと伸びそうで響きがいいからということで「いかりや長介」に。本名は「加藤英文」の加トちゃんは、愛称をそのまま生かして「加藤茶」に。そんなノリで「仲本工事」も「荒井注」も決まって、最後に僕の番になった。

 ハナさんが僕の体をじっと見てる。嫌な予感を抱きながら待ち構えていたら、おもむろにこう言った。

「お前は『ブータン』って呼ばれてるのか。じゃあ、それでいいや」

 よくわからないから、「あのー、それでいいっていうのは?」って恐る恐る聞いたら、キッパリと「ブーでいいんだよ」って。

「ブー」だから、ノホホンと自然体でやってこれた

 聞いたときは正直、いくら太っているからって「ブー」はあんまりじゃないかって思ったなあ。もちろん、嫌ですなんて言えないんだけど。でも、高木ブーとして仕事していくうちに、いい名前だなって気がしてきた。ほかのメンバーの名前も、それぞれひとひねりあって、一度聞いたら忘れないしね。ドリフが人気者になれたのは、ハナさんの秀逸なネーミングセンスのおかげもあったかもしれない。

『8時だョ!全員集合』で顔が知られ始めると、街を歩くと子どもたちが「ブーだ、ブーだ!」とか「おい、ブー」とか言ってくる。最初は「あー、俺はブーになっちゃったのか」って寂しく感じたこともあるけど、それはほんの短いあいだだけだった。

 みんなが自分の名前を覚えてくれて、気軽に声をかけてくるなんて、こんな嬉しいことはないよね。80歳を超えた今だって、ありがたいことに、みんなが「ブーさん」って呼んでくれる。「高木さん」だと、逆にちょっとこそばゆくなっちゃう。

「ブー」だったから多くの人に親しみを持ってもらえたし、そしてたぶん「ブー」だったから、肩に力を入れたり無理に背伸びしたりしないで、ノホホンと自然体でやってこられたんじゃないかな。「ブー」という響きに、しかめっ面や強烈な自己主張は似合わないもんね。これも「名は体を表す」ってことかな。

 名付け親のハナさんに感謝しながら、これからも「ブー」として生きていきます。初対面の人とかよく知らない人だと、遠慮してるのか「高木さん」って言う人も多いんだけど、ぜひ「ブーさん」って呼んでください。

「みんなが“ブーさん”って声をかけてくれる。ありがたいことだよね」

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高木ブー(たかぎ・ぶー)

1933年東京生まれ。中央大学経済学部卒。いくつかのバンドを経て、1963年にザ・ドリフターズに加入。超人気テレビ番組『8時だョ!全員集合』などで、国民的な人気者となる。1990年代後半以降はウクレレ奏者として活躍し、日本にウクレレブーム、ハワイアンブームをもたらした。CD『美女とYABOO!~ハワイアンサウンドによる昭和歌謡名曲集~』など多数。著書に『第5の男 どこにでもいる僕』(朝日新聞社)など。2月16日にハワイで開催される「ウクレレ・ピクニック・イン・ハワイ」に出演!

取材・文/石原壮一郎(いしはら・そういちろう)

1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」など著書多数。この連載ではブーさんの言葉を通じて、高齢者が幸せに暮らすためのヒントを探求している。

撮影/菅井淳子

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●高木ブー悲嘆「志村へ。そしてドリフターズ時代のこと」

●毒蝮三太夫、ラジオの中継を自粛中「新型コロナウイルスは戦争より怖い?」

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この記事へのみんなのコメント

  • ハワイ好き

    高木ブーさんの穏やかなお人柄がうかがえる連載で、毎回楽しみにしています。 ブーさんというお名前、とてもいい響きですよね。私の父と同じ歳のブーさん、いつまでもお元気でご活躍なさってください。

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