健康

1日1万歩より健康効果が高い1日30分の「インターバル速歩」とは?動脈硬化、糖尿病、認知症も予防

 高齢化が進む日本。2025年には65才以上の約5人に1人が認知症を患うと推計されている。だが、そんな予想を覆す方法が話題だ。それが、“インターバル速歩”の後に“牛乳”を飲むという方法だ。信州大学で開発されたこの方法で、生活習慣病を防ぐコツを伝授します!

「1日1万歩」よりはるかに効果的

運動不足が慢性炎症(生活習慣病)を招く解説図

 健康増進や体力づくりのために、“1日1万歩”歩くのを目標にしている人も少なくない。だが、「それには大きな誤解がある」と、信州大学大学院教授の増木静江さんは指摘する。

「1日1万歩は、厚生労働省の掲げる『健康日本21』でも提唱されています。そこで、100人もの被験者にトライしてもらいましたが、私たちの研究では毎日1万歩歩いても、期待できるほど、体力の向上や生活習慣病の改善にはつながりませんでした。ところが、1日30分間のインターバル速歩を週4回、5か月間続けると、ひざの筋力や持久力の指標である最高酸素摂取量が10~20%上昇し、その結果、最高血圧も最低血圧も改善。脳卒中の発症リスクも40%低減したのです。

 つまり、上図にあるように運動不足による筋萎縮を最初に止められれば、生活習慣病は防ぐことができるのです」(増木さん・以下同)

インターバル速歩を継続して効果が現れるスケジュール表

 ほかにも、5か月間続けると、体力の向上に伴って、高血圧・高血糖・肥満などの生活習慣病指標が20%改善。睡眠の質が向上し、さらに認知機能も改善したという。

「体力低下は医療費の増加と見事に相関しますが、インターバル速歩により体力が10%向上すれば、医療費の20%を削減できるのです」

インターバル速歩で最高血圧が改善した比較グラフ

1日30分、「ゆっくり歩き」と、「速歩き」を3分間交互に行うだけ

 では、具体的にどうすればいいのだろうか?

「運動生理学では、体力向上の国際標準は、まず個人の体力測定を行い、『その人が出せる最大の体力の60%以上の強度で運動を行い、その運動を1日30分、週3~4日で5か月間続けること』となっています。ですが、歩くスピードを速くして、黙々と歩くだけでは面白みがなく、しんどいため長続きしません。そこで、自身の最大体力の70%以上の運動負荷をかけながら、誰でもできるエクササイズにアレンジしたのが“インターバル速歩”です」

 やり方は至って簡単だ。

 リラックスしながら歩く「ゆっくり歩き」と、自分が“ややきつい”と感じるスピードで歩く「速歩き」を3分間交互に行うだけ。これを1日30分×週4日行うのが目標だ。

「速歩を行う時のポイントは、背筋を伸ばして腕をよく振り、大きめの歩幅で速歩きをすること(下イラスト参照)です。そして大切なのが、この直後に牛乳を飲み、毎日記録をつけることです」

 なぜ記録をつけるかというと、目標や課題が明確になり、励みになるからだ。

インターバル速歩をする姿勢のポイント解説イラスト

運動後30分以内に牛乳を飲むのがコツ

 では、なぜ歩き終えた直後に牛乳を飲む必要があるのか?

「ハードな運動を行うと、ごくわずかですが筋肉線維に損傷が起こります。すると、運動直後の30分の間、筋肉の損傷を修復する活動が活発になります。このタイミングで修復材料となるたんぱく質、すなわちアミノ酸を含む食品を摂取すると、効率的にアミノ酸が筋肉に取り込まれるため、修復作業が加速するとともに、筋肉が太くなり、パワーが増すのです」

 たんぱく質が必要ならば、肉や魚でもよさそうだが。

「肉や魚を食べるには時間や手間がかかることと、消化に時間がかかるため、吸収が速く、飲みやすい牛乳などの乳製品が最適だと思います。ちなみに飲む量としては、約300ml程度がいいですね」

 この際、少量の糖質を一緒に摂るとインスリンが出て筋肉へのアミノ酸の取り込みがさらに加速するため、ヨーグルトにジャムなどを混ぜて摂るのもおすすめだ。

「豆乳もたんぱく質を豊富に含んでいますが、たんぱく質を構成しているアミノ酸の量が牛乳と少し違います。たとえば、筋肉合成に重要な役割を果たすロイシンが、牛乳の80%程度なので、牛乳が苦手な場合は、豆乳を多めに飲むようにするといいと考えています」

乳製品摂取で慢性炎症の抑制力がアップしたグラフ

 なお、運動直後に摂る牛乳の量を約100mlと約300mlで比較したところ、後者の下肢筋力が4倍近く増加。炎症促進遺伝子の炎症抑制も5倍近く向上することがわかっている(上グラフ参照)。

 インターバル速歩後に牛乳を飲む実験を開始した2012年当時は、月に1回、参加者が公民館に集まって記録データを確認していたが、今は専用アプリ(https://www.mhlw.go.jp/www1/topics/kenko21_11/top.html)が誕生し、より手軽に行えるようになった。

「このアプリを使えば、体力測定も簡単にでき、最大体力の70%で歩く時間も瞬時にわかります。解析結果に自己比較や他者比較などやる気を高める機能もついて、利用しやすくなりました」

 通勤や食料品の買い出し時など、時間を見つけてさっそく挑戦してみよう!

信州大学と松本市(長野県)が開発した「インターバル速歩用」アプリのイラスト

 信州大学と松本市(長野県)が40才以上の人の健康増進のために「松本市熟年体育大学」を始め、その過程で、能勢博特任教授監修のもと開発されたのが「インターバル速歩用」の無料アプリ。有料コンテンツもある。ios対応/グラムスリー。

高たんぱく食品は朝に摂るのが効果的

 乳製品は高たんぱく質食材として知られるが、食べるタイミングでせっかくの栄養素を逃してしまうこともある。

 そこで、管理栄養士で睡眠改善インストラクターの篠原絵里佳さんに、効果的に摂るタイミングを聞いた。

「たんぱく質は3食でバランスよく摂るのが理想ですが、乳製品は朝摂るのがおすすめです。なぜなら、牛乳に含まれるトリプトファンというアミノ酸が、日光を浴びたり、歩くなどの運動をすることで日中にセロトニンとなり、それが夜、睡眠ホルモンのメラトニンに変わり、上質な睡眠が得られるからです。納豆にもトリプトファンが多く含まれているので、朝に食べるといいのですが、納豆に含まれるナットウキナーゼには血栓を溶かす働きもあります。

 ナットウキナーゼの効果が発揮されるのは5~8時間後といわれ、血栓は深夜から早朝にできやすいので、血栓予防のためには、夜食べる方が効果的です。動物性のたんぱく質は体づくりに適している一方、豆乳などの植物性のたんぱく質は抗酸化作用が高いのが特徴。それぞれの長所を生かして、朝に牛乳と豆乳両方を摂るのもおすすめです。なお、ヨーグルトの乳酸菌は胃酸に弱いので、胃酸が薄まっている食後に摂った方が、どちらかといえば効果的です」

教えてくれた人

増木静江さん/信州大学大学院医学系研究科スポーツ医科学教室・バイオメディカル研究所教授。

イラスト/青木宣人

※女性セブン2019年11月28日号

●認知症リスク軽減に「インターバル速歩」「会話しながらオセロ」「地中海食」

●やっぱり歩行は健康のカギ “1日8000歩、20分の速歩き”が目標

●散歩のすすめ|予防できる病気と歩数、正しい歩き方

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