なぜ薬には副作用があるのか。知らないと怖い薬の知識
風邪をひいたり頭痛がしたり、体調を崩したときにお世話になる薬。もらうたびに驚くのが薬が進化していることだ。かつては1日3回飲んでいたのが朝1回になったりと、飲み方も変わってきている。いったいどういうところが違うのか。副作用はないのか。帝京大学薬学部教授の丸山一雄先生が丁寧に教える薬の飲み方講座。
なぜ薬には副作用があるのか
「薬はどのようにして効くのかわかりますか? 皆さんの体を構成するすべての細胞には血液がめぐっています。口から薬を飲むと、まず胃に入って溶けて、十二指腸から小腸に入っていきます。胃や小腸から薬を吸収した血液は門脈という血管へと流れ込んでいきます。そしてその血液は肝臓を通り、心臓に入り、肺を通って心臓に戻り全身に出ていきます。そして、血液が運んできた薬が全身の細胞に行き渡って、効いてくるのです」
帝京大学総合博物館の「大学教授が教える!知って得するお薬と健康の話」で、丸山先生はまず、薬の流れを説明した。つまり、胃薬だから胃だけに届くとか、頭痛薬だから頭にだけ届くということではなく、薬は効いてほしいところにも、効いてほしくないところにも、全身の血管を通じて全細胞に行き渡ってしまうということだ。効いてほしくないところに効いてしまうのが、「副作用」である。
「抗がん剤はがん細胞だけに届いてほしいですよね。でもそういうわけにはいかないのです。全身をめぐる血液を通じて全細胞に行き渡ってしまう。がん細胞は分裂の活発な細胞ですから、抗がん剤はそうした細胞自体あるいは細胞の中のDNAに致命的な障害を及ぼすように設計されています。
しかし私たちの体には、分裂の活発な細胞がほかにもあります。たとえば血液を作る造血細胞、消化管の細胞、髪の毛や爪など。髪の毛や爪はしょっちゅう伸びてきますよね。そうすると抗がん剤は毛根や爪にも作用してしまうので、毛が抜けたり、爪が変形・変色したりします。
また、腸管の栄養の吸収に関係している微絨毛(びじゅうもう)という細胞は1日で入れ替わるほど分裂の速い細胞なので、これも抗がん剤の影響を受けて一部の細胞が死にます。そうすると栄養を吸収する細胞が減って、あまり栄養がとれなくなり、痩せてくるのです。これが副作用です」
薬は場所を選んで効かせることができない。これが薬について知るべき知識の第一だ。
血中濃度が低いと効かず、高すぎると副作用が出る
そうはいっても、飲んだ以上、薬には効いてもらわないといけない。その時に大事なのが、血中濃度を維持することだという。薬には、これ以上の濃度でないと薬効を発揮できないという濃度がある。薬は全身をめぐる血液を通じて全細胞にわたっているから、腕から採血した血液の濃度が、必要な濃度の半分ならば、効いてほしい組織の濃度も半分になっている。この血中濃度を維持することが、薬を服用するときにとても大事なポイントだ。
「1日3回飲まなければならない薬であれば、朝飲むと昼前に血中濃度が下がってきます。だからまた昼に飲まなければならない。そしてまた夕方に血中濃度が下がってきますから夜にも飲まなければならない。このように定期的に飲んでいると、薬の血中濃度が維持されて、薬が長時間効いている状態になります。だから飲み忘れたりすると、その時間は薬が効いていない。しかし飲み忘れたからといって2倍飲んだりするのは絶対にやめてください。血中濃度が高くなり、副作用が出てきたりします。必ず定められた間隔を守りましょう」
もっとも血中濃度を維持しやすいのは点滴だという。しかし点滴は長時間拘束されるので利便性がよくない。かといって1日3回飲むのはめんどくさいし、ついつい忘れてしまう。なんとか1日3回飲まなくても血中濃度を維持できないかという観点から、研究・開発されたのが、長時間効く徐放(じょほう)製剤である。
長時間効果が持続する徐放製剤
近年、朝1回飲めばいい、という1日1回しか服用しなくてよい薬が増えている。これがゆっくり長時間効果が持続する徐放製剤と呼ばれるものだ。
カプセルであれば、すぐに胃の中で溶けて効く薬と、胃では溶けないで腸管に行ってからゆっくり溶けて効く薬が組み合わされて入っている。これは吸収場所を変えることで時間差をつくって効果を持続させるものだ。
また、錠剤であれば、何層にもなっている外側から溶けていって、最後に中の核がゆっくり溶ける、というタイプもある。これは溶ける時間差を利用するものだ。
服用する側としてはとても便利だが、ひとつ不安がある。長時間効果が持続する分、強い薬を飲んでいるのではないかということだ。
しかし丸山先生によれば、1日1回の投与で済む徐放性剤のほうが副作用が少ないのだという。なぜなら、1日3回飲むと、飲む直前は血中濃度が低くなり、飲んだ後は血中濃度が跳ね上がるが、1日1回飲んで時間差で有効成分が溶け出すように調整されている薬のほうが、血中濃度が安定するからだという。つまり、血中濃度の上げ下げが頻繁にあるより、一定しているほうが副作用も少ないのだ。また、飲む回数を少なくした方が飲み忘れを起こす心配が減る。
絶対に噛んではいけない薬がある
徐放製剤は、早く効く薬と遅く効く薬を組み合わせてカプセルに閉じ込めたり、製剤技術を駆使して溶ける時間をずらしたりした錠剤として出来上がっている。だから絶対にやってはいけないことは、噛み砕いたり、カプセルを分解したりすることだ。
「必ず守ってほしいのは、徐放製剤は口の中でバリバリと噛んではいけないということです。必ずゴクンと飲んでください。噛んでしまうと徐放製剤の薬剤がいっきに出てきてしまいます。また、カプセルのものはカプセルを外したりするのは絶対に止めてください」と丸山先生。
丸山先生は、飲んでいる薬が徐放製剤かどうか見分ける方法を教えてくれた。
「徐放製剤には次のマークがついています。
CR(Controlled Release、放出制御)例:アダラートCR錠など
LA(Long Acting、長時間作用)例: ユニフィルLA錠など
SR(Slow Release、徐放)例:ボルタレンSRカプセルなど
こういう記号がついていたら、薬効が長時間ゆっくり効いてくる薬だな、と思ってください」(注意:マークがない場合もある。またL(Long Acting)、R(Retard)などもある)
胃薬なのに胃で溶けない薬も
薬のなかには、胃では溶けないで腸で溶けるように設計されている薬もある。胃液は酸性だが腸液は弱アルカリ性なので、酸性の胃液で効力を失う薬や、あるいは腸で吸収させたい薬などがこれにあたる。こうした薬を腸溶剤という。見た目は普通の薬と一緒なのだが、胃で溶けないように何層にも腸溶性ポリマーでコーティングされている。こうした薬も噛み砕いてしまったら、胃で溶けてしまう。じつは胃薬などにもこうした腸溶剤があるという。
「胃酸の分泌を抑え胃潰瘍や逆流性食道炎を治すプロトンポンプ阻害薬という薬は、胃薬なのに胃で溶けてはいけないんです。なぜかというと、胃で溶けてしまうと胃で分解されてしまうから。腸管にいって初めて吸収され、血液に運ばれて血液側から胃に働いてほしいのです。こうした腸で溶ける薬(腸溶剤)も絶対に割ったり噛み砕いたりせずに飲み下しましょう」
また、心臓に効くニトログリセリン舌下錠のように、舌下から吸収させる薬もある。
「狭心症の発作が起きたり、発作が始まりそうになったら、安静にして1錠だけ取り出し、舌の下に入れて溶かして下さい。舌下から吸収されて1分ほどで効き始めます。飲み込んでしまうと効きません。飲み込んでしまうと肝臓でほとんど分解されてしまいますが、舌の下に置いて舌の裏の粘膜から直接吸収させると、心臓に行くからです」
薬は正しい飲み方をしないと効かないか副作用が出ることがある。このように薬を必要な場所に適切に届ける技術を「DDS(ドラッグデリバリーシステム)」といい、まさに薬物送達学研究室教授である丸山先生の専門領域である。
「DDSという言葉を知るだけで薬の飲み方が違ってきます」(丸山先生)。
まずはしっかり医師と薬剤師の説明を聞くことから始めよう。
◆取材講座:薬学部40周年記念連続講座「大学教授が教える!知って得するお薬と健康の話」第3回「薬に技あり!秘められた製剤技術の紹介」(帝京大学総合博物館)
文・写真/土肥元子(まなナビ編集室)
※初出:まなナビ