「ピロリ菌を除去すると逆流性食道炎になる」はどこまで正しい?
日本医科大学病院で開催された「ピロリ菌と胃がん-最近の話題」講座レポート3回目。前の記事「胃がん患者のピロリ菌感染率は驚愕のパーセンテージ」「胃がん発症者の99%がピロリ菌に感染。その感染ルートと対策は?」に続き、除菌後に起こるといわれている逆流性食道炎について、日本医科大学消化器内科学教授で同大付属病院内視鏡センター長の貝瀬満先生に訊いた。
逆流性食道炎が悪化する人もいれば改善する人も
ピロリ菌を除菌すると慢性胃炎が改善する。すると胃酸分泌が盛んになりすぎて、中には逆流性食道炎になる人がいる。
逆流性食道炎とは、胃の内容物が食道に逆流してとどまることで胸やけなどが起こるもので、原因として、胃と食道のつなぎ目の緩みや、胃酸の分泌過多などが挙げられる。
今から20年前、十二指腸潰瘍の患者にピロリ菌除菌し3年間経過観察したところ、ピロリ菌を除菌していない患者では逆流性食道炎が10%ちょっと現れたが、除菌した人ではその倍の数字となったことが論文で発表された。
その発表は世界に衝撃を与え、胃潰瘍や十二指腸潰瘍は治るが逆流性食道炎は悪化するのか、ピロリ菌除菌はしてはいけないのか、という議論が巻き起こり、多くの調査がされたという。
貝瀬先生のグループでも、患者100人の5年後の経過を追った調査を行った。
「それによると、100人のうち、逆流性食道炎が悪化した人が10%くらいいた一方で、逆流性食道炎が改善した人も約7%いました。差し引きすると、確かに逆流性食道炎が悪化した人の方が数パーセント多いのですが、よくなる人もいるのです」
貝瀬先生によれば、逆流性食道炎を持っている十二指腸潰瘍の人は除菌することで改善する可能性が高い、しかし逆流性食道炎を伴う胃潰瘍の人で、食道とのつなぎめが緩い人の中には、除菌によって逆流性食道炎が悪化する人が10%くらい出てくる、ということである。
しかし、ピロリ菌を除菌することで慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍が改善し、胃がんを発症するリスクが下がるのであれば、どちらが健康にとってよいかは明らかだろう。
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「胃酸を抑える薬を飲んで腸に影響はないのですか?」
講座後、さまざまな質問が寄せられたが、その中に、「逆流性食道炎のために胃酸分泌を抑える薬を飲むことがあるが、口から入ったばい菌を殺す胃酸を抑えても、腸は大丈夫なのでしょうか」という質問があった。
貝瀬先生は、その認識は正しいと答え、次のように付け加えた。
「なぜ胃酸があるのかというと、かつて人類は汚いものを食べていたので、そうした菌を殺すためのものなのです。しかし現代ではそういう菌が口から入るチャンスは減っています。たしかに一部の感染症では、胃酸を抑制する薬を飲んでいる人と飲んでいない人とでは、感染率が多少違うことがありますが、心配するほどのことではありません」
内視鏡はここまで進化している
また、胃カメラ(内視鏡)について、「鼻から入れる胃カメラは痛くないということですが、それではだめなのでしょうか」との質問もあった。
貝瀬先生によると、鼻から入れる経鼻内視鏡はつらくないというメリットはあるが、精度が劣るという。また、生検(粘膜からの組織採取検査)が難しいので、日本医科大学付属病院内視鏡センターでは経口内視鏡を使っているという。検査の時には麻酔もかけるので決してつらくはないとのことである。
講座では内視鏡で見た胃粘膜の画像も多数公開されたが、驚いたのがその最新の内視鏡の機能である。色素内視鏡は色素を患部に撒くことで、通常見えないものを浮かびあがらせることができる。また、顕微拡大内視鏡は500倍、顕微鏡レベルまで拡大して見られる。そこに青い色素をまくと、細胞レベルまで見ることができる。
こうした最新鋭の内視鏡を使って行われるのが、病変部の粘膜下層に生理食塩水やヒアルロン酸を注射して盛り上げ、内視鏡から出したフックナイフでひっかけて粘膜を切り、その下の層を剥離していくESD(粘膜下層剥離術)という手術だ。こうした内視鏡の出現で、今までは手術の難しかった胃の穹窿部(きゅうりゅうぶ=胃の一番上部)にできたがんも内視鏡だけで切除することができるようになったという。
多くの人を悩ませるピロリ菌について学べ、最新の治療まで紹介されるこうした一般向けの講座が開かれていることに感謝したい。(了)
◆取材講座:第38回胸やけ・べんぴ・おなかの問題教室「ピロリ菌と胃がん-最近の話題」(日本医科大学付属病院 )
文/まなナビ編集室 医療・健康問題取材チーム
※初出:まなナビ