83才女性「苦労した手でにぎる」はるえ食堂名物焼きおにぎり
すべてのおにぎりは、小柄なはる江さんの、意外にも大きな手のひらで、1つ1つ握られる。持っても崩れないけれど、口の中でふわっとお米がほどけるように、優しく包み込むように握るのがポイントだという。
注文から30分。ようやく焼きおにぎりが完成する。焼き鮭と黒ごまの香ばしい香りが食欲をそそる。表面はカリッ。中はふわっ。鮭、塩、ごま。次々に押し寄せる舌と鼻からの刺激に、思わず2つ目に手が伸びる。
「ぅめーが(おいしい)?」
その声を聞くと、疲れも吹き飛ぶと、常連の女性客が笑う。
「ここのおにぎりは冷めてもうめえんだ。お店で出来たてのあつあつを食ったら、ものすげえうめはんで、もう1つ買って、今度は持って帰って食う。みんながいくつも買って、人気があるはんで、すぐ売れてまる」
古川市場で働いている人たちははる江さんのおにぎりを毎日のように食べている。
「はるちゃんのおにぎりは、お米が違うんだって。コンビニのつぶれたような感じと違って、1粒1粒がイキイキしてる。ふんだんに使っている鮭とごまがおかずみたいで、立ちながらちょっとした時間に力が補充できる。あーあ疲れたと思ったら、はるちゃんのところへ走って買いにくるんだ」(50代女性)
この日、30代の男性がふらりとはるえ食堂に立ち寄った。青森の実家に帰省中で、小さい頃から食べている焼きおにぎりとおでんを買いにやってきたのだと言う。
「なんでも食べられる東京に住んでいても、ここの味を思い出すんだ。ぼくの体がここの味を覚えてる。それだけでなく、食べると、小さい頃の思い出がよみがえってくるんだ。実家に帰省して思い出す味があるのって幸せじゃねえの」
皆、ふらりと立ち寄って、はる江さんと一言二言。小さな休息の場所になっている。当のはる江さんは、こうやって積み重ねてきた40年の日々をどう思っているのだろうか。
「この大きな手で握っているおにぎりをみんながおいしいって言ってぐれればうれしい。息子が1人おって、迷惑かけたくないと、なんぼいくらかは自分の力でお金を稼いで働いているげど、私の方こそ、皆さんからパワーをもらってこうして働いてんだ」