認知症に対するイメージを変える本って? 読んでおきたいオススメの3冊
東京ー盛岡の遠距離で認知症の母の介護を続けている、『くどひろ』こと工藤広伸さん。ブログや著書などで自身の介護経験談や知恵の数々を紹介している。母と祖母のW介護の経験もある工藤さんが発信するアドバイスは介護者ならでは視点が満載だ。当サイトのシリーズ「息子の遠距離介護サバイバル術」でも、すぐ役に立つ情報を更新中。
今回は、工藤さんオススメの認知症関連本を紹介してもらう。今までたくさんの認知症について書かれた本を読んできたという工藤さん選りすぐりの3冊とは?
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皆さんは、どうやって認知症の知識を得ていますか? わたしは本を軸にして、医師や介護職の講演会に参加したり、インターネットで情報収集をしています。
40代で認知症に詳しい友人、知人がいなかったこともあって、本がわたしの先生代わりになりました。
今まで読んだ認知症関連の本は、100冊以上になります。割と似たような内容の本も多いのですが、今日はその中から特にオススメしたい認知症の本3冊をご紹介します。
今までにない新しい視点で「家族が認知症の薬とどう向き合うか?」を解説した一冊
『認知症の薬をやめると認知症がよくなる人がいるって本当ですか? 僕が「コウノメソッド」で変わった理由』(長尾和宏・東田勉共著 現代書林刊)
この本を読むと、認知症のお薬や、お医者様への見方が一変すると思います。一般社団法人抗認知症薬の適量処方を実現する会の代表理事である長尾クリニック院長、長尾和宏先生が書いた本です。
わたしたちは小さい頃から、病気になったら病院へ行って、医師の処方に従ってお薬を飲むものと教えられてきました。その常識のまま、認知症の母を病院へ連れていったのですが、この本からその常識が間違えていることに気づかされます。
長尾先生の講演会にも参加して驚いたのが、少しの薬の量の違いで、認知症の症状が劇的に改善するということです。動画を何本も見ました。薬の量が多すぎるために、介護を大変にさせているケースもあり、わたしもお薬に対する意識が大きく変わりました。
家族が認知症のお薬とどう向き合ったらいいか、今までにない視点で認知症を見ることができる本だと思います。
認知症に対する恐怖心が薄れる。温かい気持ちになれる一冊
『クロワッサン特別編集 認知症を生きる 正しく知ることが予防と治療への近道』(マガジンハウスムック)
認知症に対するイメージが変わり、温かい気持ちになれる本だと思います。写真やアニメが多く、難しい医学用語がほとんどないため、誰にでも読みやすいのが特徴です。
認知症ご本人へのインタビューでは、介護するご家族とどのような生活を送っているか、写真付きで解説されています。医師の診断に関しても、そういう認知症の診断があるのか、告知方法があったのかと驚きます。そして、「実録!世間の思い込みをぶっ飛ばす『診察室の現場から』」では、認知症外来にいらっしゃるご家族とご本人の悲喜こもごもなやりとりが載っています。
多くの認知症の本は、できないことに注目しがちです。薄れゆく記憶、介護で疲弊する家族、読む人が認知症に対して怖いイメージを持ってしまう本はいっぱいあります。しかし、この本は笑顔にあふれています。認知症介護は泣いて苦しいばかりではない、工夫すればこういった生活もできるという勇気や希望をもらえる本です。
認知症介護が始まる前に一読しておくと、今持っている認知症への恐怖心が少し消えると思います。本の冒頭を引用します。
《認知症がこわくなくなる、などとは言いません。
できることならなりたくない、
と思う気持ちはみんな同じ。
けれども、認知症になってからも、
人生は悪くない、そう思える瞬間が必ずある》(『クロワッサン特別編集 認知症を生きる』3頁より引用)
認知症の母と生活する中で、人生は悪くないと思う瞬間に何度も出会っています。
症状の理由を心理学、行動学で読み解く。理由を知って、つきあい方を学べる一冊
『認知症 「不可解な行動」には理由がある 』(SB新書)
認知症のあらゆる症状を、心理学や人間行動学という視点で解説してくれる家族に分かりやすい本です。医学的な知識も大切なのですが、現状では残念ながら認知症は根治しないと言われています。そうなると、認知症の人とどうつきあっていくのか、なぜそういった症状が出てしまうのかを理解してうまくつきあっていくほうが、現実的な介護と言えると思います。
例えば、認知症初期に陥りがちな家族の間違った対応について、このような記述があります。
《最初は「自分はボケてない」と思っていた人も、何度も繰り返し指摘されるうちに、しだいに「もしかしたら、自分はおかしいのかもしれない」と思うようになっていきます。そこへ、追い討ちをかけるように「また忘れた」という叱責が浴びせられるのです。》(『認知症 「不可解な行動」には理由がある』33頁より引用)
家族は心配のあまりつい怒ってしまうのですが、結果として認知症ご本人を追い込んでいる状況に気づくことができる一文です。なぜ急に怒りだすのか、食べてはいけないものを食べる理由など、それぞれの症状について理由が分かります。
本が認知症のイメージを変える!? 困ったときの辞書のような存在に
この3冊を読むと、認知症に対するイメージや介護への取り組み方が大きく変わると思います。何か困ったときも、わたしは辞典のようにして使っています。
最後になりますが、わたしが書いた2冊の本(『医者には書けない! 認知症介護を後悔しないための54の心得 』、『医者は知らない! 認知症介護で倒れないための55の心得』(共に廣済堂健康人新書))も教科書的ではない認知症介護の実践術です。認知症の本に書いてあることを試してはみたものの、うまくいかなかった経験を書いています。そんなとき、グッズを使って回避したり、心の持ち様で逃げてみたりするノウハウを詰め込みました。こちらも合わせて読んでいただくと、さらに認知症介護が変わると思います。
今日もしれっと、しれっと。
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工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)