障害もつ女性、素敵なコートを楽に着られる工夫
「昔は一般家庭でも服を手作りしていたので、不自由な体に合わせて実用的に直すということも難なくできました。障害のある人もなるべく自分で着脱できるように直してもらっただけでよかった。でも今は既成服の時代。しゃれた服が手軽に手に入り、みんながおしゃれ。だから障害者用や特大サイズの服ではなく、既製服をおしゃれに着たいのです。これは決して贅沢じゃない、同じ社会に生きる人としてごく当たり前のことです」
そして今は、どこの家にもミシンがあって洋服を作っている時代ではない。家庭では直せないから、プロに直してもらうことになる。とはいえ生活現場はまだまだ時代に追いついていないという。たとえば一般のリフォーム店では、健常者の服を想定したマニュアルからはずれた要望に応えてもらうのはなかなか難しい。きちんとした店ほどそのあたりは頑な。岩波先生の知人女性のように臨機応変に対応してくれる店や人に出会えたのは稀な幸運なのだという。ただ一方では、服の不便さをリフォームで解消しようとしているお店も増えている。
技術のある作り手も、気持ちが敬遠してできない
「既製服を“買って着る”とパターン化されて考えるようになっていると、動きやすく“直して着る”という発想が、なかなか浮かばないですよね」と岩波先生。
「服を作る高い技術のある作り手でも、障害による不自由をカバーするというと、技術的にはできるはずなのに気持ちが敬遠してできない。それは障害による“からだの不自由”が身近に知られていないから。そして障害のある本人やその家族、介護者が“直せば着られる”ことを知らなかったり、障害によってどう不自由なのかを作り手にうまく伝えられなければ、結局その人は“服難民”になってしまう。この講座が服に対する発想転換のきっかけになり、着る人・作り手・介護者のコミュニケーション力を培う機会になればと思っています」
今は超高齢社会。病気による障害だけでなく、誰でも年を重ねることで何かしら不自由になることがあり得る。好きな服を着ることで元気になったり、前向きな気力が湧いたりすることを知った時代だからこそ、新たな発想で服を考えることは、みんなの課題なのかもしれない。
「好きな服を着られると、誰でも天にも昇る気持ちになる」
「直せば着られることを知らなければ、服難民に」
文・写真/まなナビ編集室
初出:まなナビ