何回まで我慢できる? 認知症「同じ話を何度もする人」への対処法
東京―盛岡の遠距離で、認知症の母の介護を続けながら、その記録を介護ブログで公開している工藤広伸さんが、息子の視点で”気づいた”“学んだ”数々の「介護心得」を紹介するシリーズ、今回は、何度も同じ話をされたときの対処法。認知症だから…とわかっていても、家族だとついイライラしてしまうことがあるかもしれない。この悩みに工藤氏はどう対処しているのか、実体験にもとづく介護サバイバル術を伝授してもらう。
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認知症介護で特に多い悩みのひとつに「同じ話を何度もする」というのがあります。
「ねぇ、病院に行く日はいつ?」
母がわたしによくする質問のひとつですが、わずか1分の間に、3回も同じ質問をすることもあります。こんな短時間で、また同じことを聞くの?と正直思いますが、認知症の方は、特に短期記憶が覚えられないと言われているので、こうなってしまいます。
本や講演会で覚えた「同じ話を何度もする人への対処法」が通用しないとき
認知症の本や講演会などで、よく紹介される対処法は、
・初めて聞いたかのような、対応をする
・丁寧に、話を聞いてあげる
というものです。
介護家族であるわたしは、介護を職業にしている方のように、仕事が終わったからと帰宅するわけにいきません。朝も昼も夜も、同じ話を何度も聞くことになります。初めて聞いたかのような対応は、数回はできても、毎日はできませんでした。また44年間、親子として特に意識することなく話をしてきたのに、急に話を丁寧に聞くというのも、長年の習慣からかできません。
介護職の方の中には、何回でも初めて聞いたかのような対応をできるという強者もいます。しかし、わたしには、どちらの対処法も向いていませんでした。
たった3回でも、100回言われた感覚になる
母が同じことを言った回数を、正の字でカウントしたことがあります。すると、自分が思っていたより、はるかに回数が少ないという結果になりました。100回繰り返したように感じるのですが、実際は25回ということもありました。
なぜ、そんなに大きな誤差になったのか…。
1つは、介護をしてない他の家族や、知人に対して、自分の介護苦労をついアピールしてしまうことがあって、「盛って」回数を伝えてしまうためです。「この介護の苦労を理解してほしい」という強い思いが、そうさせてしまいます。
2つ目に、日々のストレスの蓄積です。1日の回数はそんなに多くなくても、それが1か月、1年、5年と繰り返されると、ストレスが蓄積していくので、実際より多く感じてしまうのだと思います
そこで、わたしはこのような工夫をして、母に対処することにしました。
紙やホワイトボードに、答えを詳細に書く
繰り返される質問に対して、何回も同じ回答すると、疲れてイライラします。そこで、紙やホワイトボードを使って、文字で母に見せるようにしました。質問されたら、紙を差し出して…、
「12月16日(金)13時に、レンタカーでA病院に行く」
このように、さらに質問したくならないように、「詳細に」紙に書くようにしました。それでも、同じ質問は繰り返されるのですが、わたしは言葉を発することがないので、イライラが減って、優しく対応ができるようになりました。
その場を一旦離れてみる
例えば、テレビに出ている歌手のことが気になって、何度も質問されたとします。しかし、次の瞬間に、別の歌手が出てくると、興味がそっちに移ることがあります。
このように、こだわりや執着といった症状が現れた場合も、介護者自身がトイレやお風呂に入って、一度その場を離れてみると、興味が別のモノに移っていて、同じことを言わなくなることもあります。
介護者は何回まで同じ質問に耐えられるのか?
介護者のストレスの原因のひとつとして、
「この人はあと何回、同じことを言うのだろう」
というのがあります。松本診療所ものわすれクリニック院長・松本一生先生のコラムを一部引用します。
『私がかつて行った臨床観察からは、どんなに熟練した「聞き手」であっても、同じことを5回以上聞かれると過剰なストレスになって、ケアする家族の心が疲弊してしまうことがわかりました。』
(引用元『けあサポ』:
http://www.caresapo.jp/kaigo/dementia/pd4fc80000000kcb.html)
先生は、5回以上聞いたら「やんわりと」指摘するのはアリと言っています。
介護する側は、ゴールが見えないという不安に襲われ、あと何回続くのだろうとつい怒鳴ってしまいます。しかし、5回言われたら、やんわりと「それさっきも言ったよ」と伝えることができるというゴールが見えたら、介護者の気持ちもかなりラクになると思います。
この話を早い段階で知ったことによって、わたしの認知症介護は大きく改善されました。「常に丁寧に聞いてあげる」、「初めて聞いたかのような対応をする」方法は、わたしにとっては、かなりのプレッシャーで、すぐに挫折し、5回目のあと指摘するという方法に切り替えました。
やんわりと母に伝えたら、「あら、そんなに話した?」と怒らずに言ってくれたのですが、その後も繰り返し質問は続きました。
指摘して、母の変化はあまりなくとも、指摘できたことでわたしがスッキリして、6回目以降には、新たな気持ちで聞くことができました。
この方法の弱点もあって、今度は5回を意識し過ぎることです。母が同じことを言うたびに、「はい、1回目、2回目…」とカウントしたのですが、いちいちカウントすることに、今度はストレスを感じるようになりました。
大切なのは、「同じ話は5回まで耐えられるという、目安があること」で、厳密にカウントするのではなく、ある程度同じ話をされたら、やんわり指摘してもいいよということを、覚えておくといいと思います。
今日もしれっと、しれっと。
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工藤広伸
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母(認知症+CMT病・要介護1)のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間20往復、ブログを生業に介護を続ける息子介護作家・ブロガー。認知症サポーターで、成年後見人経験者、認知症介助士。 ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(http://40kaigo.net/)