秋川リサ 7年に及んだ母親介護振り返り「後悔してない」
2011年、千代子さんをサービス付き高齢者向け住宅にいったん入所させた。そこは入居金30万円、月々の基本料金15万円。それ以外にオムツ代、散歩の途中での買い物代、薬代や医療費などがかかる。さらに光熱費なども合わせてプラス3万~5万円の出費があった。
「お金はどうにかなると信じて契約書にサインしました。施設からは体調を崩した時や、太って服のサイズが変わってしまったなど頻繁に連絡があり、その都度立ち会いが必要なため、その点は大変でした。でも、施設に行くたびにスタッフの方々の明るさや優しさに触れ、感謝の気持ちでいっぱいになりましたね。母もよく笑い、よく食べていました」
2012年には千代子さんの終の棲家となった特別養護老人ホームに移った。秋川さんはもう少し早くから施設に入れたほうがよかったのかもしれないと振り返る。
「介護はいつまでという期限やここまでやれば楽になるということがありません。体力と精神力がすり切れないうちに、プロに任せたほうがいいと思います。家族が寄り添う在宅介護は理想かもしれませんが、現実は厳しい。我が家のように徘徊が激しい場合は、どうしても“見張る介護”になってしまいます。私の場合は互いに疲れきり、母の日記で心の内を知ってしまった以上、冷静でいられることができず、その葛藤も自分を苦しめました。しかし施設への入所で適度な距離が生まれ、やっと“見守る介護”ができるようになったんです」
未だに老人施設=姥捨て山のような負のイメージで語る人もいるが、秋川さんはこう語る。
「身内で介護するのであれば、嫁だから娘だからと“24時間つきっきりで私が全部やります”というのはナンセンス。デイサービスやホームヘルパー、ショートステイなど、できる限り利用して、自分の時間を作る心がけがよりよい介護につながると思います」
最後に、介護を終えた今だからこそ言えることを聞くとこうキッパリ言った。
「介護が終わった後に“もっとこうしてあげたらよかった”“こうしなければよかった”と嘆く方もいるけれど、その必要はないと思います。私も完璧な介護ではありませんでしたが、現実的に“もうこれ以上できない”“これ以上どうしろっていうの?”とつねにせめぎ合いでした。そこまでやって後悔する必要はないと思っています。自分が精一杯やったという自己満足を得られれば、それで充分ではないでしょうか」
秋川リサ(あきかわりさ)
1952年東京生まれ。高校時代にモデルとしてデビュー。その後、女優、タレントとして活躍し、ビーズ刺繍作家という一面も。著書に実母の介護経験をまとめた『母の日記』(NOVA出版)がある。
撮影/浅野剛