うがいと歯磨きの重要性 命を繋ぐ「口腔ケア」<第2回>
磨き方のポイントは「顎は絶対上げない」「鏡は必ず見る」「舌と粘膜も清潔に」
●顎を上げて歯磨きをしない。
●歯ブラシの持ち方はグリップ持ちでも良い。
●鏡を見がなら磨く。
●歯と歯の間、歯と歯茎の間には、歯ブラシを斜めに当てる。
もっとも大切なことは、顎を上げないことです。
顎を上げて歯磨きをすると、溜まった唾液が気管に入る可能性があります。歯磨き途中の唾液には、細菌がたくさん含まれていますから、誤嚥性肺炎を起こすリスクがとても高いのです。
ご自身で磨く場合も、介助者が磨く場合であっても、顎は平行、またはやや下向きにして歯磨きをしてください。
ご自身で磨く場合、歯ブラシの持ち方の理想は鉛筆持ちですが、難しいようであればグリップ持ちでも構いません。 必ず鏡を見ながら、歯1本1本に歯ブラシが当たっていることを確認するようにしてください。
また、歯だけではなく、舌と口の中の粘膜も歯ブラシで優しく拭き取るように磨きます。粘膜にこびりついた細菌をこそげ落とすことができます。 これらの作業には、見る、確認する、手を動かすという、脳や筋肉の機能維持トレーニングという相乗効果も期待できます。 介助者が磨く場合は、ヘッドはなるべく細かく動かすように意識します。歯には細かい凸凹がありますから、大きくブラシを動かすと、へこんだ部分や歯と歯の隙間には歯ブラシがまったく当たらないことになります。
歯と歯の間、歯と歯肉の間には直角ではなく、45度くらいの角度をつけて歯ブラシを当てます。軽く当てたまま、マッサージをするようなイメージで歯ブラシを少しだけ動かせば十分です。歯肉が弱っているとしみたり、痛むことがあります。声を発せられない高齢者の方の場合、目を強くつぶる、体に力が入る、口を閉じようとするといった様子が見られた場合は、痛みを感じているかもしれません。定期検診で歯科衛生士に相談してみてください。
歯間はフロスを使えればさらに効果はアップします。ある程度の長さの糸を、左右の手の人差し指に巻きつけて使用する方法が理想ですが、難しければ無理はしなくてOKです。スティックタイプのものを使用する場合は、歯間にゆっくり差し込み、持ち上げる時に歯をこするようにします。差し込む時にゴシゴシこすると、勢いがつきすぎて歯肉を痛めるので注意してください。
【歯が1本もない、口から食事をしていなくても歯磨きタイムは欠かせない】
総入れ歯の方や、口から食事を摂っていない方の場合、口腔のケアはおざなりになりがちです。しかし実は、自分の歯で噛んでいない人ほど、口腔のケアは重要になります。
自分の歯で噛んで食事をしている方は、噛むたびに唾液を出すことができます。しかし、総入れ歯の方は、噛む力が弱いために柔らかい物を食べることが多くなり、噛む回数が減少します。口から食事を摂っていない方は、噛むことそのものをしません。ですから、唾液の量が極端に減り、口腔内の乾燥が激しくなるのです。
口腔内の乾燥は細菌に対する抵抗力を奪ってしまいます。ですから、歯のない方、口から食事を摂っていない方こそ、口腔内の環境を整える必要があるのです。
そのポイントは以下の3つです。
●舌を清潔にする
●夜、寝る前に必ず口腔内の粘膜を拭き取る
●口周囲筋をマッサージする
総入れ歯の方の場合、食事後入れ歯を外したら、舌を柔らかい歯ブラシや舌ブラシでお掃除します。ブクブクうがいができるようであれば、直後にうがいを。できない場合は、口腔内用のウエットティッシュで、口の中の粘膜を拭うようにします。
歯のない方にとって、夜、寝る前のケアは非常に重要です。とくに寝たきりの方に対しては、介助者が必ず行わなければいけない必須の介護です。 スポンジブラシを使って、口腔内の粘膜を拭き取ります。一度拭き取ったら、ウエットティッシュなどでブラシについた汚れをぬぐい、スポンジを水でしっかりゆすいでから次の場所を拭きます。舌の汚れは粘膜ブラシを使うと取りやすいでしょう。スポンジブラシは安価なもので構いませんが、柄の部分はプラスチック製のものをおすすめします。
感染症を防ぐために、スポンジブラシは毎回、使い捨てにするようにしてください。こうして口腔内を拭き取ることで、清潔を保つと同時に、口の中にある唾液腺をたくさん刺激することになり、唾液が出やすくなり、口の中を潤すことができるのです。 食事で噛むことをしない高齢者の方は、どうしても口周りに筋肉が衰えがちです。
夜のケアが終わったら、親指と人差指で上唇を軽く5回つまみます。同様に下唇もマッサージ。これだけでも口が開きっぱなしになることを予防する効果があり、空きから冬にかけての感染症対策にもなるのでぜひ実践してください。
次回は、口腔内環境を整え「食べる」「話す」「笑う」「呼吸する」ことを長く続けるためのマッサージやストレッチについてお話したいと思います。
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二島弘枝(にしまひろえ)さん/フリーランスの歯科衛生士・ケアマネジャー。訪問による歯科衛生士を続ける中で、生活・介護の現場を知った上で訪問するべきではないかと強く感じ、ケアマネジャーの資格を習得。ケアプランの作成や、介護をとりまく専門家の連携や調整を行うケアマネジャーとして5年間の経験を積んだ。その後は、歯科衛生士やケアマネジャー、看護師、介護士への講演やセミナーの講師を務めながら、現場第一主義の思いは変わらず、訪問歯科衛生士としての活動を大切にしている。
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