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暮らし

「家族だけで抱え込むのは難しい」シンガーソングライター・イルカが90代両親の在宅介護で学んだ、プロに頼って笑顔で接する極意【4世代9人で暮らして在宅看取り】

『なごり雪』などの大ヒットで知られ、今年55周年を迎えてなお第一線で活躍し続けるシンガーソングライターのイルカさん(75歳)。義父母や、夫でありプロデューサーでもあった神部和夫さんを見送った後、両親や息子夫婦、孫たちとの4世代9人での同居生活をスタートさせた。自身の仕事と両立しながら、90代の両親を自宅で看取った経験や、介護における「チームプレー」の重要性、そして60代以降の人生を「デザート世代」と呼び、自分らしく生きる秘訣について話を伺った。【全3回の第3回】

夫が遺してくれた完全バリアフリーの二世帯住宅で、4世代9人の大家族暮らし

――2007年に夫の和夫さん(享年59)が亡くなられてから、ご両親、そして息子さんご夫婦とお孫さんたちとの4世代9人で暮らされていたそうですね。同居はどなたの提案だったのでしょうか?

イルカさん:一人っ子だった私を気遣って、夫は生前「いつかはご両親と一緒に住むんだよ」と言ってくれていたんです。うちの両親は「あんたたちと一緒に住むのは嫌だ」とずっと突っぱねていたのですが、夫が亡くなって私が一人暮らしになったことで、心配してくれたのでしょうね。「一緒に住む」と言ってくれて、家を二世帯住宅に建て直すことになりました。

 夫がまだ元気だったころ、過ごしやすいようにと完全バリアフリーの家を私が設計しました。そのおかげで、孫が何人増えても、私が2階で生活し、息子家族が1階で過ごすというように、お互いに干渉しすぎず暮らすことができました。最終的に両親を在宅で見送ることができたのも、このバリアフリーの家があったからこそです。

――ご両親と一緒に暮らす中で、介護をする心構えのようなものはできましたか?

イルカさん:心構えというほどのものはなくて、一緒に生活してきた延長線上にある、当たり前のこととして受け止めていました。両親とも90歳を過ぎるまで生きてくれましたし、大きな病気もあまりしなかったので感謝しています。私が仕事をしている間、近所に移住して息子を一生懸命に育ててくれた両親ですから、恩返しをしなきゃという気持ちもありました。結果的に、最期まで家で過ごしたいという両親の望みを叶えられたので、恩返しはできたかなと思っています。

――介護生活の中で、大変だったことはありますか?

イルカさん:両親が同じ時期に骨折してしまい、違う病院に入院したときは大変で、毎日2つの病院をはしごして通っていました。退院の際、2人ともリハビリが必要になったのですが、夫がお世話になっていたリハビリ病院にお願いして、2人同時に入院させてもらうことができました。その後、自宅に戻ってからは人の手が必要だと痛感しました。ケアマネジャーさんに相談して、ヘルパーさんなどの介護サービスを最大限に利用させてもらいました。

 よく「他人の世話になるなんて」と遠慮する方がいらっしゃいますが、それは難しいと思います。家族だけで介護を抱え込むのは無理です。精神的に参ってしまうと、親に優しく接することができなくなります。介護をしている側に心の余裕がないと、される側も「申し訳ない」と恐縮してしまいます。それが一番よくないんです。

 余裕があって、おしゃべりをして笑い合えるくらいでないと、介護される側もつらいと思います。だから私は、「こういうときはどうしたらいいですか?」とケアマネジャーさんにどんどん相談して、プロの方々に助けていただきました。

「産んでくれてありがとう」と伝え合った、母との穏やかな最期の時間

――お母様の入浴なども、プロにお願いしたのでしょうか?

イルカさん:最初は私が母の入浴を手伝っていたのですが、私の腰に負担がかかるようになってしまって、入浴サービスを利用するようになりました。これは本当に助かりましたね。母が亡くなる直前は、1日3回ヘルパーさんに来ていただいていました。着替えや清拭をしてもらって常に清潔な状態を保ち、お薬の管理も手伝っていただきました。

 その時間が浮いた分、私は母においしいご飯やおやつを作ってあげて、一緒に食べたり、テレビを見たりする時間に充てることができたんです。もし私がすべての介護を一人でやっていたら、とてもそんな余裕は持てなかったでしょうね。

――お母様は「病院で死にたくない、自分の部屋で、あなたがそばにいてくれたら何もいらない」とおっしゃっていたそうですね。

イルカさん:はい、その通りになりました。母が亡くなったのは11月でしたが、亡くなる1時間前までおしゃべりをしていました。寝たきりではありましたが、夕飯だけは家族全員で食べるというのをずっと続けていたんです。母はお粥やスープを、ひ孫たちと一緒に食べて、部屋に戻るという毎日でした。

 実は、その少し前から、私は母の隣に布団を敷いて寝ていて、毎晩「産んでくれてありがとう、育ててくれてありがとう」と伝えていたんです。いざというときに後悔しないように、ちゃんと言葉にしておこうと思って。

 そうしたら母が、「私はあなた一人しか産み育てられなかったけど、当たりくじを引いたね」って言ってくれたんです。お互いに「ありがとう」と言い合って、2人で毎晩のように笑っていました。

90歳を過ぎてから骨折してもステージに立った父。両親の姿から学んだ死生観

――お母様が他界した4年後、イルカさんはお父様を看取られました。亡くなる4日前には、サックス奏者のお父様と同じコンサートのステージに立たれたそうですね。

イルカさん:そうなんです。誰も亡くなるなんて思っていませんでした。在宅で診てくださっていた先生も「こんな方、初めて見ました」と驚かれていたくらいです。実は亡くなった年、父は内視鏡の手術を2回受けています。お医者様には「しなくていい」と言われたのですが、父はどうしてもやりたいと言って聞きませんでした。それが心臓に負担をかけたのかもしれません。でも、やらないと気が済まない人でしたから。

 退院後、コンサートに出たいと先生に相談したら、「そのために手術したんだから行きなさい」と背中を押してくださった。舞台のギリギリまで車椅子で行き、そこから私と手をつないでステージまで歩きました。左大腿骨を骨折したときは寝たきりになると言われていたのに、根性でリハビリをして、杖をついて歩けるまでに回復したんです。そして昨年の10月21日、昼寝をしたまま、老衰による心不全ですーっと息を引き取りました。

――ご両親の最期を見届けて、イルカさんご自身の死生観に変化はありましたか?

イルカさん:義父母、夫、そして両親を見送って、「さあ、次は私か」という感じです。でも、プロに頼るノウハウを経験で知っているので、何の不安もありません。私も自宅が好きなので、両親のように自宅で老衰で逝きたい。そのために専任の看護師さんやヘルパーさんをつけたいと思っています。食事はこうしてほしいといった要望も、メモに残しておくつもりです。

60歳からは「デザート世代」。自分を一番にする“自分ファースト”宣言

――イルカさんは現在のご自身の年代を「デザート世代」と表現されていますね。この世代を心から楽しむための秘訣を教えてください。

イルカさん:若いころは一生懸命働くことです。それがないと甘いデザートは味わえません。まずは世の中のためになることを一生懸命する。昔は「還暦になったらもう一度生まれ変わる」と考えられていました。その恩恵にあずかって、60歳からは本来、自分がやりたかったことをすればいいんです。

 父がいない今年のお正月は、胸に穴が開いたようでした。その時、「ボヤッとしているのはもったいない。デザート世代の醍醐味として『自分ファースト宣言』をしよう」と思い立ちました。今までは自分のことは二の次でしたが、これからは自分を一番にしよう、楽しもうと決めたんです。

――今、一番楽しんでいらっしゃることは何ですか?

イルカさん:孫と一緒にYouTubeやSNSをしています。私の世代だとSNSを毛嫌いする人も多いですが、私は孫に誘われてX(旧Twitter)も毎日のようにしています。コロナ禍で直接会えなかった人たちとも、SNSを通してつながることができました。

 毛嫌いせずに何でもやってみた方がいいですね。それに、日々アップデートしていかないと、これからの時代は公的なサービスすら受けられなくなってしまう気がします。今まで携わってこなかった新しいことにも挑戦して、都内を小旅行のように歩いてみたりと、毎日を楽しく過ごしています。

◆シンガーソングライター・イルカ

いるか/1950年12月3日、東京都生まれ。女子美術大学に在学中からフォークグループを結成、1971年「シュリークス」加入を経て、1974年にソロデビュー。翌年リリースした『なごり雪』が大ヒットを記録し、以後、世代を超えて愛されるシンガーソングライターとして活躍を続ける。絵本作家、IUCN(国際自然保護連合)国際親善大使としての顔も持ち、自然環境保護活動にも尽力。ラジオパーソナリティを務めるニッポン放送「イルカのミュージックハーモニー」は放送開始から35年。

撮影/黒石あみ 取材・文/小山内麗香

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