「私ひとりでは親の介護は限界!?」もしも自分が倒れたら…《おひとり様介護》の課題と4つの対策
ひとりで親の介護を担っていると、「もし自分が病気やけがで介護できなくなったら、親はどうなるのだろう」と不安になることもあるのではないだろうか。いざというとき慌てないために、今から備えておきたい4つのことを介護職員・ケアマネジャーの経験をもつ中谷ミホさんに解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はライター・編集者として、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆・編集する。著書『介護職六法』(中央法規出版)、監修『サ責があなたに贈る本』(HTC出版)。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級・終活ガイド資格1級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
いざというときに慌てないために
きょうだいがおらず、近くに頼れる親族もいない。ひとりで親の介護を担っていると、「もし自分が病気やけがで入院したら、親はどうなるのだろう」と不安になることがあります。
介護者が突然動けなくなれば、食事や服薬、見守りなど、家族が担ってきた支援が途切れてしまうこともあります。いざというときに慌てないために、今から考えておきたい4つの備えを紹介します。
「もし私が倒れたら…」高齢の母親をひとりで介護する女性の不安
※実例をもとに設定を一部変更しています。
菊地晴子さん(仮名・56才・会社員)は、83才で要介護2の母親とふたり暮らし。母親は平日に週数回、デイサービスを利用しています。
晴子さんにはきょうだいがおらず、近くに頼れる親族もいません。食事の準備や服薬確認、買い物、通院の付き添いなどは、仕事をしながら晴子さんが担っています。
母親はデイサービスを利用しているものの、「家では自分なりに暮らせているから、よそに泊まるのは嫌」と、ショートステイには抵抗があります。
そんな晴子さん自身が最近体調を崩し、通院することになりました。「もし入院することになったら、その間、母の介護はどうすればいいんだろう」
晴子さんは初めて、「自分が介護できなくなったとき」のことを現実的に考えるようになりました。
もし介護者が倒れたら…起こり得る2つの問題めの4つの備え
介護サービスを利用していても、食事や服薬、買い物、見守りなど、家族が担っていることは少なくありません。介護者が急に入院するなどして家を空けることになった場合、在宅での生活にさまざまな影響が及ぶ可能性があります。
(1)家族が担っていた介護が突然できなくなる
普段は家族が行っていることも、介護者が急に入院すれば続けることが難しくなります。
きょうだいや近くに住む親族がいれば、一時的に協力してもらえることもあるでしょう。しかし、晴子さんのようにひとりで介護を担っている場合、すぐに代わってくれる人が見つからないこともあります。
(2)必要な介護サービスをすぐに使えるとは限らない
介護者が急に入院した場合、ケアプランを見直して訪問介護などの利用を増やしたり、ショートステイを利用したりすることが考えられます。
ただし、介護サービスは希望すればすぐに利用できるとは限りません。事業所の空き状況や本人の状態によっては、受け入れ先がすぐに見つからないこともあります。
実際に介護ができなくなってから考えるのではなく、「自分が数日家を空けることになったらどうするか」を日頃から担当のケアマネジャーと話し合っておくことが大切です。
もしものときに困らないための4つの備え
ここからは、普段からできる4つの備えを紹介します。
備え【1】親の介護・医療・生活情報をまとめておく
急にほかの人へ介護を任せることになったとき、親の状態や普段の過ごし方が分からなければ、対応する側も困ってしまいます。緊急時に介護を引き継げるよう、必要な情報をまとめておきましょう。
整理しておきたいのは、次のような情報です。
●要介護度、持病、服薬内容
●かかりつけ医、利用中の介護サービス
●食事や排泄の状況
●ひとりでできること、介助が必要なこと
●移動時の注意点
●普段の起床・就寝時間
●認知症がある場合の対応方法
あわせて、介護保険証やお薬手帳などの保管場所、ケアマネジャーや利用中の介護事業所の連絡先も、すぐに確認できるようにしておくと安心です。
情報をまとめる際は、自治体などが紹介しているシートも参考になります。埼玉県では、介護者が病気やけがなどで介護できなくなった場合に備えて、日本ケアラー連盟が作成した「ケアラーのバトン『緊急引継ぎシート』」を紹介しています。介護を引き継ぐ人の連絡先や、介護を受ける人について伝えておきたいことなどを整理できます。
また、自治体によっては、かかりつけ医や服薬状況、緊急連絡先などを記入して保管する「救急医療情報キット」を用意しているところもあります。こうしたツールも活用しながら、必要な情報をひとつにまとめておくとよいでしょう。
参考:
埼玉県「ケアラーのバトン『緊急引継ぎシート』」https://www.pref.saitama.lg.jp/a0609/chiikihoukatukea/carer-baton.html
小金井市「救急医療災害支援情報キットのご活用を」https://www.city.koganei.lg.jp/kenkofukuhsi/444/kyuukyuukitto.html
備え【2】「自分しか介護できない」状態をつくらない
食事、服薬、買い物、見守りなどをすべてひとりで担っていると、自分が動けなくなったときの影響も大きくなります。
本人の状態に応じて、デイサービスや訪問介護などを利用し、普段から家族以外の人にも関わってもらうことを考えてみましょう。
介護職員など複数の人が本人の普段の様子を知っていれば、緊急時にも「普段はどこまで自分でできているか」「どのような介助が必要か」といった情報を共有しやすくなります。
「自分が数日いなくても、親の生活を支えられる体制になっているだろうか」という視点で、今の介護体制を見直してみるとよいでしょう。
備え【3】ケアマネジャーと緊急時の対応を話しておく
担当のケアマネジャーと、介護者が急に動けなくなった場合の対応についてあらかじめ話しておくことも大切です。次のような点を確認しておきましょう。
●緊急時にはまず誰へ連絡するのか
●自宅で過ごす場合には、どのようなサービスを増やせるのか
●自宅での生活が難しい場合には、どのような選択肢があるのか
自宅で過ごすことが難しい場合には、ショートステイを利用する方法もあります。
ショートステイ(短期入所生活介護)は、特別養護老人ホームなどに短期間泊まり、入浴や食事などの介護を受けられるサービスです。家族の病気や介護負担の軽減などを理由に、一時的に自宅での生活が難しくなった場合にも利用できます。
事業所によっては、急な事情によるショートステイの相談に対応しているところもあります。緊急時に相談できそうなショートステイ先をケアマネジャーと確認しておきましょう。
参考:厚生労働省「介護サービス情報公表システム」
備え【4】可能であればショートステイを一度利用してみる
家族にとっても、申し込みから利用までの流れや、必要な持ち物を確認しておけます。
晴子さんの母親のようにショートステイに抵抗がある場合は、「私が検査を受ける間だけでも泊まってみない?」と、利用する理由を具体的に伝えると、すんなり受け入れてくれることもあります。
また、普段利用しているデイサービスと同じ施設や法人がショートステイを運営している場合、本人にとって見慣れた場所だったり、顔なじみのスタッフがいたりすることもあります。まったく知らない場所よりも、安心して利用しやすいでしょう。
本人の不安が強い場合は、まずは一緒に見学するなど、無理のない範囲で始めてみましょう。利用までの流れをあらかじめ確認しておくだけでも、いざというときに対応しやすくなります。
まとめ
晴子さんは、ケアマネジャーに自分が入院した場合の対応について相談しました。利用できそうなショートステイ先を確認するとともに、母親の心身の状態や普段の過ごし方、緊急時の連絡先なども整理しました。
ひとりで親を介護していると、自分に何かあったときの備えまで手が回らないこともあるでしょう。しかし、病気やけがで一時的に介護ができなくなる可能性は、誰にでもあります。
「自分が数日家を空けることになったら、親はどう過ごすのか?」という視点で、今の介護体制を一度見直してみてはいかがでしょうか。
