離れて暮らす80代の父親が「大量に薬をのみ残している」 服薬管理の課題と頼れる支援サービスを専門家が解説
「毎日ちゃんと薬をのめているだろうか」。離れて暮らす高齢の親の服薬に不安を感じている人もいるのではないだろうか。高齢になると、薬の管理は本人だけでは難しくなることがある。そこで介護職員・ケアマネジャーとしての経験をもつ中谷ミホさんに、高齢者の服薬管理について、役立つサービスやアイテムなどについて解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級。X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
離れて暮らす親の服薬管理、どう見守る?
久しぶり帰省した実家で、かかりつけ医から処方された薬が大量に残っているのを見て、「親はちゃんと薬をのめているのだろうか」と心配になるご家族は少なくありません。
高齢になると複数の持病を抱える人が増え、薬の種類やのむタイミングも複雑になりがちです。そのため、毎日決められた通りに服薬を続けることが少しずつ難しくなっていく場合もあります。
そこで、ひとり暮らしの親の服薬管理に悩むご家族の事例を取り上げながら、知っておきたい支援サービスをご紹介します。
「のみ残した薬が大量に…」独居の父の服薬管理が心配
実家から車で1時間ほどの場所に暮らす佐藤健一さん(仮名・55才・会社員)。ひとり暮らしをしている父親(82才)の様子が気になり、できるだけ実家に帰省するようにしていました。
しかし、仕事の繁忙期が続き、しばらく足を運べずにいた時のことです。久しぶりに実家へ帰ると、父親の薬が大量に残っていることに気づきました。
父親には持病があり、複数の薬が処方されています。これまでは何とか自分で管理していましたが、最近は物忘れも目立つようになっていました。父親に確認したところ、服薬したこと自体を忘れてしまう日があるようです。残った薬の量からも、処方通りに薬を飲めていないことは明らかでした。
佐藤さんは「仕事もあるので、自分だけで父親の服薬管理をするのは難しい。何か頼れる支援はないだろうか」と考え始めました。
高齢者の「服薬管理」なぜ難しくなるのか
高齢者の服薬管理が難しくなる背景には、以下のような2つの要因が考えられます。
<要因1>薬の種類や数の多さ
高齢になると複数の持病を抱えることが増え、処方される薬の種類も多くなりがちです。
・管理が複雑になる
のむ時間や量が薬ごとに異なり、ご本人で管理するのは簡単ではありません。
・薬を処方されすぎているかも
薬の種類が増えることで正しくのめなくなったり副作用が起きたりする状態は「ポリファーマシー」と呼ばれ、近年問題視されています。
また、厚生労働省によると、75才以上の約4割が5種類以上の薬を服用しているとされ、6種類以上になると副作用のリスクが高まるもといわれています。
<要因2>加齢に伴う心身の変化
年齢を重ねるにつれて起こる身体や認知機能の変化も、服薬管理を難しくする大きな要因です。
・身体機能の低下
視力や手指の力が弱まり、錠剤のシート(PTPシート)から小さな薬を取り出すこと自体が難しくなります。
・記憶力・判断力の低下
「いつのむ薬か分からない」「飲んだこと自体を忘れる」といったことが増えてきます。
・過剰服薬や服薬拒否
「まだのんでいない」と勘違いして同じ薬を何度ものんでしまったり、「のむと体調が悪くなる気がする」と薬を拒否したりするケースも珍しくありません。
このように、本人だけの努力では解決しきれない要因が重なります。離れて暮らすご家族だけで服薬状況を把握し、管理し続けるのは限界があります。
高齢者の服薬をサポートする4つの支援サービス
高齢者が安全に薬をみの続けられるよう、介護保険などを活用したさまざまなサポート体制があります。ここでは代表的な4つの支援をご紹介します。
【1】薬剤師に相談する(かかりつけ薬局・居宅療養管理指導)
服薬の困りごとは、まず薬局の薬剤師に相談してみましょう。介護保険を使わなくても、次のようなことが相談できます。
●薬の一包化…複数の薬を、1回にのむ分ずつまとめてパックしてもらう
●飲み合わせの相談…薬同士や、薬と食品ののみ合わせを確認してもらう
●残った薬の整理…のみ忘れなどで余ってしまった薬を整理してもらう
●のみやすい形に変更…粉薬や口の中で溶ける錠剤など、のみやすい形に変更できないか相談できる
また、要介護認定を受けている人で「薬局まで行くのが難しい」「自宅での服薬管理が不安」という場合は、介護保険サービスの「居宅療養管理指導」が利用できます。薬剤師が自宅を訪問し、医師の指示のもとで薬の管理や服薬指導を行ってくれるサービスです。
【2】訪問看護による服薬管理
看護師が自宅を訪問する「訪問看護」でも、服薬管理のサポートを受けられます。具体的には、お薬カレンダーへの薬のセット、訪問時の服薬状況の確認、健康状態の観察、必要に応じた医師への報告などです。
訪問看護師が1週間分の薬をカレンダーにセットし、視覚的に分かりやすく整理することで、再びご自身できちんと服薬できるようになるケースもあります。
また、訪問時には、血圧や食欲、睡眠の様子なども確認し、気になる変化があればかかりつけ医に報告してもらえるため、離れて暮らす家族にとっても心強い存在です。
【3】訪問介護による服薬・医薬品使用の介助
訪問介護(ホームヘルプサービス)を利用して、ヘルパーに服薬の介助を頼むこともできます。ヘルパーが対応できる範囲は以下の通りです。
●薬をのむための水や白湯の用意
●一包化された内服薬の服用介助
●医療行為にあたらない範囲での医薬品使用の介助
(皮膚に傷やただれがない状態での軟膏の塗布、湿布の貼付、点眼、坐薬挿入など)
なお、これまで「お薬カレンダーへの薬のセット」や「包装シート(PTPシート)からの薬の取り出し」は、原則としてヘルパーが対応できない行為とされていましたが、令和7年12月の厚生労働省の通知により、これらも対応可能となり、依頼できる範囲が広がっています。
ただし、実際の対応状況は事業所によって異なる場合があるため、担当のケアマネジャーや訪問介護事業所に確認してください。
【4】服薬管理をサポートする服薬支援ロボットを活用する
最近は、「服薬支援ロボット」も選択肢のひとつとなっています。設定した時刻になると音声で知らせ、決まった分量の薬を自動で取り出してくれるものが中心です。家族のスマートフォンやメールに服薬状況が通知される機能を備えた機種もあり、離れて暮らす家族の「見守りツール」としても活用されています。
一例ですが、個人向けに利用できる商品には、以下のようなものがあります
「FUKU助」(メディカルスイッチ)
【公式HP】https://www.medical-switch.com/
設定した時刻にお薬を出してくれる「服薬支援ロボット」。センサーでの見守り機能や、生活をサポートする声かけ機能も備えており、在宅で暮らす高齢者を支援する。
「コッくんおくすりハウス」(ミヤサカ工業)
朝・昼・夜・寝 ごとに設定された時間になると、薬ケースが自動的に出てきて知らせてくれる。出てきた薬ケースを取り出さなかった場合、3時間が経過すると自動的に収納され、お薬の過剰服用を予防してくれる。
服薬支援ロボットは介護保険の対象外となるため、レンタル料や購入費は全額自己負担となります。導入を検討する際は、費用面もあわせて確認しておきましょう。
「薬がきちんとのめていないかも」と感じたら、まずは相談を
冒頭でご紹介した佐藤さんは、地域包括支援センターへの相談をきっかけに、訪問看護サービスを利用することになりました。訪問看護師が週1回お薬カレンダーに薬をセットしてくれるようになり、父親の飲み忘れもほぼなくなったといいます。
佐藤さんのケースのように「親の服薬状況が気になる」と感じたら、家族だけで抱え込まずかかりつけ医やケアマネジャー、薬局の薬剤師、または高齢者の相談窓口である地域包括支援センターに早めに相談してみましょう。
