《オーバー60の「のど・肺」鍛え方》誤嚥性肺炎の予防に専門家が教える「ストレッチ」&「声ヨガ」
年間6万人以上が命を落とす誤嚥性肺炎(厚生労働省「令和7年人口動態統計(概数)」の概況)。罹患者のほとんどが高齢者であるのは事実だが、だからといって「まだ先の話」と他人事ではいけない。「食べ物が飲み込みにくい」「声がかすれてきた」といった変調があったら要注意!歯科医師の戸原玄さん、医学博士の本間生夫さん、日本声ヨガ協会 代表理事の八田幸子さんに、誤嚥性肺炎を予防につながる飲み込み力強化ケアを教えてもらった。
朗らかに過ごすと飲み込み力もつく
日常生活の中でも誤嚥を防ぐ工夫はできるという。
「誤嚥を恐れ、特別なことをする必要はありません。人間は、最大筋力(1回で発揮できる最大の力)の30%を使っていれば、現状の筋力を維持できるといわれています。日々、こまめに動かしていれば大丈夫です。『休みだからついゴロゴロしちゃった』という日があってもOK。ただし、それを毎日続けて必要以上に筋肉量を落とさないよう気をつけましょう」(戸原さん・以下同)
最大筋力の30%とは、家事や仕事、買い物で動き回る程度の低負荷の運動量。もっと筋力や体力をつけたい場合は運動を加える必要があるが、現状維持であれば日常を活動的に過ごしていれば充分だ。
「加えて、声を出すこと。発声はのどの筋肉を使う、もっとも効果的なトレーニングです。男性は女性に比べ、のどの筋肉の衰えが早い傾向にあり、これは、ふだんから女性の方が、会話量が多いからと思われます。話す機会が少ない人は、大きく口を開ける動作を繰り返してみましょう。そして、大笑いするのもおすすめです」
歌うことも、呼吸にいい影響があるという。
「歌は呼吸を安定させます。カラオケでもお風呂の中でも、どんどん歌ってください。また、息を長く吐く詩吟や読経なども呼吸筋ストレッチになります。私は謡を習っており、稽古の翌日は声の出方が全然違う。カラオケの調子もいいですよ(笑い)」(本間さん)
いろいろなところに出かけ、誰かと話して笑い合い、カラオケで熱唱する。飲み込む力は、楽しく過ごすほど鍛えられるのだ。
【1】のどに効く「戸原式不調リセット法」
《もも裏ストレッチ》
椅子に片足を乗せ、つま先を立てる。腰を後ろに引き、ひざの上あたりを両手で優しく押す。
もも裏が伸び、少し痛さを感じる程度の状態で10秒キープ。反対の足も同様に、左右各3回。
《腕上げストレッチ》
正しい姿勢で椅子に座り、腕を組む。息を吸いながら両腕をゆっくりと頭の上に上げ、脇腹が伸びているのを感じながら10秒キープ。息を吐きながら腕を下ろす。
これを3回行う。腕を組むのが難しい場合は、両手をただ上げるだけでOK。
《耳のくぼみ押し》
耳たぶの下のくぼんだ部分を指先でギューッと押す。時間、回数は好きなだけOK。
「のどのケアなのになぜ『もも裏ストレッチ』かというと、もも裏が硬くなると体の背面も固まり、骨盤が後傾して、結果として猫背になってしまうから。のど対策で、真っ先にやってほしいのがこのケアです。次の『腕上げストレッチ』は胸を広げ、呼吸を改善する効果があります。
のどの衰えが進むと、誤嚥の危機を回避する機能である“せきを出す感覚”が鈍ってしまいます。『耳のくぼみ押し』で耳たぶの下のくぼんでいる部分を押すと、せきを出す感度を上げる効果があるのです。因果関係はまだわかっていませんが臨床では実証されており、患者さんにもすすめています」(戸原さん)
【2】肺をサポートし呼吸を深める「呼吸筋ストレッチ」
《首まわりのストレッチ1》(左右各3回)
鼻から息をゆっくりと吸いながら顔を横に向け、次に口からゆっくりと吐きながら顔を正面に戻す。反対側も同様に。
《首まわりのストレッチ2》(3回)
両手を頭の後ろに置き、背筋を伸ばしたまま、鼻から息をゆっくりと吸いながら首だけを前に倒す。次に、ゆっくりと口から吐きながら顔を正面に戻す。
《胸郭のストレッチ》(各3回)
【1】背筋を伸ばし、目線は前を向いたまま、両手を体の後ろで組み、鼻から充分に息を吸う。
【2】ゆっくりと息を吐きながら手を押し下げ、息を吸いながら元の位置に戻す。このとき、上半身に力が入らないように注意を。
「呼吸筋は首から腹部の体幹部分にある筋肉を指しますが、浅い呼吸や悪い姿勢が続くと凝り固まり、ますます呼吸がしづらくなります。呼吸は感情にも関連しており、呼吸が深まると感情も落ち着くことがわかっています。呼吸筋ストレッチは心身を安定させ、結果的に肺機能の強化につながるのです。
のどに近い首まわりの呼吸筋をほぐすストレッチと、胸郭を広げて呼吸を深めるストレッチは、とても簡単です。鼻から息を吸い、口からゆっくり吐くことを忘れず、力まずに行いましょう」(本間さん)
「声ヨガ」で誤嚥予防&若々しさを
「声の出しやすさを引き出す『声ヨガ』は、舌や唇を積極的に動かすので、嚥下機能を保つほか、脳への刺激や心の安定にもつながります」と声ヨガをすすめるのは、多くのシニアに声ヨガを指導してきた、考案者の八田幸子さんだ。
「女性にも変声期があるといわれています。更年期の45〜55才頃、ホルモンが減少するタイミングで声が低くなったり、かすれたりするのです。声ヨガは、そうした衰えへの備えになります」(八田さん・以下同)
おすすめは、左の2つだ。
「どちらも飲み込みに必要な舌骨上筋群を鍛えられます。『考える人のポーズ』は、手と額が拮抗するように力強く押し合いましょう。『わおわおサイレン』で『わー』と声を出すときは、大声でなくてもOK。口の中の空間と音の広がりを大切に、360度全方向に響かせるイメージで声を出すのがポイント。口角を上げ、伸びやかに発声します。また『お』の発声時に下唇を強くすぼめることで口元も引き締まり、食べこぼし予防になります」
呼吸が深まるほか、表情が明るく、若々しくなるといううれしい変化も。
《考える人のポーズ》
【1】額から鼻のつけ根あたりを手のひらで軽く押さえ、4秒息を吸いながら背筋を伸ばす。
【2】手と額を軽く押し合い、口から6秒息を吐きながらあごを引く。あご下の筋肉を意識して3セット。
《わおわおサイレン》
【1】手を顔の横で広げ、口角を上げながら360度行き渡るイメージで「わー」と声を出す。
【2】口を(特に下唇を強めに)すぼめ、「お」と言いながら手を握る。これを数回繰り返す。回数や声の長さは自分のペースでOK。
◆教えてくれたのは:歯科医師・戸原玄さん
東京科学大学摂食嚥下リハビリテーション学分野教授。診療のかたわら「摂食嚥下関連医療資源マップ」の運営も行う。近著に『自力でできる誤嚥性肺炎にならないためのリセット法』(アスコム)がある。
◆教えてくれたのは:医学博士・本間生夫さん
昭和医科大学名誉教授、NPO「安らぎ呼吸プロジェクト」理事長。心身の健康増進を目的とした「呼吸筋ストレッチ」考案者。『長生きしたければ「呼吸筋」を鍛えなさい』(青春出版社)ほか著書多数。
◆教えてくれたのは:(一社)日本声ヨガ協会 代表理事・八田幸子さん
声で心を整える、コミュニケーションのヨガである「声ヨガ」を考案。企業の健康経営や自治体の健康長寿事業に携わる。詳細は、voiceyoga.jpで確認を。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2026年9月17日号
