義妹の初盆に「人はなぜ空を見上げるのか」を考えた 69歳オバ記者 歳を重ねて知った「残された者の寂しさと温もり」
今年3月に57歳で急逝した義妹の初盆を迎えたオバ記者ことライターの野原広子氏(69歳)。身近な人の旅立ちを重ねるなかで、不意に空を見上げることが増えたという。そんな野原氏が、歳を重ねたからこそ腑に落ちた「人生の味わい」と「身近な人への敬意」を綴る。
* * *
浮かんできた『智恵子抄』の一節
「東京には本当の空が無いといふ」って、まぁ、柄にもないこと言ったりしてね。でも私も70を前にしていろいろ考えることがあるのよ。
帰省の前日は六本木ヒルズの上階から下界を見下ろした。その残像をまぶたに残しながらお盆の初日、暴風雨の中、JR宇都宮線で上野から小山に向かったら、利根川を超えたあたりで乳白色の空がどーんと大きくなって、そのタイミングで高村光太郎の『智恵子抄』の一節が浮かんだのよ。
身近な人の訃報が続き、気がつけば空を見上げている
今年は3月にくも膜下出血で57歳で急逝した義妹Nの初盆だ。あれはいつの頃かな。
「私、この空の色が好きで茨城から離れられないんだよね」と運転をしながらNが言ったことがある。そんなことを不意に思い出したんだけど、とはいえよ。私が茨城に帰るときはまず弟夫婦と待ち合わせてそれから実家に向かうのがいつものコース、というのをかれこれ30年繰り返してきたのよ。だからNがいなくて弟だけというのがなんとも受け入れがたいんだわ。
まぁ、当たり前といえば当たり前なんだけど、60を過ぎた頃から私の年子の弟、父、母、親友と、次々とこの世から旅立っていったのよ。よく亡くなった人を「お空の星になった」という言い方をするけど、私もそう。気がつくとなんの気なしに空を見上げているんだよね。誰かの顔が浮かぶと空を見る。ちょっとしたエピソードを思い出すと空を見上げる。
だから何というわけじゃないの。虚しさが消えるのでもないし、雲の流れが慰めになるわけでもない。それでも見上げずにいられないんだよね。
でね、変なことを言うようだけど、最近になって敬老精神っていうの? 年上の人を敬う気持ちが急に湧いてきたの。ケラケラと笑っているけど、みんな私以上に身近な人の死を経験しているのよね。それをどう納めて前を向いたのかなと思うと、ほんと、心から敬いたくなるんだわ。
と、同時に、若い人が「あんなヤツ、死ねばいいのに」とみだりに死ぬ死ぬと言っても、怒る気にならないの。30代まで死は悲喜劇で40代、50代は目をつぶれば避けられそうな気がしていたもんね。
結婚していた時に60代の姑が20 代の私に「あんただって年をとればわかるわよ」と、悔しそうに言っていたけど、60代もそろそろ終わるころになって、やっと私も「ああ、こういうことね」と腑に落ちた。残り時間が少なくなった人間の気持ちは、若い人がどんなに想像力を働かせたところでわからないし、わからなくていいんだと思う。
母が山盛りにした「羽倉うり」の漬物 半世紀を経て分かった手ざわり
わからなかったこと、といえば、羽倉うりよ。夏になると母親が大量に漬け物にして、「さぁ、食べろ。うまいから食え」と皿に山盛りにしたんだけど、正直、ふわふわと歯ごたえがなくて美味しいとは思わなかったの。だから自分では一度も買ったことがない。てか、羽倉うりが東京のスーパーに並んでいるかどうかも知らない。
それがこのお盆に「Nちゃんが好きだったのよね。良かったらもらって」と、弟のご近所さんがマッチョな男の腕ほどの太さのを何本もくれたの。それで漬け物にして来客に配ろうと包丁を入れたら、面白いようにサクサクと切れる。ははん、母ちゃんはこの感触が好きだったんだなと納得したね。
で、切った、切った。羽倉うりに塩少々。生姜の細切りと塩昆布を混ぜたのを漬け物工場かと思うほど切って漬けて配りまくった私。
たくましく育つ姪や甥の存在――歳をとらないと分からない喜び
お盆中、葬式や法事でしか顔を合わせなくなった姪と甥と久しぶりに会った。姪は31歳で美容師をしているのは知っていたけど重たい荷物をヒョイと持ち上げる力持ち。聞いたら剣道2段だって。で、甥は30半ばで4人の男の子のパパ。弟の跡を継いで大工をしている。「この前、仕事で18日、タイに行ったよ」となかなかの活躍ぶりだ。
次世代のそんな話を聞くと、なんとなく嬉しくなる、なんてことも、この年まで知らなかった。まったく年をとらないとわからないことだらけだ。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。2021年10月、自らのダイエット経験について綴った『まんがでもわかる人生ダイエット図鑑で、やせたの?』を出版。実母の介護も経験している。
