プロが教える在宅介護のヒント 在宅医・鈴木央さん<第5回>
延命治療をする?しない?家族で意見が割れたときは
Q:本人の意思が確認できない状況で、延命治療について兄弟の意見が割れてしまいました。どうやって決断をしたらいいでしょうか?
A:患者さんが延命治療についてどのような考えを持っていたか分からず、さらに命に関わる意思決定で家族の意見が分かれれば、悩みは大きいです。これが正解、という答えがない悩みかもしれません。しかし、決断をしなければなりませんから、患者さんが意思表示できたら何と言うか、ご家族で話し合い、着地点を見つけていくよりありません。
まず一度、意見の異なる皆さんも揃って患者さんの主治医と面談してみましょう。主治医も一緒に悩み、考えます。病院の主治医でも在宅医でも、その両方でも、医師の診立てと、客観的な意見を聞くと、論点が整理できるかもしれません。
たとえ意思を聞いていても、いざという段階で家族が「以前は、延命治療は望まないと言っていたけれど、今も気持ちは変わっていないだろうか」「家族が決めていいのか」「家族としては、入院させてできる限りの手を尽くすのが勤めではないか」などと悩むこともあります。
決断をした後、気持ちが揺れる場合もあり、どのような選択をしても介護が終わった後にそのことを考え続ける人もいます。
いずれの場合も医療や介護などの専門職は、専門的に意思決定を援助することができます。しかし大切な家族のことであるが故に抱くその悩みは、他者が解決できる問題ではないように思います。ただし患者さんの周囲に、患者さんのことを思って真剣に悩む人や援助する人がいて、その時間があることは、僕には幸せなことに思えます。
同時に、患者さんの気持ちを思うとご家族が自分のことで意見を対立させたり、悩むのは本意でないようにも思うので、元気なうちにどのような医療を受けたいか、人生の最終段階はどう過ごしたいか、家族で伝え合っておくことが大切だと、改めて思います。
在宅医療は、“できることをできるだけ”行い、患者さんとご家族がより良く生きることを支える医療です。療養生活が続く間、在宅医とチーム医療の援助は切れ目なく続きますから、安心していてください。
※注1 口から食べられないときに栄養をとる手段。「経鼻法」と「経ろう孔法(胃ろう、腸ろう)」がある。経口摂取以外の方法としては他に「経静脈栄養(抹消静脈栄養と中心静脈栄養)」もある。
※注2 廃用とは長い間使わなかったため、体の器官や筋肉、機能が衰えること。
鈴木 央さん:鈴木内科医院(東京、大田区大森)院長、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長。都南総合病院の内科部長時代には在宅診療部を立ち上げ、在宅医療推進の必要性を実感。1999年、日本のがん緩和ケアの第一人者であった父の鈴木荘一前院長と共に「患者の生活を支える町医者になる」と決め、副院長に就任。同院はその数年前から内科、消化器内科、老年内科の外来診療の傍ら、認知症などがん以外の病気も含めて在宅療養を支える診療所として365日、24時間対応している。「長生きをするための情報はたくさんあるが、どのように最期を迎えるかは情報が少ないですね。皆で、穏やかに逝くためにはどうしたらいいか、考える時代に入ったと思います」。
取材・文/下平貴子