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連載

認知症の母が「頬を染め照れ笑い」母の中に眠っていた感情を引き出した訪問看護師さんの奇跡のフレーズ

 作家でブロガーの工藤広伸さんの母は認知症を患い、現在要介護4。息子との会話を忘れてしまい、喜怒哀楽の感情も少しずつ薄れていく寂しさを感じている。訪問看護師さんが訪れたある日のこと、母はここ数年、目にすることがなかった表情を見せたという。認知症介護における声かけや会話術の参考になるエピソードだ。

執筆/工藤広伸(くどうひろのぶ)

介護作家・ブロガー/2012年から岩手にいる認知症で難病の母(82才・要介護4)を、東京から通いで遠距離在宅介護中。途中、認知症の祖母(要介護3)や悪性リンパ腫の父(要介護5)も介護して看取る。介護の模様や工夫が、NHK「ニュース7」「おはよう日本」「あさイチ」などで取り上げられる。最新著『工藤さんが教える 遠距離介護73のヒント』。ブログ『40歳からの遠距離介護』https://40kaigo.net/ Voicyパーソナリティ『ちょっと気になる?介護のラジオ』https://voicy.jp/channel/1442

認知症の母が見せた意外な表情 

 認知症になっても、感情の記憶はしっかり残ると言われています。起きた出来事は忘れてしまっても、うれしかったり、怒ったりといったその時の感情は長く残るそうです。

 母と些細なケンカをしたあと、ケンカしたこと自体は忘れてしまっても、余韻で怒っている母の姿を見ると、確かに感情は残っていると実感します。

 一方で祖母が亡くなったとき、葬儀会場で一切涙を見せなかった母の姿を見て、悲しいという感情は忘れてしまったのかなと思いました。

 母の感情の記憶は、今も残っているのだろうか? そんな疑問を抱いていたある日のこと、訪問看護師さんと母が会話するのをそばで見ていて、母にもまだこんな感情が残っていたのかと気づかされた出来事がありました。

自分の体調をうまく伝えられない認知症の母

 実家に看護師さんが来て、母の体温や血圧のチェック、健康状態の確認を行う訪問看護を週1回利用しています。

 看護師さんは母に必ず「からだの調子はいかがですか?」と尋ねてくださいますが、母は自分の体調の変化を覚えておらず、言葉が出てこないので「いつもどおりです」としか答えません。

 看護師さんは母の見た目と、わたしが提供する情報を基に母の健康状態を確認しています。その際に、わたしが病院の医師と話した内容についても情報共有しています。

 訪問看護では必ず、浣腸を使った排せつのサポートをお願いしています。母は便意を感じにくく便秘になりやすいうえ、詰まった便が大量に排出される際に起こる迷走神経反射で何度も倒れているためです。

 この日はわたしから看護師さんに「3日以上、便が出ていません」と伝え、トイレで排せつのサポートをしていただきました。その後、居間に戻った看護師さんは、訪問看護の記録を書き始めました。

半年ぶりに再会した訪問看護師さんと母のやりとり

 祝日だったためか、いつも来てくださる看護師さんはお休み。今回いらっしゃった看護師さんとお会いするのは、半年ぶりでした。わたしはこの半年の間にあった出来事を思い出し、看護師さんにこう報告しました。

わたし「今年1月に長谷川式認知症スケール(認知症テスト)を受けたのですが、残念ながら結果は0点でした。重度の認知症なので、やむを得ないと思っていますけど」

 看護師さんは、母が本当に0点なのかどうか、ご自身でも確かめたかったのかもしれません。突然、母にこんな質問をしました。

看護師さん「ひろこさん(母の仮名)、何年の何月何日に生まれましたか?」

「はち、はち…」

 母は昭和18年8月生まれです。もう少しで正解が出てきそうな雰囲気でしたが、うまく言葉が出てこなかったようです。

 わたしが認知症の祖母に生年月日を尋ねたときも、母と同じように言葉に詰まる場面が何度もありました。そんなとき生まれた年を和暦で伝えると、月日を思い出すことがありました。

わたし「お誕生日ね。大正12年の何月何日だっけ?」

祖母「大正12年9月22日」

 年齢は毎年変わるため、認知症の人は覚えていられないことが多いですが、誕生日はずっと変わりません。だから、認知症が進行しても答えられるのだと思います。そこで母にも、生まれた年を和暦で伝えてみました。

わたし「昭和何年、何月、何日だっけ?」

「昭和18年8月×日」

わたし「おー、すごい!」

 母が生年月日を正しく言えたのは、何年ぶりでしょう。母はもう正確に答えられないと思いこんでいたので、質問自体をしていなかったかもしれません。

訪問看護師さんの言葉で母の表情が!

 看護師さんは認知症テストの結果について、母にこう伝えました。

看護師さん「ひろこさん。誕生日を答えられるから、点数なんて気にする必要ないですよ。まだまだお若いし、キレイですよ」

 82才の割に「若い」と言われる母ですが、「キレイ」という強い表現でほめてくださるかたはあまりいません。母はどう反応するのだろうと思い、表情を見るとかなり驚いた様子で、

「またまた!あなたのほうがキレイですよ」

 頬に手を当てながら、照れているではありませんか!「きれい」は、母にとって相当インパクトのある言葉だったようです。

看護師さん「いやいや、ひろこさんのほうがキレイですよ」

「あなたのほうがキレイですって、本当に」

 ほめ合いがしばらく続いたあと、看護師さんがこう締めくくりました。

看護師さん「2人ともキレイでいいじゃないですか。たまには、こうやってほめあうことも大切ですよ」

「そうですね、ありがとうございます」

認知症介護における「ほめる」ことの重要性

 母に「照れ」の感情が残っているなんて、思いもしませんでした。

 母が自力で立てたときや時計を読めたときにほめると、喜んでくれますが照れることはありません。わかりやすく強い表現を使ったり、何度もほめたりしないと、照れるまでには至らないのかもしれません。

 隠れていた「照れ」を引き出してくれた看護師さんに、感謝です。

 今日もしれっと、しれっと。

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