年末年始に増える高齢者の事故「掃除や除雪で転倒」「浴室の溺水」「お餅で窒息」実例と対策を社会福祉士が解説
年末年始に増える高齢者の事故について、消費者庁から注意喚起が促されている。「掃除中・除雪中の転倒・転落事故」「浴室での溺水事故」「餅による窒息事故」には特に注意が必要だ。介護経験をもつ社会福祉士の渋澤和世さんに実例と対策について解説いただいた。
この記事を執筆した専門家/渋澤和世さん
在宅介護エキスパート協会代表。会社員として働きながら親の介護を10年以上経験し、社会福祉士、精神保健福祉士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナーなどの資格を取得。自治体の介護サービス相談員も務め、多くのメディアで執筆。著書『入院・介護・認知症…親が倒れたら、まず読む本』(プレジデント社)、監修『親と私の老後とお金完全読本』(宝島社)などがある。
高齢者や介護が必要な人と暮らすご家族はご用心
早いもので師走。例年、年末年始は1年の中で最も事故が多いともいわれています。正月3が日を中心に起こりやすい高齢者の事故といえば、お餅をのどに詰まらせること。その他にも寒さや家族の帰省、大掃除など普段と異なった行動も多くなることに加え、高齢者は加齢に伴い身体機能や認知機能の低下から思いがけない事故も発生しています。実際に消費者庁から年末年始の高齢者の事故への注意喚起も出ています※。
※消費者庁「年末年始に増加する高齢者の事故に注意しましょう! -浴室での溺水事故、餅による窒息事故、掃除中・除雪中の転倒・転落事故等に注意–」
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_067/
高齢者に起きやすい事故「3つのキーワード」
消費者庁から特に注意したい3つのキーワードとして「転倒・転落」「溺水」「窒息」が挙げられていますが、これには理由があります。厚生労働省の人口動態調査65歳以上の不慮の事故死因別調査結果の上位に3つが入っているのです※。
2023年は「転倒・転落・墜落による死亡」が11,000人超、「溺水による死亡」は8,200人超、「不慮の窒息による死亡」は7,700人超となっています。
※政府統計e-Stat「人口動態調査 人口動態統計 確定数 死亡上巻 5-31 不慮の事故による死因(三桁基本分類)別にみた年齢(特定階級)別死亡数」
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003411675
年末年始に注意すべき事故の実例と対策
実際、12月頃からこれらの事故・ヒヤリハットの報告や相談が筆者の協会にも増えてきます。実際に起こった事例とその対策を考えてみましょう。
【1】掃除中・除雪中の転倒・転落
12月は大掃除をするご家庭が多いでしょう。普段は掃除をしない高い場所の汚れも気になるところです。脚立や椅子が動いて落下したり、両手を塞いだ状態で階段を踏み外したりするなどの事故もよくあることです。
・掃除機でカーペットを掃除していたところ、下の段差に気づかずそのまま前に転倒した。
・両手でバケツを運んでいたら、電気コードに足に引っかけて転倒した。
・庭の木を切ろうと脚立にのぼったら、グラグラして足を滑らせ落ちてしまった。
対策
少し先の足元状況を確認すること、片手は開けておくことで転倒が少なくなります。転落防止は脚立や椅子を使用する際は、安定した場所を選ぶこと、片方の手で固定された家具などにしっかりつかまると安心です。
筆者の経験談ですが、つかまっているからと下にキャスターのついた椅子でモノをとろうとした際、椅子が急に動き転倒しました。つかまっているから必ずしも安全ではないこと、年齢や個々の体力も考えて無理な作業は控えたほうが良さそうです。
【2】浴室での溺水・転倒
家族が集まる年末年始はお酒を飲む機会も増えるかもしれません。食後や飲酒後に入浴してそのまま眠ってしまうと溺死の危険も。また、浴室は滑りやすいので年末の大掃除の際には気をつけたいものです。
・タイル床で滑って転倒し壁に頭をぶつけた。
・浴槽を前かがみで掃除をしていたら、ぎっくり腰になってしまった。
・浴槽から急に立ち上がったところ、立ちくらみがして湯船に落ちてしまった。
対策
入浴中に溺れる事故が65才以上の高齢者に多く見られます。政府広報オンライン※では、以下の6つの予防策を紹介しています。これらを参考にして入浴前、入浴後の対策を心がけてください。
1.入浴前に脱衣所や浴室を暖めておく
2.湯温は41度以下、お湯につかる時間は10分までを目安にする
3.浴槽から急に立ち上がらない
4.食後すぐの入浴や、飲酒後、医薬品服用後の入浴は避ける
5.お風呂に入る前に、同居する家族にひと声かける
6.家族は入浴中の高齢者の動向に注意する
※政府広報オンライン「交通事故死の約3倍!? 冬の入浴中の事故に要注意!」
https://www.gov-online.go.jp/article/202111/entry-9952.html
浴室、浴槽内の人間の動きをセンサで確認し、一定時間動きがない場合、通報や風呂水を自動的に抜くなどの浴室見守りシステムもあります。これらの活用も有効です。転倒防止には、浴室は滑りやすい場所であることを念頭に、足場が濡れている場合は事前に拭き取りましょう。
【3】飲食による窒息
餅は日常的に食べ慣れていないこと、温度が冷えると固くなるので注意することはわかりやすいのですが、以外にもカステラやパンなどの口の中で食塊をつくりにくい食品が喉に詰まりやすいようです。柔らかいからと侮れません。
・手土産のカステラをほおばり、のどに詰まらせた。
・お寿司のネタが噛み切れず、息苦しくなった。
・雑煮の餅を十分に咀嚼しないまま飲み込んでしまった。
対策
窒息事故の約9割は食事中、食後に集中し、餅、パン、肉類などの粘性や弾力性のある食品で多く見られています。対策としては、食品を細かく刻む、急いで食べない、食事中は常に見守りを行う、食事中の水分補給をこまめに行うなどがあります。
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年末年始に起こりやすい高齢者の事故のお話をしましたが、季節や年齢に限ったことではないので、普段から注意しておきたいものです。何かと慌ただしい年末年始ですが、この機会に改めて意識し直すことが大切です。
