《血管・心臓のエキスパートである医師が解説》血管をしなやかにするには“息が上がらない程度”の軽い運動「ストレッチや軽いウォーキング」
じつは、血管の壁そのものをしなやかにする薬は、今のところ存在しません。
心筋梗塞や脳梗塞を防ぐ目的で、血液をサラサラにする薬(アスピリンなど)が処方されることはありますが、それはあくまで「詰まりを防ぐための応急処置」にすぎません。
血管の壁そのものを若返らせることは、どんな薬でもできないのです。
毎日の「ゆる〜い動き」がNOを生み出す
ではどうすれば血管をしなやかにできるのか。
患者さんに運動をすすめると、「どんな運動をすればいいですか?」と必ず聞かれます。
私はいつもこう答えます。
「息が上がらない程度でいいんです」
血管にとって大切なのは、激しい運動ではなく、ゆるやかな刺激です。
筋肉を伸ばすストレッチや、軽いウォーキング、深い呼吸。これで十分にNOは分泌されます。
実際、私の外来でも、毎日5分のストレッチを習慣にした患者さんの血圧が改善した例はいくつもあります。特別な器具やジム通いは必要ありません。大切なのは「続けられる動き」を毎日少しずつ積み重ねることなのです。
NOは一度分泌されると、分解されるまでの短い間に全身を駆け巡り、血管の壁に信号を送り、全身の血流を整えます。たとえば、足のストレッチで出たNOが首や脳の血管まで届く。これが、私が「下半身だけほぐせば全身がよくなる」と強調している理由です。
手術の現場にいると、血管がやわらかい人ほど快復が早いと感じます。
やわらかい血管は、縫っても裂けにくく、血流の再開もスムーズです。しなやかで、まるで生命が息づくようなぷるぷるとした弾力を感じることさえあります。
反対に、硬い血管は縫うたびにヒビが入り、出血しやすい。つまり、NOをしっかり出せる人は、それだけで「何かがあっても快復しやすい体」を持っているとも言えるのです。
血管のやわらかさは、長生きの条件であると同時に、あらゆる病気や事故からの快復力を左右する要素でもあります。
教えてくれた人
医師・医学博士・高橋亮さん
1979年千葉県生まれ。北里大学大学院修了。東京大学医科学研究所に所属した後、医療法人理事長。オーストリアのウィーン大学留学中に最先端の心臓移植に接したことで、血管に興味を持つ。以来、血管のエキスパートとして、内科と外科、基礎研究と臨床という「二刀流 × 二刀流」の実績を持つ。がんの転移を抑制する新たな治療の可能性を世界で初めて示し、日本炎症・再生医学会賞、北里大学黒川賞を受賞。米国で開催された数万人が集まる国際学会ではアジア代表のひとりとして特別講演を行う。がん転移の研究過程で、血管と血管壁の潜在的な力を見出し、がん・血管・免疫細胞からなる「神の見えざる手」理論を提唱した。海外の病院での経験や研究成果をベースに、格闘技有段者としての「自重トレーニング理論」や、藍の服用といった自身の肉体で試した「実践的栄養学」なども融合させ、本書の健康ノウハウを開発。新しい健康的な生き方として「血管道」を世に広めている。北里大学医学部非常勤講師。外科指導医、内科認定医、麻酔科標榜医、移植認定医、内視鏡専門医など専門医資格多数。Dell統括産業医も務めた。
