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暮らし

高次脳機能障害の母、施設の暮らしに募る不満「なんで帰れないの?」ヤングケアラーの娘が抱える焦燥感と修行の日々

 ヤングケアラーとして講演や執筆活動をするたろべえさんこと高橋唯さん。障害のある母の施設入居を決意し、本契約をすることになった。しかし母は「家に帰りたい」と言い続けている。親の施設入居を巡る、娘が抱える心の葛藤とは。

執筆/たろべえ(高橋唯)さん

「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/

障害のある母の施設入居契約へ

 障害のある母は9月から障害者支援施設で生活しはじめたが、まだ入居の契約が済んでおらず、いわゆる「ロングショートステイ」の状態で過ごしていた。本当はもっと早く契約に行くべきだったのだが、遠方のため、なかなか時間が取れず、先日ようやっと母の冬物の衣類も持って施設に行ってきた。

 施設に入ると、いつもは母の過ごしている居室に向かうのだが、今回は相談室に案内された。

 入居の契約は淡々としていて、ひたすら書類を記入して判を押すだけだった。

 全ての書類を書き終えると、職員さんから「今日やることはこれで終わりです。衣類も職員から本人に渡しておきますね」と言われた。

「今、本人は何をしていますか?」と訊ねると、「お部屋にいるかと思います。もしお話をされるようでしたら呼んできます」とのこと。ショートステイではなく入居となると、基本的には家族も居室に入ることはできなくなり、面会は決められた場所で行うことになるようだ。

面会や外泊、どうしていくべきか

 結局、母には会わずに帰ることにした。筆者が顔を見せても、迎えに来たのではないとわかったら悲しむと思ったのだ。職員さんからも、入居者さんによっては家族に会った後に帰りたくて不穏になってしまうこともあると聞いたので、これでいいのだ、と自分に言い聞かせて帰路についた。

 しかしながら、9月の面会の時以降、母の顔を見ていないということになってしまった。

 施設に入居すると、なかなか日々の様子がわからなくなってしまうので、頻繁に本人の様子を見て、変化がないかどうか確認したほうが良かったのかもしれないとも思った。

 帰宅途中、母から電話がかかってきた。「帰りたい。なんで帰れないの?お正月には帰りますから」と、家に帰れないことへの不満を繰り返していた。母は電話の切り方がわからず、「じゃあね」と言った後も電話が繋がっていて、「なんでだよー!もう!」と怒っている声が聞こえてきた。

 もう家には帰らせずに、「施設がお母さんの家だよ」と言い続けて慣れてもらったほうがいいのだろうか。それとも、たまに家に帰ってくることを楽しみにしながら生活してもらったほうがいいのだろうか。

 これまで母は筆者にばかり電話をかけてきていたが、筆者では話にならないことがわかったのか、父にも電話をかけてくるようになった。父もどう対応すればいいのかわからず、とりあえずなんとか話をはぐらかしているらしい。

母を、「母親」と見るか「1人の人間」と見るか

 母を施設に入居させたことについて、大概の人は「あなたは間違っていない。お母さんも、あなたのために頑張るべき。あなたが自分の人生を楽しく生きることがお母さんの幸せだと思う」と言ってくれるだろう。なかには自分自身もケアをしてきた家族を施設に任せることを選択して、自分を納得させるために、筆者というよりは自身に言い聞かせているという人もいるのかもしれない。

 母のことを「筆者の母親」という視点から見るのであれば、本当にその通りだと思う。母が子どもである筆者に依存しすぎることも、筆者が母に縛られることも健全ではないと自覚している。

 一方、母のことを「1人の人間」と捉えるのなら、母が障害を理由に望む生活ができないことや、筆者の快適な生活のために障害のある母は我慢を強いられなければならないことに対し、「本当にこれでいいのだろうか?」と疑問が残る。

 決して施設に入居することが悪いことなのではなく、施設での生活が合っている人にも出会ってきた。規則正しい生活をすることで落ち着いて過ごせるようになった人や、家で生活していた頃にはできなかったことができるようになった人も見てきたので、きっと母にも良い影響があるかもしれないと期待を込めて入居に踏み切った。

 しかしながら、現実はそう甘くはなく、筆者がケアから離れることと、母が楽しく生活をすることは簡単には両立しないようだ。

母が施設に入居しても、修行の日々は続く

 筆者はこれまでに「母と共に」や「共生」などといったタイトルで、母についての作文を書いてきた。子どもの頃から母も筆者もふたりとも幸せに生きていくことを望んできたので、それが叶えられなかったことは非常に悔しい。

 とはいえ、長らく母のケアを続けてきたので、正直なところちょっと休みたい。しかしながら、「母につらい思いを強いているのだからその分頑張らなくては」、「母という人間1人分の人生に見合うだけの価値があることを成し遂げなくては」という焦燥感のようななにかが襲ってくるので、逃げ回ることに必死な毎日で、あまり休んでいる気にはならない。

 本来、筆者の人生は筆者のもので、母と比較する必要はない。そう頭では理解しているつもりだが、どうしても母の幸せを諦めてしまっては、自分の幸せも手に入らないような気がしてしまう。

 これまで、母との日々を修行のようだと思って過ごしていたが、母と離れてもなお、修行の日々は続きそうだ。

ヤングケアラーに関する基本情報

言葉の意味や相談窓口はこちら!

■ヤングケアラーとは

 日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。

■ヤングケアラーの定義

『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。

・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている

■相談窓口

・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/

・児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/

・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm

・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html

・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス
https://lin.ee/C5zlydz

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