高次脳機能障害の母がついに施設入居へ「母はずっと怒っている」ヤングケアラーの娘がドキリとさせられた母の言葉と罪悪感の正体
高次脳機能障害の母を幼い頃からケアしてきたヤングケアラーのたろべえさんこと、高橋唯さん。1年以上前から母の施設探しを続けてきたが、いよいよ候補になっていた障害者福祉施設から入居の許可が出た。しかし母は入居を受け入れたわけではない。親の施設入居に関して気持ちに折り合いをつけるにはどうすべきなのか、想いを綴ってくれた。
執筆/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、著書『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/
施設に行く前に別のグループホームを見学
母はこれまでいくつかの施設でショートステイを利用してきたが、ついに入居先が決まった――と思った矢先、「隣の市にグループホームが新設される」というニュースが飛び込んできた。
母は常々、「施設に行きたくない、今通っているデイサービスを辞めたくない」と言い続けてきたが、隣の市のグループホームからであれば、今のデイサービスにも通い続けられる。
できることなら、やっぱり新設のグループホームに入れてあげたい。そう思って、予定を変更し、グループホームの見学会に参加した。バリアフリー設備も十分で、トイレの数も多く、とてもよいグループホームだったので、ぜひ入居したいと希望を伝えた。しかしながら、入居希望者が多く、「市内在住の人が優先」とのことで、母の入居は叶わなかった。
施設の暮らし「母の怒りが爆発」
グループホームへの入居が叶わなかったので、もともと予定していた施設への入居準備を進めていくことになった。まだ諸々の手続きは残っているが、母本人には先に施設に移動して生活してもらっているため、必要な荷物を持って面会に行ってきた。
部屋に入ると、母は開口一番「こんなにたくさん荷物を持ってきたということは、私にここに住めってこと?私を家から追い出そうとしているんだ!」と怒り出した。
母はまだ自分が施設に入居することを納得しておらず、すぐに家に帰れるものだと思っていたので、ただの泊まりにしては明らかに多すぎる荷物を見て動揺してしまったようだ。
その後、もう一度面会に行ったが、家に居たときよりもさらに怒りっぽくなっているように感じた。その日は薄ら寒い気温だったが、母は半袖半ズボンを着ていたため、職員さんが上着を持ってきてくれた。しかしながら、母は「どちらの上着がいいですか?」と優しく訊ねてくれる職員さんに対し、「いらない!うるせえな!」と反発していた。
以前は他人の前ではもう少し取り繕って振る舞う社会性があったように思うが、環境が変わって、できていたこともできなくなってしまったようにも見えた。
母と私「新たな生活が始まるが試練は続く…」
母は施設で生活し始めて1か月以上経ったが、時々「帰りたいんだけど」と電話をかけてくる。施設の職員さんに、他の入居者さんはどのくらいの時間をかけて慣れていくのか聞いてみると、1年くらいかかるかたもいるとのことだった。
私も私で、いまだに夢に母が出てきて、私を追いかけようとして転んでしまったり、「一生懸命頑張っているのに、ここ(施設)から出ることができない」と訴えてきたりするので、母のケアがなくなっても落ち着いて休めない。
これから母も私も自分の人生を生きるためには、それぞれの生活に慣れていくしかないけれど、本音を言うと、母も私も我慢せずにお互いに楽しく生きていけたらいいのにと思う。
ドキリとした母の言葉
面会に行ったとき、怒る母に改めて施設に入ってほしいということを説明すると、「なんで!勝手に決めないで!」と返ってきた。これはまさに、障害者権利条約*の背景にある障害当事者のスローガン「“Nothing about us without us”(私たち抜きに私たちのことを決めないで)」そのままの言葉で、結構ドキリとした。
*参考/外務省「障害者権利条約」https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000069541.pdf
今年5月から、厚労省では障害者の「脱施設化」を目指し、障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会を重ねている。今後は、施設入居者にも地域移行について意向を確認することが義務づけられる。
これまでは、どれだけ周りに頼っても、最終的に母の意思を受け止めるのは私になることも多く、母の望みを尊重しきれないことに罪悪感をもっていた。
今後、私が離れても、母の意思を確認して、どうすればいいのかを母と一緒に考えてくれる仕組みができるのなら、私も少しだけ肩の荷を下ろして生きていけるのかもしれない。
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
■ヤングケアラーとは
日本ケアラー連盟https://youngcarerpj.jimdofree.com/による定義によると、ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている、18才未満の子どものことを指す。
■ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
■相談窓口
・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/
・児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス
https://lin.ee/C5zlydz
