ダブルケアで「自分、家族の体が壊れた」「逃げ場所がほしい」 彦根市の調査で2割強が現役の“ダブルケアラー”と回答、リアルな実態と乗り切る方法をプロに聞いた
2016年に公表した推計値によると、“ダブルケアラー”は全国に約25万人いるとされている。
その実態や支援ニーズを把握するため、滋賀県・彦根市は2025年1月、市民を対象にアンケート調査を実施した(市の公式LINEや母子手帳アプリの登録者を対象)。彦根市の発表によれば、回答者326人のうち23.7%が「現在ダブルケアを行っている」と回答。過去の経験者(10.8%)や、数年先にダブルケアになる見込みである人(8.9%)も合わせると、当事者および“予備軍”は全体の4割強を占める。ケアの中で不安に思っていることは「自分の健康」が最多で、「家計状況」「自分の仕事」「ケア対象者(子ども)への悪影響」がそれに続く。自由記述欄には、「福祉支援者に訴えてもなかなか対応してもらえず、自分、家族の体が壊れた」「お金がかからない逃げ場所がほしい」などの声が寄せられた。
高齢化や晩婚化が進む日本において、ダブルケアラーは今後も増加していくと考えられる。では、ダブルケアに直面した場合、どのように対処すればいいのか。周囲はどんな支援をしていくべきなのか。医療・福祉・保育のプロが運営するNPO法人「こだまの集い」の室津瞳代表理事と森安みか副代表理事に、ダブルケアの“リアル”や、有効な対策について伺った。
妊娠・出産期のダブルケアは要注意、バイタリティがあるからこそ追い込まれるケースも
ダブルケアについては、国が明確に定めている定義はないが、「こだまの集い」では「子育てと介護、もしくは家族や親族など親密な人へのケアが複数同時並行すること」と定めている。内閣府の調査によると、ダブルケアラーの平均年齢は働き盛りの39.6歳だ。仕事で責任のある立場を任されながら、育児や介護に追われ始める人も多いだろう。
「ケアラーさんのなかには、自分がダブルケアの当事者であるという自覚がないか、“毎日めまぐるしいけれど、どこにSOSを出せばいいのかわからない”という状態で走り続ける方も少なくありません。はじめはこなせていても、だんだんと負担が積み重なり、身体に不調をきたしたり、頑張りすぎて“燃え尽き症候群”のようになったりする例もみられます」(森安さん)
ダブルケアラーが特に心身のバランスを崩しやすいタイミングとして、以下の3つが挙げられるという。
「1つめは、妊娠・出産期。子どもを授かったことを機に親とじっくり関わってみたら様子がおかしいことに気づき、介護が始まり出すパターンです。出産前後はホルモンバランスが大きく変動するため、ただでさえ“産後うつ”になりやすい状況なんです。家事や育児だけでもひと苦労なうえに、介護まで重なることで、体調不良に陥ってしまう方がいらっしゃいます。2つめは、更年期と重なり、コンディションの維持が難しくなるパターン。そして3つめは、ケア疲れがたたって持病が悪化したり、病気を発症したりするパターンです。どれも自分の努力や心がけだけでは防ぎきれないことも、当事者を苦しめる要因だと思います」(室津さん)
室津さんと森安さんによれば、調整力や処理能力に長けた人ですら単独でダブルケアを続けるのは難しく、むしろ「忙しさに耐性があり、自分の限界ギリギリまでやれてしまう人こそ、深刻な状態に追い込まれる場合もある」という。かつて『こだまの集い』に相談に訪れた女性(Aさん)の例を見てみると、そのことがよくわかる。
「Aさんは大企業で管理職に就きながら、フレックス勤務やリモートワークを駆使し、子ども2人と母親のケアを担ってらしたキャリアウーマンです。彼女は毎朝4時に起きて朝食の準備や家族に関する手続きを済ませ、5時には在宅勤務を開始していました。前日に部下一人ひとりの動向を把握しておき、朝のうちに指示メールを送信。その後は作業や会議の合間にお子さんの送り出しやお母さんの通院に対応し、15時の終業と同時に入浴介助や掃除・洗濯、夕食の準備を休むことなく行っていました。22時頃に就寝するものの、お母さんの体調により、深夜にトイレ介助をすることも多く、まとまった睡眠をとるのは難しかったでしょう」(室津さん)
Aさんはそんな状況下でも仕事で活躍しつつ、家事・育児・介護もフルパワーでこなしていたそう。しかし、「人並み以上のバイタリティを持つ方でしたが、それでも泣いてらっしゃることがありました。最終的には介護休業に入られましたね。ダブルケアではそのくらい時間や労力、精神が削られ、当事者だけではどうにも対処しきれないんです。だからこそ、周囲の理解と協力が欠かせません」と室津さんは訴える。
「完璧を目指さなくていい。65点で十分」ダブルケアを乗り切るための心構えとは
では、私たちはダブルケアとどう向き合えばよいのか。室津さんと森安さんが声を揃えて主張するのは、「ダブルケアはチーム戦」というメッセージだ。
「すべて自分で背負おうとすると、無意識に自己犠牲が始まって余力がなくなり、半年や1年で力尽きかねません。子育てと介護や複数のケアが重なると、大変さは2倍、3倍どころか、10倍にもなるんです。ひたすらやることが増えるだけでなく、同じ時間帯にマルチタスクをこなしたり、ジャンルの異なる問題に脳のリソースを割いたりしなくてはなりませんから。だからこそ、マネジメントの視点を持ち、自分がすべきことと周りに頼れることを分けて考え、積極的にアウトソーシングしていくことが大切です」(森安さん)
その具体的な方法は、まず、家庭内では家事・育児の役割分担を明確にし、誰か一人だけに負担を集中させないこと。家族に頼れる人がいない場合は特に、介護保険サービスや保育サービスを活用し、プロの手を借りること。また、職場においても、“何かあったとき”に助けてもらえるような環境を整えておくことがカギだという。
「業務の属人化を防ぎつつ、カジュアルベースでもいいので、家庭の状況を上司や同僚に伝えておけるといいですね。ダブルケアの最中には、子どもが熱を出して急遽お休みが必要になったり、親御さんの容態が悪化したりと、想定外のトラブルがつきものです。その際、スムーズに協力が得られるよう、あらかじめ情報共有や必要な引き継ぎを行っておくと、双方が助かります」(室津さん)
また、身近にダブルケアと向き合う人がいたら、共感や労いの言葉を忘れないようにしたい。
「家族や友人はもちろん、職場の方や近所の方、保育士さん、ケアマネさんなどからの声かけに助けられたと話すケアラーさんはたくさんいらっしゃいます。“頑張っているね”、“おつかれさま”、“何かあったら言ってね”というささいなひと言でも、“自分は一人じゃない”と感じて励まされるんです。特に、男性の場合は、誰にも悩みを打ち明けられずに孤立してしまうケースが多いため、状況を把握して寄り添ってくれる人の存在が救いとなるはずです」(室津さん)
実は、室津さんと森安さん自身も、かつてはダブルケアの当事者であった。自らの経験と、「こだまの集い」を通して関わった方々とのエピソードをふまえ、「ダブルケアは想像以上に大変。でも、周囲の力も借りつつ、自分を認めてあげることができれば、乗り越える手立てがある」と話す。最後に、そのために必要な心構えを教えてもらった。
「ダブルケアラーさんは、ただでさえ頑張り屋の方が多いんです。それにもかかわらず、例えば、父/母として・夫/妻として・息子/娘として“〇〇であるべき”、“△△しなければならない”という考えに捉われすぎると、追い込まれてしまいます。一番しんどい時期に、世間一般の“普通”や“理想”に合わせなくてもいいんです。できないことより、できたことに目を向けてみると、気持ちが楽になると思います」(室津さん)
「決して完璧を目指す必要はありません。100点じゃなくても、65点で十分。いつか必ず解放されるときがきますから、“膨大にあるタスクのうち、優先順位の高い2つまでこなせたらOK”くらいの気持ちで、自分を肯定しながら過ごしていただきたいです」(森安さん)
◆取材・文/梶原 薫