《「消化器トラブル」が多いほど肩こりも頻発》肩専門の整形外科医が「じゃないほうの肩こり」を解説 “お腹のトラブル”を治療して肩こりが改善したケースも
肩こりの原因には「悪姿勢」「体型」「運動不足」にはない場合もある。あらゆる健康トラブルの一部にあらわれる現象でもあり、肩こりに気づいたなら、その可能性を「つぶして」からセルフケアに臨むのが正しいという。
そんな「じゃないほうの肩こり」の一つが「胃弱・胃腸障害」。どんなメカニズムなのだろうか。肩専門の整形外科医が世界中の論文をひもとき、年間手術数400超の臨床感とともに導いた新しい肩こりの本『じゃないほうの肩こり』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人
日本整形外科学会、日本専門医機構認定整形外科専門医・歌島大輔さん
1981年生まれ。山形大学医学部卒業。肩関節、肩関節鏡手術、スポーツ医学の専門家として、フリーランスの立場で複数の整形外科でさまざまな肩治療を行う。肩関節鏡手術は年間約400件と全国トップクラス。診療のかたわら、「医学的根拠のあるセルフケアを」との信念からYouTubeチャンネル「すごいエビデンス治療/整形外科医 歌島大輔」を開設、登録者20万人と人気を呼んでいる。
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胃弱・胃腸障害:整形外科の視点で胃腸障害を見立てる
胃の不調はストレスの影響が大きいと知れ渡っているからでしょうか。胃腸障害と肩こりが関係すると言うと、どちらも「ストレス」つながりで、「じゃないほうじゃないほうの(一般的な)肩こり」と早合点されがちです。
しかし、私が「胃腸障害」と「つらい肩こり」が同時にある患者さんを診るとき、ストレスのことは一旦置いておき、次のようなメカニズムを考え、患者さんの肩こり改善策を探します。
・「内臓体性収束」による関連痛
消化管の臓器(内臓)と、身体の表面や筋肉(体性)の神経はつながっていることがあり、内臓に問題が起こると、その影響で別の場所(体性)に痛みが現れることがある(消化管とは、口から肛門まで、食物の摂取、消化・吸収、運搬、排泄を担う管のこと)。このような痛みは専門的には「『内臓体性収束』による関連痛」と呼ばれる。たとえば、お腹の臓器が痛いときに、背中や腰が痛くなることがある。こうした関連痛は、胃腸以外も肝臓、膵臓、胆嚢などほかの消化器の臓器の問題でも起こる。
・排便時の緊張による脊椎への負荷の増加
消化管の不調で便通に問題が出ると、排便時に力むとき、腹筋(お腹の筋肉)や腰、背中の筋肉に余計な力が入り、その結果、背骨に大きな負担がかかることがある。この負担が積み重なると、腰痛、背部痛など慢性疼痛の原因になることもある。
・痛覚の変化
身体のどこかにダメージや痛みがあり、それが続くと、痛みを感じる仕組み(痛覚)が変わることがある。たとえば、ずっと胃が痛い状態が続くと、痛みを感じやすくなったり、逆に鈍くなったりすることがあり、別の場所の慢性疼痛にも影響する。これは神経が過剰に敏感になったり、鈍感になったりすることが原因。
・腹筋の機能変化による
腹筋は、消化管の臓器を支え、背中や腰の骨を安定させる役割がある。しかし、腹筋が弱り、正しく働かなくなると、臓器をしっかり支えられなくなり、臓器の機能に影響して、消化器の不調につながるうえ、背骨の負担が増えることがある。
つまり、このようなメカニズムを考慮したうえで、肩こりを軽減するために、肩こりケアだけでなく、消化器症状の治療やセルフケアも検討するということです。
「消化器トラブル」が多いほど肩こりも頻発していた
女性の消化器症状と背部痛の関連を調べた海外の研究では、不快に感じている胃腸症状の数と背部痛の頻度は有意に関連していると指摘されています(*26)。
どういうことかというと、便秘、痔、消化不良、胃痛、腹痛、胃もたれ、胸焼け、嘔気、嘔吐、下痢などといった、いくつものトラブルを経験している人ほど、肩や背中の痛みを感じているということです。
2つまたは3つのトラブルを経験した若年、中年、高齢の女性では、そうでない人と比べて背部痛を「しばしば」経験する割合が高くなっていて、それぞれ3.3倍、3.0倍、2.8倍で、消化器症状と背部痛の間に強い関連が示されました。
ですから、肩こりのセルフケアに取り組んでいてもこりや痛みが改善しない場合、身体の内側にも目を向け、全身の健康に目を向けるタイミングかもしれないと考えてみましょう。