兄がボケました~認知症と介護と老後と「 第17回 寄る年波にあらがうために」
寒く長かった冬が過ぎ、ようやく春がそこまでやってきました。そろそろ桜の便りが届く頃ですが、ライターのツガエマナミコさんにとっては、いろいろと物思う時期でもあるようです。
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「あいうべ体操」始めました
また桜の季節がやってまいりました。桜が咲くと父のお葬式と、車いすの母と見に行った桜並木を思い出します。兄とお花見に行ったことはありませんが、去年デイケアセンターで撮ってくれた、桜と一緒に写る兄の写真が残っています。そう、去年5月頭まで兄は普通に歩けていたことを思い出しました。車いす生活になってまだ1年経っていないのに、それはまるで遠い昔のことのようで、振り返れば激動の一年でございました。
そんな3月はツガエマナミコ爆誕月。今年で62回目の春でございます。めでたさが切なさで打ち消されてしまう齢でございます。ここまで元気で生きてこられたことは、めでたいに違いないのに、「老い」に直面する心境は複雑でございます。
「独身だし、子供もいないし、長生きしたって仕方がない」と達観しながら、日々明らかになってくる細胞の衰えには知らず知らずあらがうお年頃でございます。
先日、テレビ放送していたラジオ体操を一緒にやってみて「なかなかキツイ」と思い、いよいよ自分も年寄りだと認めざるを得なくなりました。学生時代はラジオ体操など楽勝すぎて運動のうちに入らなかったのに、今となっては出だしの「腕を大きく上げて背伸びの運動~」からしてもう体が伸びない。背中は痛いし腕が重い。前屈も苦しいし、リズムについていくだけで精一杯。いつの間にこうなったのだろうと愕然といたしました。
その後、健康系のテレビ番組を観るようになり、老人向けの体操やトレーニングが流れていれば一緒にやってみるようになりました。そのたびに自分がいかに衰えているかに気づき、「これ以上の衰えは防がなくては!」と思わされるのでございます。「長生きしても仕方がない」という思いとはだいぶ矛盾しておりますが、生きている間は現状を維持したいと思うのが人情でございます。
先日、驚いたのは「口の体操」でした。「なななななななな…」を8秒間、「たたたたたたたた…」を8秒間、「かかかかかかかか…」を8秒間、できるだけ早く言い続けるという体操でございました。「そんなの簡単じゃん」とやってみると、あら大変。自分が思っている速度では連呼できず、画面の中の人(60代ぐらい)よりもテンポが遅いではありませんか。どうりで、最近の若い人の歌は早口で歌えないわけでございます。
別の番組でも口や喉の筋肉の衰えについて取り上げているのを拝見し、舌が喉の方へ落ちていると歯の食いしばり症状が出ると知りました。何を隠そう、わたくしは歯科で毎回注意されるほどの「食いしばり」の常習犯。「舌をなるべく前歯の裏側に付けてくださいね」と言われるものの、気づくといつも歯を食いしばっておりました。
そこで、その番組で提唱していた「あいうべ体操」を最近やるようになったのでございます。この体操は、患者さんに鼻呼吸を促すために、とある内科医が考案したものですが、その後、虫歯予防や老化防止などにも役立つことが分かり、全国的に広がった体操です。
4秒ほどかけて「あー、いー、うー、べー」と口を大きく動かして発声するだけなのですが、「ベー」の時に舌を思い切り伸ばすのがポイント。10回1セットで、1日3セットやるのが目安です。
テレビを見ながらでも、お風呂に入りながらでもできるので、気づいたときにやっております。そのせいか少し舌の位置が上がり、食いしばりが減ってきたような気がしております。やはり自分は老人向けの体操が必要な体になったのだな~と思った次第でございます。
併せて「たたたたたたたた…」の早口トレーニングも続けて、最近流行りの歌も歌えるようになりたいと思っております。
40代ぐらいからあまり変わらない気でおりましたが、体はちゃんと歳をとっております。体型も崩れ、何を着ても思い描いた姿にはなりません。物持ちがいいので服のレパートリーに変化がなく、知らず知らずに年齢に合わない「痛いファッション」になっている気もして、最近外出の際の洋服選びに時間がかかります。体のメンテナンスと同時に、そろそろシニアのおしゃれも学ばなければと思っているツガエでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ