利用中の福祉用具のレンタル価格は適正?「不正な高額請求を防ぐために全国平均価格を知っておきましょう」【福祉用具専門相談員解説】
在宅介護では入浴補助具や車いすや手すり、介護用ベッドなどさまざまな「福祉用具」を利用する。これらの福祉用具は、介護保険を使って購入・レンタルすることで費用をある程度抑えることができる。しかし、過去には一部の悪徳な介護事業所で高額なレンタル料を請求していたという事例があった。そこで、福祉用具専門相談員の山上智史さんに、利用者が知っておくべき福祉用具の適切な価格について教えてもらった。
教えてくれた人
福祉用具専門相談員・山上智史さん
東京・新宿区の介護事業所K-WORKERに勤務。福祉用具専門相談員・住環境コーディネーター2級・介護福祉士、行動心理士などの資格をいかし、「高齢者の自立支援・介助者負担の軽減を目的とした環境作り」を実践。https://k-worker.co.jp/
福祉用具のレンタル価格、チェックしていますか?
手すりや介護用ベッドなどの福祉用具は、要介護認定を受けることで介護保険を利用してレンタルできる。また、昨年の介護保険法改正により、スロープ・一部の歩行補助つえ、歩行器については、レンタルか購入を選べる選択制が導入され、選択肢が増えた。
利用者やケアをする家族にとって、介護保険を使える幅が広がるのは良いことだが、福祉用具の価格については提示された価格が高いのか安いのか、理解している人は多くはないのではないだろうか。
90代の記者の母も、自宅に手すりを介護保険でレンタルしているが、料金についてはあまり知らずに支払っていた。
福祉用具専門相談員の山上智史さんによると、福祉用具の価格については、事業者の裁量によるところもあるため、同じ製品でも価格に差が出ることもあるという。
「過去にごく一部の事業者による高額なレンタル価格が問題になったことがありました。介護保険を使うと月額120円で借りられる四点杖が、10倍の1200円が請求されていたということでした。
こうした問題に対処するため、厚生労働省は2018年度の介護報酬改定から、全国における平均的貸与価格を公表。福祉用具専門相談員に対して利用者への説明が義務付けられました。
これにより、上限価格を超過する値付けをした事業所者については、当該商品の保険給付を行わないことになりました」(山上さん、以下同)
初めて福祉用具を介護保険で利用する人にとっては、業者から例えば1200円と言われれば、そのくらいなのかと払ってしまうかもしれないが、事前に平均的な価格を知っていれば疑問を持つことができるはず。利用者側も適正価格についての情報を知り、利用明細などでしっかりと確認することが必要だろう。
福祉用具の適正な価格を維持するための制度
「福祉用具は自由価格なので事業所によって金額の違いがあっても問題はないのですが、極端に価格を高く設定する悪徳業者対策のため、厚生労働省は、福祉用具の新商品発売後、約1年後に『上限価格』が通知されます。
これは、年に4回(1月・4月・7月・10月)行われるもので、『この金額が上限ですよ』というお知らせを受け、各事業所はそれに合わせて金額を設定するようになっています」
2025年1月には、7月からの福祉用具貸与(新規62品目)の全国平均貸与価格及び貸与価格の上限一覧が公表された。これで今までに計4630商品(令和7年1月1日時点)の福祉用具の全国平均貸与価格と貸与価格の上限が適用されたことになる。
例えば、パラマウントベッドの室内用歩行器(アヴァンスM PA型)の場合、全国平均貸与価格は2478円、上限価格は2810円となっている(令和7年7月~)。
参考/厚生労働省「福祉・介護/福祉用具・住宅改修」福祉用具の全国平均貸与価格及び貸与価格の上限一覧(令和7年7月~)https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html
「福祉用具の平均・上限価格が設定されたことにより、利用者側にとっては費用が把握しやすくなるというメリットはあります。一方で、市場は価格競争によるサービスや質の向上が見込めないというデメリットもあります」
利用者にとっては価格の透明性はありがたいのだが、事業所では年4回の見直しで価格設定を見直すとう事務作業が増えるという悩みもあるという。
福祉用具の事業所は利用者が選べる
住んでいる地域以外の事業所に福祉用具を頼むことはできるのだろうか。
「福祉用具を介護保険でレンタルや購入する場合、どちらにしてもケアマネジャーを通し相談することが必須となりますが、事業所をご自身で選ぶことはできます。ただし、事業所によってはサービス地域を決めているところもありますので、事業所に問い合わせてください。
実際に福祉用具を見てみたいという場合には、事業所にあれば確認することもできます」
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母の暮らしやすい環境作りにかかせない福祉用具だが、これまで記者は価格についてあまり意識をしていなかった。安心して利用するためにも、価格も含め情報を知っておくことが大切だと感じた。
取材・文/本上夕貴