ラジオ体操で認知症のリスクが18%低下する可能性 研究者が語る効能と、誰でもできる実践のポイント
体操を行うことで、認知症や要介護のリスクを下げられる可能性が、科学的に示された。特に、ラジオ体操に関しては、認知症のリスクを18%低下させることが確認されたという。研究を行った帝京大学大学院公衆衛生学研究科の金森悟准教授に、世界初という今回の研究結果からわかることやラジオ体操の効能、効果的な実践方法について聞いた。
「体操は健康にいい」は本当だった! 実践により認知症や要介護のリスクが低下
金森准教授らの研究では、全国19市町村に住む65歳以上の高齢者1万1219人(男性46.3%、平均74.2歳)を対象に、平均5.3年間の追跡調査を実施。対象者が1か月に1回以上行う体操に関して、「ラジオ体操のみ」「その他の体操(テレビ体操/ご当地体操/その他)のみ」「両方」「体操なし」の4グループに分け、体操をすることで要介護や認知症のリスクを低減できるのか探った。
「その結果、ラジオ体操のみを実践したグループは、体操なしのグループに比べて認知症リスクが18%低下しました。また、その他の体操のみを実践したグループでは、要支援・要介護リスクが13%、要介護2以上と認知症リスクは19%低下。 両方を実践した場合は、統計学的に有意な関連はなかったものの、要介護2以上や認知症リスク低下の傾向が見られました」(金森准教授・以下同)
つまり、ラジオ体操は認知症に、その他の体操の場合は認知症および要支援・要介護状態になるリスクを下げる可能性があることが示されたのだ。金森准教授は、研究の動機について、「“体操(特にラジオ体操)は健康にいい”という世間のイメージはあるものの、科学的なエビデンスが乏しかったため、それを示せたら意義深いのではないかと考えました」と話す。この研究結果をもとに、国や自治体から新たな健康施策が展開されていくことが期待される。
ラジオ体操にスポーツ観戦、手軽なところから健康維持に向けた取り組みを
個人レベルでも日常的に取り入れやすいのは、やはりラジオ体操だろう。ラジオ体操の有用性について、金森准教授は次のように説明する。
「ラジオ体操の最大のメリットは、どこでも、誰でも、手軽に取り組めることです。実践によって身体活動量が増えることに加え、音楽に合わせて多様な動作を行う点や、他者とのつながりが生まれやすい点が、認知症の予防に寄与すると考えられます。ラジオ体操は日本特有の運動プログラムとして、海外メディアからも注目されているんですよ」
今回の研究では、ラジオ体操を「最低でも月1回以上」行う対象者について認知症リスクの低下がみられた。ラジオ体操の所要時間は、第1、第2がそれぞれ約3分だ。1か月に数分程度からでも健康面にメリットがあるのはうれしい。
「とはいえ、頻度は高いほうが、より効果的でしょう。週に数回、定期的に続けることをおすすめします。さらに、可能であれば、一人で行うよりも家族や友人、近所の仲間と一緒に取り組んでいただきたいです。別の研究では、運動をしていたとしても、スポーツグループに参加していない人は、参加している人よりも要介護認定のリスクが高いというデータもあります」
ちなみに、運動をするのが苦手な人は、「観戦しているだけでも、地域への愛着や豊かな人間関係が構築されることで、健康維持につながる側面がある」と金森准教授は言う。できればオンラインよりも、現地に赴くほうが良いそう。会場ならではの空気感を味わいながら周囲と一緒に応援することで、精神面での充足感もアップするからだ。
「すでに何か運動をしている方や、スポーツ観戦が趣味の方はそれを継続し、特に何もしていない方は、まずラジオ体操から始めてみるのはいかがでしょうか。身近な家族や友人らにも声をかけると、一人で行うより続けやすく、みんなで健康づくりができます」
平均寿命が延びている日本において、“心身ともに健やかに長く生きること”は、ますます重要なテーマとなってくる。ラジオ体操をはじめ、手軽にできることから健康への意識を高めていきたい。
◆取材・文/梶原 薫