認知症と似てる老人性うつ 見つけ方と対処法
治療の効果を上げるカウンセリングを使うべし
治療については、うつ病は抗うつ剤などの薬物療法が基本で、老人性うつも同様です。ただし老人性うつの場合、抗うつ剤の使い方が難しいという面があります。ひと口に抗うつ剤といってもいろいろな種類があり、中には副作用で血圧を上げてしまうものや、尿が出にくくなるもの、頻脈が生じるものなどがあります。つまり、高齢者に向かない抗うつ剤が結構あるということです。高齢になると緑内障になっている方も多いのですが、緑内障の患者さんには使えない抗うつ剤もあります。
実は薬物療法がすべてを改善させているわけではなく、患者さんは「病院に通う」ことで状態がよくなることがあるんです。病院では、医師が治療に通じる情報を引き出すためにいろいろな質問をしますし、患者さんは看護師と軽い世間話をすることもあります。実はこれだけで老人性うつは改善に向かうことがあるのです。若い年代の患者さんは「他人にかまわれることが苦痛」なので逆効果なんですが、高齢者はかまってもらえることがうれしいからです。
場合によっては精神科よりもカウンセリングのほうが効果を上げることがあります。精神科医の世界では、カウンセリングは薬物治療の二の次とされることが多いのですが、そうともいえないのです。精神科医は自覚症状や既往歴などを中心に話を聞くことになりますが、カウンセラーはその人の現在と未来など人生を一緒に考えます。若い人には当たり前のように現在と未来がありますから、カウンセリングをしてもなかなか前に進まないことがあります。しかし人生の残り時間が少ない高齢者にとって、今後の人生を考えることは違った意味を持ちます。カウンセリングによって老人性うつの程度が軽くなれば、薬を多く処方しなくてもすみます。
おしまいに、両親や祖父母が老人性うつと診断されたとき、家族はどのように接すればいいかをお話ししましょう。
体の不調を訴えているのであれば「つらいね」「大変だね」と、その主張を認めてあげることです。間違っても「そんなのは気のせいだ」といった、否定や反論をしないこと。怒ったり檄を飛ばしたりしたいところですが、受け入れてあげることが最善なのです。認知症は現代の医学では治すことはできませんが、老人性うつは治療すれば改善できる病気です。老人性うつのお年寄りを介護しているご家族には、希望を持ってもらいたいと思っています。
酒井和夫(さかい・かずお)
ストレスケア日比谷クリニック院長。精神科医。医学博士。日本精神神経学会精神科専門医、指導医。東京大学文学部・筑波大学医学部を卒業後、長谷川病院を経て平成8年にストレスケア日比谷クリニックを開業。院長として精神科の一般臨床に携わる。精神医学、心理学に関する著書も多く、獨協大学・筑波大学等数か所の大学においても非常勤講師として精神保健一般についての講義を行ってきた。
取材・文/熊谷あずさ
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