”骨の世界的権威”が教える「骨粗しょう症」予防法 「かかと落とし」には骨折のリスクあり、おすすめは「いつのまにか骨折」予防体操
骨がもろくなる「骨粗しょう症」。加齢とともになりやすく、特に高齢女性に多い症状として知られる。そんな骨粗しょう症の予防には運動が有効だ。それも「衝撃」を与えるのではなく、体重によって「荷重」をかけるほうが安全。“骨粗しょう症の世界的権威”でもある東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授・斎藤充さんが、100年健康に生きるための骨の真実を明かした著書『100年骨』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人:斎藤充さん
東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授。同大附属病院整形外科・診療部長。1992年、東京慈恵会医科大学卒。2020年より現職。日本骨代謝学会理事、日本骨粗鬆症学会理事、日本人工関節学会理事などを兼務。骨代謝の診断・治療・研究で国内外を牽引する。
骨粗しょう症予防に◎!衝撃ではなく「荷重をかける」体操を
骨の強度を支えているのは、骨を形作るコラーゲンという繊維状のタンパク質です。骨の強化や骨折予防には、運動がとても重要です。
というのも、運動には、コラーゲン分子同士をつなぐ架橋(建物の梁のようなもの)において、骨をもろくさせる悪玉架橋を増やさずに逆に、強くする善玉架橋を増やす、すなわち、骨のコラーゲンにしなりを持ったよい梁を、性ホルモンとは別の機序でつくる力があるのです。
少し具体的に言いますと、私たちの研究で、骨をつくる骨芽細胞に重力負荷をかけると、骨のコラーゲンに善玉架橋が増加し、石灰化を促進しました。このとき、悪玉架橋は誘導されませんでした。すなわち、骨に荷重負荷、体重をかけるような運動が、骨質を改善するとわかったのです。
骨粗しょう症予防のためにも、過剰にならないように気を付けながら、適度な運動を続けるようにしましょう。
運動は「続ける」ことこそ非常に大事で、それは骨が「生まれ変わり続ける」臓器だからです。運動を続けると、年最大40%のスピードでどんどん入れ替わりますが、運動をやめれば、せっかく入れ替わったよいコラーゲンもどんどん減り、元の木阿弥になってしまいます。
骨粗しょう症の治療を受けた場合も、「1年治療して骨密度も骨質も高くなったから、しばらく休んでOK」ということはあり得ません。運動も治療も習慣にして、生涯続けることが大事です。
しかし、骨粗しょう症を防ぐ運動について、私はかねてより心配していることがあります。健康に関心が高い読者の方ほど、次のようなアドバイスを読んだり、聞いたりしたことがあるのではないでしょうか。
「骨密度を高める近道は、骨に衝撃を与えること。特にかかとを刺激するのが効率的」
この、いわゆる「かかと落とし」には骨折のリスクがあります。実際、衝撃やバランスを崩しての転倒による骨折事故も起きています。
では改めて、骨の強化や骨折予防にはどのような運動がよいでしょうか。
こうした研究は、骨粗しょう症の患者さんよりはむしろ健常者を対象としたものが多く行われており、どのような運動に骨密度維持・上昇、転倒予防効果があるかがわかっています。
まず、骨密度の維持と上昇に重要なのは、荷重負荷(姿勢や体重により骨にかかる力)と筋力トレーニングです。
また運動をすることのメリットは、骨密度を高めるだけではありません。たとえば、背筋を強化する運動は、背骨(椎体)の骨折を予防するとともに、運動機能を高めることで転倒を予防することにもつながります。
高齢者の骨折リスクは、運動指導(主としてバランス訓練、筋力トレーニング)によって66%も低下することが報告されています。
拙著『100年骨』でご紹介しているのは、きわめて簡単で安全に取り組むことができる運動です。むずかしいものは1つもなく、ご紹介する4つを行えば十分に骨粗しょう症予防の効果があります。
いずれも、骨折予防のために、私の母親にもやってもらっている運動ですが、今回はこのうちの一つ「うつ伏せ背筋体操」をご紹介します。ぜひ、ご家族で楽しく取り組んでみてください。