大木凡人さん「ギャー!」と叫んだ大動脈解離「血管を若返らせるポイント3つ」【医師解説】
心筋梗塞、脳卒中など、突然死のリスクを知るてがかりとなるのが、「血管」の健康状態だという。タレントの大木凡人さんは大動脈解離になり、生死を彷徨ったと話す。そんな事態を避けるにはどうしたらいいのか、専門家に話を聞いた。まずはチェックに答えて自分の血管年齢は何才なのか調べるところから始めてみよう。
教えてくれた人
伊賀瀬道也さん/愛媛大学大学院抗加齢医学講座教授・医師
池谷敏郎さん/池谷医院 院長・循環器専門医
高倉伸幸さん/大阪大学教授
しなやかな血管こそが健康寿命を延ばす
「血管は血液を介して脳や全身の臓器に酸素や栄養を送り、老廃物を回収する働きを担っています。その血管が硬くなると心筋梗塞や脳卒中、認知症などのリスクを高めます。
逆に血管自体を若く健康に保てば、病気のリスクを遠ざけられる。“しなやかな血管”の維持は、健康寿命を延ばすことにつながります」
とは、『80歳の壁を超える 血流がみるみるよくなる体の治し方大全』の著者・伊賀瀬道也さん(愛媛大学大学院抗加齢医学講座教授)。
全身を巡り「老化のサイン」となる血管。まず自分の血管の状態を把握しておきたい。
『血管を強くする1分正座』などの著書がある循環器専門医・池谷敏郎さん(池谷医院院長)監修のもと、「血管年齢」を知るためのチェックシートを作成した。
血管年齢チェックシート
下記の項目にあてはまるものにチェック。右側にある数字の合計点があなたの血管年齢になる。
(監修・アドバイス/池谷敏郎医師)
□ 腹囲が85cm以上ある…1
□ 日頃から歩くことが少ない…1
□ 満腹になるまで食べないと気が済まない…1
□ 生活リズムが不規則…1
□ 完璧主義でイライラすることが多い…1
□ 階段や坂を登るのがつらい…1
□ 下肢の冷えやしびれを感じる…1
□ 親兄弟に心筋梗塞や脳梗塞になった人がいる…1
□ 現在たばこを吸っている…2
□ 脂質異常症、またはその傾向ありと診断されている…3
□ 高血圧、またはその傾向ありと診断されている…4
□ 糖尿病、またはその傾向ありと診断されている…5
■0~4なら 血管年齢は「実年齢」相応
「健康的な血管を保っていると思われます。これからも規則正しい生活習慣や食生活を心がけてください」
■5~8なら 実年齢より「10歳以上」老化している可能性
「まずは食事や生活習慣を見直してみましょう。減塩を心がけ、血管拡張作用のあるトマトや玉ねぎ、キウイなどの低糖質フルーツを意識して摂取するだけでも違います。睡眠不足も血管を老化させる大敵なので、十分な睡眠時間を確保してください」
■9以上なら 実年齢より「20歳以上」老化している可能性
「喫煙者の場合は、まず禁煙を考えましょう。食生活や生活習慣の改善は言うまでもありません。一度病院で詳細な検査を受けることをお勧めします」
血管力を高めることが大事
現在61歳ながら「血管年齢は30代前半」という池谷医師は、「血管力」を高めることが大事だと説く。
「若さと健康を維持するには、血管力が欠かせません。血管のしなやかさに加え、内部の状態が血液をスムーズに循環させる力があるかどうかで確かめます」
本来、血管は100歳までその機能を果たすとされる。だが、生活習慣の乱れなどで血管の老化が早ければ、20代から劣化が始まるという。
その代表的な状態が、健康診断での血圧や血糖値、コレステロール値の上昇などから推測される「動脈硬化」の進行だ。伊賀瀬医師が言う。
「動脈硬化は血液中から溢れ出た糖や脂質が血管内壁を傷つけることで始まり、プラークが溜まって血管が硬くなっていきます。放置すれば、60代70代で大病を招く恐れがあります」
専門家が注目している「ゴースト化」
近年、専門家から注目されているのが血管の「ゴースト化」だ。
「血管の大半を占める毛細血管は血液中の酸素や栄養素によって養われています。そのため血管の劣化で末端まで成分が届かなくなると、毛細血管がボロボロになり、最終的に消滅する。大阪大学の高倉伸幸教授がこの状態を『ゴースト血管』と名付けました」(同前)
ゴースト化するとどのような症状が出るのか。
「以前より疲れやすい、手足が冷える、忘れっぽい、足がむくむといった変化が現われます。予兆を見逃さず、早期の対処が必要です。ゴースト化の可能性を調べるには『指つまみテスト』を試してください。
爪の赤みがかった色は、爪の下の毛細血管が透けたもの。指つまみテストで赤みが戻りにくい場合、ゴースト化で全身の毛細血管が減り、血流が悪くなっている可能性があります」(同前)
ゴースト血管を5秒で判定!『指つまみテスト』
【1】人さし指の爪を5秒間ギュッと強くつまむ。
【2】指を離したあと、3秒ほどで爪に赤みが戻れば毛細血管は健康。白っぽいままだったら、毛細血管のゴースト化の恐れがある。
タレントの大木凡人さん「ギャー!」と叫んだ大動脈解離
血管の老化は様々な大病を引き起こすが、なかでも医師たちが“最悪”と口を揃えるのが「大動脈解離」だ。心臓から全身に血液を送る大動脈の血管壁が裂ける症状で、破裂した場合の死亡率は6割超とされる。その特徴は耐えがたい「激痛」だ。
2015年1月に大動脈解離を発症し、奇跡的に生還したタレントの大木凡人さん(78)は空手家でもある“武闘派”だが、当時をこう語る。
「自宅のトイレで新聞を読み、立ち上がった瞬間に“バリバリ、バリバリ”と体中が引き裂かれるような凄まじい痛みが胸と背中、体全体を襲って、人生で初めて『ギャー!』と叫びました」
痛みのなか自ら119番通報をして運ばれ、2日間にわたる大手術を受けた。入院3日後に意識が戻ったが、生死の境を彷徨った間のことは記憶にないという。
「駆けつけてくれた弟に『3日間危篤だった』と聞かされました。運ばれてくるほかの大動脈解離の患者さんが次々に亡くなると先生から聞き、恐ろしい病気だと痛感しました。
その後は数か月に1回の検査を受けて経過観察をしていたのですが、『血管が弱っているので再手術したほうがいい』と勧められ、昨年8月に3週間ほど入院・手術を受けました。おかげで今ではすっかり元気です」(同前)
血管の若返りに必要なものは3つある
大動脈解離のリスクを減らすためには生活習慣を改善する必要がある。
「血管を若返らせる大事なポイントは、NO(一酸化窒素)、自律神経、栄養素の3つです。血管内で分泌されるNOは血管を拡張して血液の流れを促進させ、血管をしなやかに保ち、傷ついた血管を修復する働きをします」(池谷医師)
NOの分泌を促すには自律神経を整え、必要な栄養素の摂取が大事だ。
「交感神経の緊張が続くと血管に負担がかかり、傷つきやすくなる。副交感神経優位のリラックスした状態を作るために適度な入浴や良質な睡眠が必要です。また冷え性に効くとされる生姜やトウガラシなどは、血管を拡張させて血液の循環を改善してくれます」(同前)
第2の心臓「ふくらはぎ」が重要
適度な運動も重要になるが、池谷医師、伊賀瀬医師はともに「ふくらはぎ」の重要性を強調する。
「心臓から下半身に送り出された血液が重力に逆らって心臓に戻るには下半身の筋肉が重要。特にふくらはぎは「第2の心臓」と呼ばれ、ポンプの役割を果たします。その筋肉を刺激することで全身の血液の流れがスムーズになり、NOが放出されて血管の若返りが期待できます」(伊賀瀬医師)
そのために必要なのは、ハードな運動ではない。伊賀瀬医師が勧めるのは1分間の「かかと上げ下げ」だ。
「背筋を伸ばして立ち、かかとをゆっくり上げると、ふくらはぎの筋肉が収縮して静脈を圧迫し、血液が上へと引き上げられます。そうして30回ほどゆっくり上げ下げを繰り返す運動を毎日、可能な範囲で続ければ効果が期待できます。電車内や歯磨きしながらでも構いません」(同前)
池谷医師は椅子に座った状態での体操を勧める。
「座ったままひざをまっすぐ前方に伸ばし、両手で身体を支えてつま先を前後に動かすだけ。ひざが痛む人でも取り組めます」
立って行う「かかと上げ下げ」運動
<1>両足のかかとをゆっくり上げ、つま先立ちになる
<2>かかとに体重をかけ、ゆっくりと下げる
<3>「上げ」「下げ」を各30回ふくらはぎを意識して1分ほど繰り返す
座ったままでも出来る「ふくらはぎ」体操
<1>イスに座ってひざをまっすぐ伸ばす。両手でしっかりささえる
<2>つま先を前後に動かす
血管の老化を食い止めるには、簡単ではあるが地道な取り組みが必要だ。
「血管は肝臓やすい臓などと同様に『物言わぬ臓器』と言われ、老化が進んでも初期の頃は症状がありません。ただ生活習慣の改善次第で何歳でも血管を若返らせることは可能です。気付きにくいからこそ、ぜひ血管の健康維持に意識を向けていただきたい」(同前)
健診の数値では「血管力」は測れない。自らの変化に注意を傾けたい。
※週刊ポスト2024年3月1日号
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