施設で暮らし始めた母は「帰りたい!迎えに来て!」と怒っていた「2か月ぶりに面会した母の意外な言葉」
高次脳機能障害の母のケアを幼少期から担ってきたヤングケアラーのたろべえさんこと、高橋唯さん。昨年から母は障害者施設に暮らすことになったが、「帰りたい」と頻繁に連絡が来たり、部屋のものを壊してしまったり、心配は尽きない。そんな中、近くで暮らす祖父母の老々介護問題も浮上し、落ち着かない日々を送るたろべえさんが、2か月ぶりに母に面会してみると――。
執筆/たろべえ(高橋唯)さん
「たろべえ」の名で、ケアラーとしての体験をもとにブログやSNSなどで情報を発信。本名は高橋唯(高ははしごだか)。1997年、障害のある両親のもとに生まれ、家族3人暮らし。ヤングケアラーに関する講演や活動も積極的に行うほか、『ヤングケアラーってなんだろう』(ちくまプリマー新書)、『ヤングケアラー わたしの語り――子どもや若者が経験した家族のケア・介護』(生活書院)などで執筆。 https://ameblo.jp/tarobee1515/
2か月ぶりに母の面会へ「まだ怒っているだろうか?」
母は昨年の9月から施設で暮らしているが、2か月ぶりに母の入居する施設へ面会に行ってきた。前回、母に会いに行ったのは1月だったが、その時は「家に帰りたい」「なんで帰れないの」「迎えにきたわけじゃないなら帰れ!」とかなり怒っていた。
今回もまた怒っていたらどうしよう…?
1月は父と一緒に面会に行ったが、今回は筆者ひとりだ。また母にやり場のない怒りをぶつけられたら、受け止めきれるだろうか…。不安を抱えながら、母の暮らす施設へ向かった。
母はぶつぶつと不満そう…
車を走らせること2時間半。施設につくと、職員さんが母を車いすに乗せて連れてきてくださった。
母は筆者を見るなり、「お昼はここで食べるの? せっかく来てくれたなら、どこかに食べに連れて行ってくれると思ったのに!」と言い放った。
母はパンが好きで、家では毎日パンを食べていたが、施設ではそういう訳にはいかないので、筆者が来たのであれば外に連れて行ってもらってパンを食べたかったのに、とのことだった。
残念ながら今回は面会だけということで納得してもらったが、なにやらぶつぶつと不満そうだ。
「ああ、やっぱり怒っているな…」と思いつつ、母の手元に目をやると、爪にピンクのネイルアートが施されていることに気がついた。
「あら、その爪、素敵だね」と声をかけると、「そう?素敵かしら?」と母の表情が少し緩んだ。時々、ネイリストさんが施設に来てくださるらしい。
その後の母は「お父さんやおばあちゃんは元気なの?」と聞いてきたり、施設で訪問販売があって服を買った話をしてきたり、基本的には穏やかだった。時折、家にいるときと同様に機嫌がころころ変わることもあったが、これまでのように「帰りたい」と言い出すことはなかった。
予想もしていなかった母の言葉
前回は何を聞いても「知らない」と仏頂面だったのが、今回は自分からいろいろとよく話してくれた。
職員さんの話とは辻褄が合っていないことや、何を言っているのかよくわからないことも多かったが、とにかくひたすらうんうんと聞いていると、ふいに母の口から予想していなかった言葉が飛び出した。
「私、ここで有意義に過ごしてるの」
母が“有意義”なんて言葉を使うのをこれまで一度も聞いたことがなかったので、思わず聞き返してしまった。
「えっ、有意義に過ごしてるの?」
「そう」
「有意義に、何をして過ごしているの?」
「うーん、テレビ見たりとか…」
これまで、母は自分で自由に過ごす時間が苦手で、施設で暮らす前に通っていた生活介護事業所のように、毎日なにかしらの活動が用意されている、それこそ“有意義”な時間が好きだった。
一般的には、ずっとテレビを見ていることはあまり有意義なことではないかもしれないが、母にとって施設での時間が嫌な時間ではなくなったということなら、筆者にとっても喜ばしいことだ。
もしかしたら、母なりに多少は心配をかけないように気を遣ってくれたのだろうか…。まあ、それができる人ならもっと早くそうしてくれていたようにも思う。
これまでの母は施設での暮らしを嫌がって大声を出すこともあり、夜間に母の声で他の入居者さんが起きてしまうため、睡眠薬を服用することになったが、それもあって穏やかに過ごせるようになったのだろうか。
そしてなにより、職員さんたちの日頃の丁寧なかかわりによるところも大きいはずだ。
ケアから逃れて楽になったけど…
とにかく筆者としては怒られずに済んでよかった。
母に望まない生活をさせて、ケアから逃れて楽になった自分は、どんな顔で母に会いに行けばいいのだろう、恨まれても仕方がないと思っていたので、面会の時間だけでも和やかに過ごしてくれて少し救われた。
これまで、筆者が母を施設に入れたことに罪悪感があると周囲に話すと、
「嫌がるかもしれないけど、すぐに慣れるから大丈夫」「お母さんも、あなたが自由に生きてくれるのが1番嬉しいことだよ」などと励ましてもらうこともあった。
しかしながら、「母からの帰りたい!という電話に対応するのは私しかいないし、すぐに慣れると言っても、いつまでかかるかわからないのに」と思い、素直に受け取れられないことも多かった。
母があまりにも施設の生活に馴染めないようなら、どこか別の場所で生活する方法も考えなくてはならないと思っていたが、今回の面会で、どうやら今のところはこのまま暮らしていけそうで、ひとまず安心してもいいのかもしれないと思えた。
しかしながら、これまでの葛藤も忘れずに、今まさに介護の状況が変化しようとしている人の気持ちにも寄り添える自分であり続けたいとも、同時に思った。
ヤングケアラーに関する基本情報
言葉の意味や相談窓口はこちら!
■ヤングケアラーとは
ヤングケアラーとは、家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面のサポートなどを行っている子どものこと。近年は子どもから大人になってもケアが続くこともあるため、18才~おおむね30才までをヤングケアラーと呼んでいる。
■ヤングケアラーの定義
『ヤングケアラープロジェクト』(日本ケアラー連盟)では、以下のような人をヤングケアラーとしている。
・障がいや病気のある家族に代わり、買い物・料理・掃除・洗濯などの家事をしている
・家族に代わり、幼いきょうだいの世話をしている
・障がいや病気のきょうだいの世話や見守りをしている
・目を離せない家族の見守りや声かけなどの気づかいをしている
・日本語が第一言語でない家族や障がいのある家族のために通訳をしている
・家計を支えるために労働をして、障がいや病気のある家族を助けている
・アルコール・薬物・ギャンブル問題を抱える家族に対応している
・がん・難病・精神疾患など慢性的な病気の家族の看病をしている
・障がいや病気のある家族の身の回りの世話をしている
・障がいや病気のある家族の入浴やトイレの介助をしている
■相談窓口
・こども家庭庁「ヤングケアラー相談窓口検索」
https://kodomoshien.cfa.go.jp/young-carer/consultation/
・児童相談所の無料電話:0120-189-783
https://www.mhlw.go.jp/young-carer/
・文部科学省「24時間子供SOSダイヤル」:0120-0-78310
https://www.mext.go.jp/ijime/detail/dial.htm
・法務省「子供の人権110番」:0120-007-110
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken112.html
・東京都ヤングアラー相談支援等補助事業 LINEで相談ができる「けあバナ」
運営:一般社団法人ケアラーワークス
https://lin.ee/C5zlydz
