世界最高齢のプログラマー・若宮正子さん(89才)が実践「シニアこそAIを使いなさい」
スマホの音声アシスタントやお掃除ロボットなど、さまざまな分野に使われているAI(人工知能)。“ITオンチ”には縁遠い技術だと思いきや、実はITオンチにこそ使いやすいもので、長い老後を元気に生き抜く“相棒”にもなり得るという。果たしてそれは本当か?探ってみました。
教えてくれた人
若宮正子さん/ITエバンジェリスト(伝道師)・デジタルクリエイター
1935年、東京都生まれ。勤めていた銀行を定年退職後、独学でパソコンを習得。1999年、シニア世代のサイト『メロウ倶楽部』の創設に参画。2017年に、ひな人形を正しく配置するゲームアプリ「hinadan」を開発し、Apple社のCEOティム・クック氏らから「世界最高齢のプログラマー」と紹介され、話題の人に。また、「Excel」を使ったアート作品でも注目を集める。現在はデジタル庁「デジタル社会構想会議」委員、内閣府「高齢社会対策大綱の策定のための検討会」の構成員も務める。
シニアこそスマートスピーカーを使いこなして
「“老いてこそAI”。まったくその通りだと思います。だって、(スマホやスピーカーなどに)話しかければなんでも答えてくれるんですよ」
と力強く語るのは、“世界最高齢のプログラマー”として知られる若宮正子さん。
89才の現在も、講演などで国内外を飛び回っているが、自宅では、日常的にスマートスピーカーにあれこれ話しかけ、教えてもらっているという。
スマートスピーカーとは、AIを搭載した多機能スピーカーのこと。話しかけるだけで時間や天気情報を教えてくれたり、音楽や動画の再生などをしてくれるツールだ。
「目覚まし時計代わりにもなるし、ハンバーグのタネをこねている最中にレシピを確認したくなっても、作業を止めて手を洗って……の必要なく、『ナツメグの量はどのくらい?』と聞くだけで教えてくれます。年を重ね、1つのことをするのにも時間がかかりますから、スピーカーは何かと頼りになっていますね。スマホで検索してもいいのだけれど、文字を打ち込むのって面倒でしょう?実は私、タイピングが苦手。だから、しゃべるだけでOKなんて、すごいことだと思う」(若宮さん・以下同)
若宮さんが、文字入力が苦手というのは意外だが、シニアにとってのメリットはほかにもあるという。
「年を取ると“うっかり忘れ”が多くなります。たとえば、お湯を沸かしっぱなしにしてしまうとか。そんなとき、『10分後に教えて』と声をかけるわけです。30分煮込む料理のときも、移動時間を差し引いて『29分後に教えて』と頼むの」
若宮さんのAIライフ
●「OK Google、明日5時半に起こして」と、一日のスタートもAIで
●料理中に手が離せない時もスムーズに聞ける「スプーン1杯って何グラム?」
●気になるお天気も「京都の天気は?」「晴れ、最高気温は30℃です」、タイマーセットも「29分後に教えて!」「はい、タイマーをセットします」と簡単!
●思い出せないこともイメージを伝えるだけ。「あの野菜の名前、何だっけ?きゅうりみたいな形の…」「ズッキーニですか?」
●時には笑えるやりとりも。「私はAIで、医師ではありません」「知ってるわよ、そんなこと!」
遊びやゆとりを持ってデジタルを楽しもう
スマホでは、若宮さんはAIをどのように使っているのだろうか。
「調べものや、急に名前が思い出せないときに聞いています。『きゅうりみたいな形、イタリアっぽい名前、野菜』と聞くと、『ズッキーニですか?』と返ってきます。たとえば『AIって何?80才でもわかるように教えて』というふうに、さらにひと言加えると、かみくだいて教えてくれますよ」
あるときは相談にも乗ってくれる。
「『何事にも自信の持てない私にアドバイスをお願いします』と尋ねてみましょうか。すると、瞬時に『小さな成功体験を積み重ねる、新しいことに挑戦する、感謝の気持ちを持つ』など、いろいろなアドバイスが出てきます。『あなたには必ずできることがあります』などと励ましてもくれるんです」
AIの回答文の結びに「私はAIであり、医療や心理学の専門家ではありません」という一文を見つけた若宮さんは、「そんなこと知っているわよ!と突っ込みたくなるのも面白いわよね」と楽しそう。機械だからと構えず、遊びの道具だと思えばいいのかもーー。
「そう、遊びとゆとりが大事。私は、日本ではプログラミングで評価されましたが、台湾の元IT大臣、オードリー・タンさんから『あなたがすごいのは、エクセルアート(※1)を創造したことだ』と言われました。エクセルアートは、ビジネスに使われる表計算ソフト『Excel(エクセル)』で図柄を考案して作る作品です。ソフトの使い方が違ったって、楽しければいいじゃない?スマホが使いこなせなくても、自分がやりたいこと、必要なことさえできればいいと思うんです。私もパソコンは独学で、知らないことが多いの。でも、私が買ったものなのだから、どう使おうと私の自由でしょう?」
若宮さんいわく、世界各国のシニア(65才以上)のIT活用率を見ると、日本の活用率は諸外国のシニアに比べて低いのだという(※2)。
「“もう年だから”と、勝手に卒業しちゃう人が多いんです。私はその普及活動を託されているんですが、普及のポイントは、まさにAIのように話しかければ教えてくれる簡単なツールをどんどん使い、新しい知識を得ていくことだと思っています」
できることが増えれば、老後の暮らしも楽しくなる。AIは、「できること」を増やしてくれるツールであることは間違いない。
「人生100年時代、70代、80代はまだまだ伸び盛りです。私は80代で人生が一変しましたから。不確定な時代をたくましく生き抜く英知と柔軟性があれば、素晴らしい未来が待っている、と私みたいなおめでたい人間は信じています(笑い)」
(※1)Microsoft社の表計算ソフト「Excel(エクセル)」の図形機能を使って描いた絵やアートのこと。
(※2)令和3年(2021年)第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査(内閣府)https://nspc.jp/senior/archives/13147/
撮影/竹崎恵子
※女性セブン2024年9月26日・10月3日号
https://josei7.com/
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