87才の世界最高齢プログラマー若宮正子さん「100才まで生きた母の介護」を振り返る
2021年の日本人の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳と厚生労働省が発表した。世界でもトップクラスを誇る長寿大国となった日本。60才の定年退職前にパソコンと出合い、80代でスマホのゲームアプリ開発、デジタル庁の有識者委員を務める若宮正子さんに「高齢者を楽しむ秘訣」を聞いた。
周囲に呆れられながらも独学で学んだパソコン
「10代で名人になったりチャンピオンになったりすると、後の人生がつらいらしいですよ。残りの80年、一体どうするんだって…(笑い)。だから、ゆったりと構えてたらいいんです」
そう語る若宮正子さんが“名人”として世界にその名をとどろかせたのは81才のとき。iPhoneのシニア向けゲームアプリ『hinadan』を開発して、米アップル社CEOのティム・クック氏から絶賛されたのだ。
世界最高齢のプログラマーのITデビューは60才手前だった。
「雑誌を読んでいたら偶然、パソコン通信の記事を見つけて興味を持ったのが58才のとき。会社を定年退職する2年前のことでした。1990年代前半だった当時はまだ一般の人がインターネットを使うことはできず、前身となったパソコン通信は文字だけの世界。その中で電子メールやネット掲示板にアクセスしてネットライフを楽しむ時代でした。そんな中で周辺機器なども含めて40万円かけてパソコン一式をそろえたから、周囲からは『衝動買いの無駄遣い』と呆れられました」(若宮さん・以下同)
そんな声にもめげず独学で学んだパソコン通信が定年後、若宮さんの世界を広げる貴重なツールとなる。同時期にインターネットが少しずつ普及していったため、ネットでの交流はますます可能性を広げ、楽しくなっていったという。
「退職後、同居する母を介護しながら生活することになった私にとって、外の世界とつながることができる唯一の手段がインターネットでした。夢中になるあまり、気がついたら日がとっぷり暮れているというのは日常茶飯事です。あわてて『お母さん、ご飯の用意忘れてた。ごめんね』と謝ったことも数知れず…。不良介護人でしたね(苦笑)。だけど兄や社会福祉のサポートもあって母は100才まで生きましたから、大きな声では言えないけれど、介護にすべて身を捧げる必要はないんじゃないかな、と思います」
80代のいまの方が成長している
介護が終わって迎えた70代はますます活動的になった。
「リアルな世界でも人とつながれることがうれしくて、頻繁に外出していました。いろいろ手を出してみたなかで、ITの世界と相性が合ってアプリの開発もできましたが、その一方でピアノや日本舞踊など、少し習ってやめてしまったものもある。だけど、別に誰に迷惑をかけるわけでもない。だから“挫折したらどうしよう”と思わずに興味が湧いたらなんでもやってみたらいいと思います」
上り調子で70代を走り抜け、87才にしてデジタル庁の有識者委員を務める若宮さんにとって、75才は「成長のまっただ中」だった。
「60代より70代、70代よりも80代のいまの方が成長している実感があります。確かに若い頃のように体は動かないけど、目が悪くなったら眼鏡を、耳が遠くなったら補聴器を使用すればいい。記憶力が落ちたら、スケジュール管理はスマホに任せれば済むだけのこと。もともと私たちの世代は若いときに戦争の影響で充分に学べなかったから学習意欲が旺盛なんです」
話し終えた若宮さんは、慣れた手つきでスマホを操って次の予定を確認した。
プロフィール
ITエバンジェリスト・若宮正子さん(87)/東京都出身。定年まで大手都市銀行に勤務。在職中からパソコンでオンラインチャットを楽しんでいた。1999年にはシニア世代向けサイト「メロウ倶楽部」の創設に参画。スマホ向けゲームアプリ『hinadan』を80代で開発。2017年には米アップル社が開催する世界開発者会議に世界最高齢女性開発者として特別招待された。
文/池田道大 撮影/浅野剛
※女性セブン2022年11月10・17日号
https://josei7.com/
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