倉田真由美さん「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.45「夫が映った古いビデオの動画」
漫画家の倉田真由美さんは、夫の叶井俊太郎さんが旅立ってから、夫が綴った記事やスマホの中の写真などの思い出に触れては共に過ごした日々に思いを馳せている。夫が旅立って半年が過ぎ、ある日古いビデオを引っ張り出してみるとーー。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。お笑い芸人マッハスピード豪速球のさかまきさん原作の介護がテーマの漫画『お尻ふきます!!』(KADOKAWA)ほか著書多数。
夫の叶井俊太郎さんとのエピソードを描いたコミック『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』 『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』は現在Amazonで無料で公開中。
古いビデオカメラ、動くのか?
古いビデオの動画を、ようやく観ました。
中学生の娘が、赤ちゃんだった頃の動画。ビデオはもっと昔の物で、買ったのは二十年以上前だったと記憶しています。
動くかどうか不安だったのと、もう忘れてしまっている動画、新鮮な気持ちで見られる動画を残しておきたくてわざと今まで観ないでいました。スマホに入っている動画は、次にどう動いて何を言うかを暗記するほど繰り返し観てしまっているんですよね。でもとうとう、久しぶりに重いビデオを引っ張り出してドキドキしながら充電し電源を入れてみました。
ビデオは十余年ぶりに小さく音を立て、動き出しました。
「よかった、生きてる!」
使い方は何となく記憶していて、録画してある動画一覧を見ると小さい娘、そして夫の姿もありました。
ビデオは子どもを撮るものでしかなかったので、夫はたまにしか出て来ません。でも懐かしい風景と幼い娘と共に映るちょっと若い夫は、やっぱり夫の声で夫らしい話をしたり笑ったりしていました。
「あー、こんなことあったなあ」
「ここ行ったの覚えてる。霧が深かったな」
確かに私が撮った動画だけど、年月が経ってすっかり忘れてしまっていました。古いのに、新鮮に感じられる夫の姿。
中には、以前住んでいた家で腕立て伏せや背筋腹筋をする夫とそれを真似する娘の動画がありました。そういえば一時期、夫はちょっとした筋トレをしていたなあ。でもそれほど長続きしなかったのでこの動画がなかったら思い出さなかったと思います。
そうやって忘れてしまっている些細なこと、いっぱいあるんでしょうね。
動画はまだ、すべては観ていません。一気に観るのはなんだか勿体なくて。「まだ観ていない夫の動画がある」って、ちょっとだけ心強いんですよね。いつかは見尽くしてしまうのだろうけど、もう少しだけとっておきます。
倉田真由美さん、夫のすい臓がんが発覚するまでの経緯
夫が黄色くなり始めた――。異変に気がついた倉田さんと夫の叶井さんが、まさかの「すい臓がん」と診断されるまでには、さまざまな経緯をたどることになる。最初は黄疸、そして胃炎と診断されて…。現在、本サイトで連載中の「余命宣告後の日常」以前の話がコミック版で無料公開中だ。
『夫のすい臓がんが判明するまで: すい臓がんになった夫との暮らし Kindle版』
『夫の日常 食べ物編【1】: すい臓がんになった夫との暮らし』