「91歳一人暮らしの父は、あと5年で貯金が尽きてしまうと悩んでいます」心配する娘に毒蝮三太夫が授けた「実現したら楽しい夢」|「マムちゃんの毒入り相談室」第60回
「心配」というのは、ふくらみ始めると、どんどん勢いがつく。心配しても仕方ないと頭ではわかっていても、その勢いは止められない。相談者の父親は91歳。健康で自立しているが、「5年後に貯金が底をつく」ことが心配の種になっているという。マムシさんが、そんな父親を心配する娘をねぎらいつつ、大胆な“秘策”を授ける。(聞き手・石原壮一郎)
今回のお悩み:「お金のことが心配でたまらない父を安心させてあげたい」
毎日暑いなあ。ジジイもババアも、熱中症にはくれぐれも気をつけてくれよ。暑いと感じていなくてもエアコンをつける、のどが渇いていなくても水分を摂る、日中の暑い時間はよっぽどのことがない限り出かけない。この3つを心がけてほしい。マムちゃんからのお願いだ。せっかく長生きしたんだから、命を大事にしようじゃないか。
今回の相談は、56歳の女性からのお金に関する悩みだ。というか、お金のことを心配する父親が、悩みの種になっているみたいだな。
「91歳の父が一人で暮らしています。足腰は弱くなりましたが、健康。俳句や短歌を詠む趣味があるお陰で、充実した生活を送っているのではないかと思っています。
ただ、父には大きな悩みがあります。現在、賃貸の高齢者用住宅に住んでいるのですが、そこの家賃を払うと年金では生活費が足らず、貯金を崩している状況なのです。計算すると、あと5年で底をついてしまいます。
父の人生設計では、ここまで長生きする予定ではなかったのだそうです。ときどき、お金の不安が頭をよぎるらしく、『相談がある』と呼びだされ、費用が安い介護施設に入ると言い出します。ただ、実際は介護施設に空きもなく、あったとしても高額。なにより父には今の住宅に友だちも多いので、この暮らしを続けるのがベストだと私の考えを伝えています。
そのときは、いったん納得する父も、また数か月すると同じことを言い出し、その繰り返しが続いています。お金のことは、これ以上節約もできないし、いつかは無くなるのは仕方がないことです。まあ困ったら考えようと、解決を先送りにしてしまっているのが正直なところですが、父を安心させる、いいアドバイスはあるでしょうか?」
回答:「風流人のお父さんには、5年後に“漂泊の詩人”になって放浪の旅に一緒に出ようって言ってみたらいい」
いやあ、すごいよ。立派なもんだ。90歳を超えても健康にひとり暮らしをしていて、俳句や短歌を詠んで充実した日々を送ってるっていうんだろ。素敵な風流人だ。俺もあと2年で90歳だけど、偉大な先輩を見習って日々、風流に生きていきたいね。
お父さんにしっかり寄り添って、不安をなくしてあげたいと思っているあなたも、やさしくて素敵な娘さんだ。あなたが言うように、住む場所は変えないほうがいいだろうね。その年齢で環境が大きく変わると、もしかしたら寿命を縮めることになるかもしれない。「100歳まで暮らせるように家賃が安いところに引っ越したら、半年後に亡くなっちゃった」なんてことになったら、本人としても残念だし、あなたに大きな悔いが残る。
お父さん本人は5年後も6年後も今の健康状態が続く気でいるかもしれないけど、人間の寿命ばっかりは誰にもわからない。あなたが「お金が無くなるのは仕方ない」と思っているのなら、貯金を全部使い切るつもりで、お父さんに遠慮なく長生きしてもらおう。
元気に5年後を迎えられたら、そんなめでたいことはないよ。お金に関しては、その時になったらいい方法が見つかるかもしれないし、新しい制度ができているかもしれない。どうにかするしかないんだから、きっとどうにかなるよ。
問題は、お父さんの心配をどう払しょくしてあげるかだ。たとえば、あなたが「貯金がなくなっても、私に任せて。じつはアテがあるから大丈夫」と言い切ってみよう。「最近はそういうときに使える制度があるから、心配しないで好きなだけ長生きして」でもいいかもしれない。嘘も方便だ。
それでも納得しないなら、風流人であるお父さんにしか使えない特別な作戦がある。「無一文になったら、種田山頭火や尾崎放哉みたいに『漂泊の詩人』になればいいじゃない。放浪の旅に出るなら、私がついてってあげる」と言ってみる。不安に思うだけじゃなくて、具体的な目標を示して、5年後が楽しみだと思ってもらうわけだ。
「そんな現実味のない話で、すんなり納得するわけない」と思うかもしれないけど、元気な年寄りは「やがて自分が死ぬ」とは思っていない。「それもいいな」と夢をふくらませてくれる可能性は大いにある。万が一、実現したらこんな楽しいことはないよ。ハハハ。
もしかしたら、お父さんがあなたに何度も同じ相談をしてくるのは、寂しいからじゃないかな。たとえしょっちゅう顔を合わせていて、親子のコミュニケーションを十分に取っているとしても、高齢のお父さんとしては「大事な話の当事者になれない寂しさ」はきっとある。実際には引っ越すなんて無理だとわかってるかもしれない。
あなたは「またその話か」と思うだろうけど、同じ相談を時々は聞いてあげるのが親孝行という一面もあるんじゃないかな。たまには、あなたのほうから、仕事や人間関係の悩みを相談してみるのもいいかもしれない。子どものほうは「親に心配かけたら悪い」と考えるだろうけど、親としては心配の種がないっていうのも、きっとつまんないと思うよ。
何にしても、お金の心配をしながら長生きするのは、じつにつらいよな。まさに「九十歳。何がめでたい」だ。でも、俺はそうは思いたくないなあ。つらい日が続く中でも、楽しいことはきっとあるよ。とにかく生きることだ! 「九十歳。ナンとめでたい!」といきたいネ!
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毒蝮三太夫(どくまむし・さんだゆう)
1936年東京生まれ(品川生まれ浅草育ち)。俳優・タレント。聖徳大学客員教授。日大芸術学部映画学科卒。「ウルトラマン」「ウルトラセブン」の隊員役など、本名の「石井伊吉」で俳優としてテレビや映画で活躍。「笑点」で座布団運びをしていた1968年に、司会の立川談志の助言で現在の芸名に改名した。1969年10月からパーソナリティを務めているTBSラジオの「ミュージックプレゼント」は、現在『金曜ワイドラジオTOKYO 「えんがわ」』内で毎月最終金曜日の16時から放送中。88歳の現在も、ラジオ、テレビ、講演、大学での講義など精力的に活躍中。2021年暮れには、自らが創作してラジオでも語り続けている童話『こなくてよかったサンタクロース』が、絵本になって発売された(絵・塚本やすし、ニコモ刊)。この連載をベースにしつつ新しい相談を多数加えた最新刊『70歳からの人生相談』(文春新書)が、幅広い世代に大きな反響を呼んでいる。
YouTube「マムちゃんねる【公式】」(https://www.youtube.com/channel/UCGbaeaUO1ve8ldOXX2Ti8DQ)も、毎回多彩なゲストのとのぶっちゃけトークが大好評! 毎月1日、15日に新しい動画を配信中。
石原壮一郎(いしはら・そういちろう)
1963年三重県生まれ。コラムニスト。「大人養成講座」「大人力検定」「失礼な一言」など著書多数。新著『押してはいけない 妻のスイッチ』(青春出版社)が好評発売中。この連載ではマムシさんの言葉を通じて、高齢者に対する大人力とは何かを探求している。