「高齢者にとって1日1万歩は歩きすぎ」脚とひざを守る正しい歩き方や姿勢を専門医が解説
人生100年時代といわれる昨今、筋力が低下し、歩き方、姿勢の乱れなどで不健康になってしまう高齢者も多い。1人で歩くことが難しくなり、寝たきりの生活になるのは避けたいところだ。健康的に毎日を過ごすためにも「一生涯歩けること」を目標にしたい。ひざや脚を痛めにくい歩き方や食生活について専門家が徹底解説する。
教えてくれた人
戸田佳孝さん/戸田整形外科リウマチ科クリニック院長
笹原健太郎さん/リーフはりきゅう整体院代表
名医が教える「100年歩ける脚と膝」歩き方のコツ
年齢を重ねるにつれて、立ち上がる時や階段の上り下りでひざに痛みを感じる人も増えていく。歩行時にひざに痛みの出る変形性膝関節症に悩む人は、患者のうち65才以上が55%を占め、女性の方が男性よりも多いという。
100年歩くための脚とひざ作りは、思い立ったいまから始めること。
「脚の筋肉は何才になってもトレーニングをすれば太くなります。アメリカでは80代や90代の超高齢者がジムで熱心に筋トレをしています。1990年代にはすでに96才以上でも鍛えることで筋肉は太くなるという研究結果も報告されている。いくつになっても始めるのに遅いということはありません」(戸田整形外科リウマチ科クリニック院長の戸田佳孝さん)
リーフはりきゅう整体院代表の笹原健太郎さんも重ねる。
「寝たきりや認知症になってしまってからでは、脚を鍛えるのはとても難しい。むしろ40~60代で痛みが出るというのは、“いまから正しくトレーニングすれば寝たきりにならないよ”という体からのSOSであり、アラートです。いま脚やひざに痛みを感じているならば、100年歩ける脚を作るいいタイミングだと思ってください」(笹原さん・以下同)
毎日行うトレーニングの延長線上には、歩くときの姿勢がある。背筋を伸ばし、あごを引いて頭が前に出ないように歩くことで、ひざが伸びるようになる。
「ひざが曲がっていると、地面からの反発をすべてひざが受けることになる。それを防ぐために、ひざがまっすぐ伸びる姿勢をとることを意識してください」(戸田さん)
笹原さんも上体を起こすことの重要性を説く。
「ひざが痛いとかばうように前かがみになって歩く人が多いのですが、余計に痛みが悪化します。しっかり上体を起こすことでひざにかかる重みが軽くなる。バンザイしながら歩くと、上体がぐっと持ち上がります。家の中だけでいいので、続けると姿勢もよくなるし、上体を起こす感覚が身につきますよ」
イラストで解説!ひざを痛めにくい歩き方
<1>背筋はしっかり伸ばす
<2>頭が前に出ないようにあごをひく
<3>ひざが曲がらないようにまっすぐ伸ばす
<4>歩幅が狭くならないように意識する
食生活にも注意「ブロッコリーとアボカドは最強」
筋肉を鍛えるためには、食事も大切。脂肪が少ない鶏胸肉をはじめとした、たんぱく質の摂取はマストだ。
「高齢になると食べられる量自体が減ってくるので、炭水化物や野菜を食べるよりも、たんぱく質を摂ることを優先してほしい。肉もいいですが、魚にはDHAやEPAといった良質な脂がたっぷり含まれているので青魚を積極的に食べてください」(笹原さん)
戸田さんが推すのは、アボカドとブロッコリー。
「アボカドには痛みを抑え、すり減ったひざ軟骨を修復するなど損傷した組織回復を促すTGF-βが豊富に含まれています。また、有効成分が胃や腸で分解されずひざまでしっかり届いて、痛みの改善が期待できる。
サプリメントで摂るグルコサミンやヒアルロン酸は経口摂取しても胃や腸で分解されてしまうので、なんの意味もありません。ブロッコリーには、関節の痛みに悪影響を及ぼす病的血管が作られるのを防ぐスルフォラファンが多く含有されている。特に新芽であるブロッコリースプラウトは含有量がさらに多い」
1日1万歩は歩きすぎ!健康的な歩数とは?
痛みや炎症は、戸田さんが話すように血管の老化と切り離せない問題。その点で、健康な血管を維持するため、“食べてはいけない”ものもある。
「特に気をつけてほしいのは白砂糖です。白砂糖は血糖値を急激に上昇させて、血管を傷つけやすくする。そうなると、動脈硬化などのリスクが高くなるのはもちろん、筋肉など体の組織に栄養が行き届かなくなってしまいます。白砂糖が含まれるスイーツなども極力避けるようにしましょう」(笹原さん)
また、よかれと思ってやっていたことが、効果をもたらさないばかりか、逆効果になっていることもある。2人は、「1日1万歩は歩きすぎ」と声を揃える。
「健康のためには1日1万歩とすり込まれている人も多いですが、医学的見地からすると高齢者にとっては歩きすぎです。最新の研究では、1日4000歩であらゆる原因の死亡リスクが下がり始めることがわかっている。歩けば歩くほど効果は上がるものの、無理に1万歩歩く必要はまったくありません。むしろ歩きすぎることでひざを痛めたり、水がたまってしまっては本末転倒です」(戸田さん)
笹原さんは、「1万歩歩くくらいなら足踏み運動をした方がいい」と続ける。
「1万歩歩いていても、姿勢や歩き方が間違っていたら脚の老化は進行するだけ。それなら、いすに座って足踏みするだけの簡単な運動ですが、上体をしっかり起こすことを意識してやればウオーキング以上の効果があります」
湿布よりも湯船につかって血行をよくして
痛みが出たからといって、すぐに湿布を使ったり電気治療で緩和させるのも、長い目で見れば意味がないという意見も一致した。
「温湿布と冷湿布、どちらがいいかと聞かれることもありますが、痛みに作用しているのは鎮痛成分でそれはどちらにも入っています。結局のところ、湿布や電気治療は対症療法にすぎず、痛みを一時的にやわらげるだけです。だったら湯船につかるなど患部を温めて血行をよくした方がいい。
温泉も、副交感神経を高めることによるリラックス効果から痛みがやわらいでいるだけで成分が影響しているわけではありません」(戸田さん)
前述の通り、痛みは体からのサインなので、それを無視して一時的に黙らせるだけでは根本解決には至らないということ。
「もちろん、痛みがあるのはつらいので一時的に緩和させることは必要だと思いますが、決して治療ではないということをわかってほしい。原因をしっかり見極めたうえで関節をしっかり動かす、ひざを伸ばすなど適切な治療を受けてください」(笹原さん)
今日の自分の行動が、明日の自分、10年後の自分を作っている。100年歩くための脚を作れるのは毎日の習慣の積み重ね。健脚への一歩を踏み出そう。
イラスト/ico. 写真/PIXTA
※女性セブン2024年5月23日号
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