「便秘」は高齢になるほど深刻化「1日1本の甘酒で快便へ、排便時にバンザイ」ほかすぐできる対策を医師が解説
「年を重ねれば自然な現象」と思われがちな排泄トラブル。とくに女性にとって深刻な「便秘」は人にも相談しにくく、ひとりで悩みを抱えやすい。専門医は、排泄がうまくいかなくと行動範囲が制限され毎日の生活にも大きなストレスがかかるという。心身の健康を左右する快便のための習慣や対処法を医師に教えてもらった。
教えてくれた人
松生恒夫さん/「便秘外来」を開設する松生クリニック院長、西村かおるさん/排泄ケア専門の看護師、日本コンチネンス協会名誉会長、真野わかさん/腸セラピスト、川本徹さん/消化器病専門医。犀星(させい)の杜クリニック六本木院長
「便秘」は年を重ねるほどに深刻化する
犀星の杜クリニック六本木院長で消化器病専門医の川本徹さんが指摘する。
「私のクリニックには慢性便秘に悩む患者が多く来院しますが、皆さんお腹がゴロゴロと鳴ることや、下腹部の張りや違和感、おならが気になっていると話し、外出をためらうという人は少なくありません」
「便秘外来」を開設する松生クリニック院長の松生恒夫さんもこう言い添える。
「便秘の人とそうでない人の計3933人を15年間追跡したアメリカの研究データによれば、便秘の人はそうでない人に比べて、生存率が大きく下回ることがわかっています」
「いい排泄ができるかどうかで心身の状態は大きく変わる」と専門家たちは語る。
多くの女性を悩ませる「便秘」は年を重ねるほどに深刻化するゆえに、適切な対応が必要になる。
「もともと女性はホルモンの影響や、男性と比較して筋力が弱いことから、若くても便秘に悩む人が多いのですが、それに加えて加齢による腸の老化により腸内で便を移動させて便意を起こす機能が低下し、いきむ力も弱くなります。とりわけ70才を過ぎると、便秘が重症化するリスクが大きく上昇するのです」(松生さん)
高齢者は食べる量が減ると便も出にくく
日本コンチネンス協会名誉会長で排泄ケア専門の看護師、西村かおるさんは、「高齢者の便秘は食生活の変化も影響している」と指摘する。
「年を重ねて歯が悪くなり、噛む力が弱まると繊維質の多い野菜を食べる機会が減るうえ、食欲が減退するためにトータルの食事量も減ってきます。食べる量が充分でなければ当然、便は出にくくなる。
気がかりなのは、便秘が慢性化することで停滞した便が膀胱を圧迫し、それによって尿漏れや頻尿が引き起こされているケースがあること。便秘だけでなく排尿トラブルを改善するためにも、食生活を整えて便秘を解消することは必須です。野菜や果物が噛みにくいならば、ミキサーにかけたりすりおろすなど工夫して、積極的に摂るようにしましょう」(西村さん)
食物繊維を摂取する際、腸セラピストの真野わかさんは、「水溶性食物繊維と不溶性食物繊維のバランスにも気をつけてほしい」とアドバイスする。
「1:2の割合で摂るのがいいといわれています。便秘だからと不溶性食物繊維ばかり摂っていると、逆に便が出にくくなったり、ガスでお腹が苦しくなったりします。ごぼう、納豆、アボカド、キウイは、不溶性と水溶性のバランスが理想的な食材なので、積極的に取り入れるといいでしょう」(真野さん・以下同)
ただし、食べすぎには注意したい。
「食物繊維の過剰摂取は消化器官に負担がかかり、便秘の解消が遠のくうえ、下痢になるリスクもある。腸の状態によっては便秘と下痢を繰り返すような不調を生むケースもあります。
整腸のためには適量の食物繊維を摂りながら、辛いもの、カフェイン、アルコールなどの刺激が強いものは避けることを心がけるべし。冷たいものも内臓に強い刺激を与えるので控えてほしいです。朝起き抜けに1杯の水を飲むと蠕動(ぜんどう)運動が促されやすいですが、夏は常温、冬は白湯(さゆ)にしましょう」
19名中18名の便秘が改善したスーパードリンク
頻尿にならない程度にしっかり水分を摂ることも意識したい。松生さんは便秘を解消する“スーパードリンク”として麹(こうじ)菌が豊富な甘酒をすすめる。
「さまざまな研究によって、麹菌は大腸の環境を改善することがわかっています。実際に私が慢性便秘症の患者さんに対して行った実験で、1日1本(190ml)の甘酒を30日間飲んでもらったところ、19名中18名の便秘が改善し、下剤の量を減らすことができました。
甘酒の麹菌から産生される『酸性プロテアーゼ』という酵素によってビフィズス菌が増加し、腸内環境が改善されたと考えられます」
「深呼吸」や「バンザイポーズ」で快便を促す
食生活で腸が整ったら、“出す”ためのアプローチを行いたい。
「簡単にできて、高い効果が期待できるのは深呼吸です。特にパソコンやスマホを長時間使う現代人は、無意識のうちに浅い呼吸になりがちですが、呼吸が浅くなると体が緊張状態になって交感神経が優位になり、腸の動きが鈍くなる。深呼吸を意識すれば副交感神経が優位になって、腸の動きが改善されます」(真野さん・以下同)
深呼吸とともに腸のマッサージを取り入れると、より効果がある。
「ただし、強すぎる刺激は逆効果。腸は痛みを感じるほどの強さだと緊張してしまう。お腹の上から優しくマッサージするくらいが理想です」
犀星の杜クリニック六本木院長で消化器病専門医の川本徹さんが「覚えておいてほしい」と推奨するのは、排便がスムーズに叶う「バンザイのポーズ」だ。
「いざ便座に座ったとき、一般的には、ロダンの『考える人』のように、膝を曲げられるよう足を台に置いて、少し前かがみの姿勢をとると、直腸が真っ直ぐになって肛門括約筋が緩むので出やすくなるといわれています。ただし便秘で悩んでいる人は、そもそも便が直腸まで下りてきていないことが多い。そうした場合は、両手を上にあげて上体を後ろに反らせる“バンザイのポーズ”をすると、腸が伸びて便が上から流れて出やすくなります」(川本さん・以下同)
当たり前のことだが便意があったときにトイレにいなければ排便はできない。そのため、毎日の“小さな便意”を無視しないことも重要になる。
「“後で行けばいい”と後回しにしていると、大腸で水分が吸収されて便が硬くなり、出しづらくなります。特に高齢になって通勤や子供の世話の必要がなくなり生活リズムが崩れると、“いつでも行けるから”とかえってタイミングを逃しやすくなる。“家事が一段落してから”などと思わずに便意があればすぐにトイレに行く習慣をつけましょう」
出し方が変われば、人生が変わる。あなたの力で快適でスムーズな排泄ライフを手に入れよう。