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暮らし

認知症の祖母、数か月で施設を転々としなければいけない悲哀

 認知症の祖母を在宅で介護してきたライターの奥村シンゴ氏が、独自の切り口でその介護体験を紹介する。

 祖母は認知症の症状が悪化し、昨年11月、ついに施設入居したのだが…。

 * * *

 私が30歳過ぎから6年間、在宅で介護してきた祖母は、認知症の症状が進行したため、昨年11月末に老人健康保険施設(以下、老健)へ入所した。しかし、そこで、さまざまなハプニングが相次いで起き、精神科病院へ入院した。

 現在は、病院で症状が安定したので退院するよういわれ、特別養護老人ホーム(以下、特養)の入所を検討中だ。

 結局、この数ヶ月で祖母は、自宅から施設へ、そして病院。また新たな施設へと転々としなければいけない事態になってしまった。

 老健に入所が決まったときは、家族としてもホッと一息つけるかと思っていた。まさか、またすぐに祖母が落ち着いて過ごせる施設探しに翻弄する日々を送ることになろうとは…。今回はその顛末を記したい。

老健で、食器を投げたり、怒ったり…

 老健に入所してすぐに、医師や看護師から、「祖母が不安定な状況が続いている」と報告が入った。

 テレビを観たり、新聞を読んでいたりしている他の利用者に向かって「わたし、ボッとする人嫌いなの、仕事しなさいしないなら出ていきなさい」と怒り、食器を投げつけたり…。

 こういった行動をたびたび起こすようになったというのだ。

 結局、老健からは「認知症が進行し、他の利用者に迷惑がかかるので薬で落ち着かせておく」と告げられ、早く精神科の病院へ入院するように言い渡された。

 老健では、祖母に3種類の精神安定剤が出された。服用すると、だんだん元気がなくなり、口をポカンと開け、ボッーと一点を見つめたような無表情になっていった。食欲もなくなりあっという間に寝たきりに。

 薬が出される前の面会では、「ばあちゃん、大丈夫か?プリンにヤクルトもってきたで、一緒に食ベよか」と言う私に、「はいよ、おいしいものはいただきます」と喜んで食べていた祖母だったので、その変わりようには驚いてしまった。

 このまま精神科の病院に入院すべきかどうか迷ったので、私は地域包括センター、老人ホーム紹介センター数社、在宅介護時にお世話になったケアマネージャーさん、病院勤務の経験がある私の彼女、知人…と、さまざまな人に相談し、複数の老人施設を見学に行き、面談をしてみた。

「入所は数カ月先です」、「おばあさまの今の状況で入所はちょっと…」、「精神科病院で入院・治療されてからまたご連絡いただければ」と、どこの施設もすぐの入所は難しいとの回答。

 結局、精神科病院への入院を決意した。

薬を最小限にしたら、奇跡の回復

 入院時、医師に「どのような治療がお望みですか?」と聞かれたので、「薬は最小限を希望します。在宅で6年間見てきての感想です」とお願いしてみた。

 すると、医師からも「私も薬の副作用には疑問をもっています。一度薬を全部抜いて様子みましょう」とまさかの返事。この病院では、薬を極力使わずケアすることに力を入れているとのことだった。

 結果、祖母の食欲はカロリー維持のため食べていたハイカロリーゼリーをストップするまでに回復した。入院してから約2ヶ月で、介助なしでご飯を食べる時があったり、部屋からお風呂まで歩いて行くこともある。老健で変わり果てた様子だった祖母からは、奇跡の回復としかいいようがないほどだ。

 薬を最小限にして欲しいという家族の意向を汲んでくれた病院には感謝という言葉しか出ない。

認知症高齢者の受け皿不足は深刻

 祖母が落ち着いてきたら、また次の問題が浮上した。

 皮肉なことに今度は「食欲が回復し、暴れることもなく落ち着いているので、施設での生活が可能でしょう。ここは急性期病院なので、退院して元の施設に戻るか他の施設に移るのが原則です」と医師から言われてしまったのだ。

 そこで、薬の処方は引き続きこちらの病院でしてもらうようお願いしたのだが、そうすると、以前入所していた老健には戻れないことが判明した。

 老健では、他院で処方された薬の医療保険の適用は受けられず、薬はその施設で賄うのが原則なのだ。

 また以前のような処方をされたら、せっかく回復した容体が元に戻ってしまうかもしれない。

 そこで、老健には戻らないことを決めたものの、次の行く先がなかなか決まらない。

 精神科病院から、特養の紹介をしてもらったので、近々見学・面接へ行く予定である。

 そもそも老健は、在宅復帰を目標とする施設であるため、入所期間は原則3ヶ月だ。

 祖母の担当医によると、祖母のように、施設で暴れたり、他の利用者に迷惑をかけたりといった理由で精神科に入院してくる高齢者が急増しているとのこと。しかし、受け入れ態勢が整っている施設は限られているため、病院、施設の不足は深刻だという。

 祖母のように、行き場が定まらず、あちこち転々とする高齢者は多いのではないだろうか。

 長い間、祖母の在宅介護を続けきたが、認知症の症状が悪化しため、熟考の末決めた老健への入所だった。

 まさか、早々に病院へ入院し、この後は特養(予定)と、短い期間で、祖母を3カ所もたらい回しにすることになってしまうとは…。87歳の高齢である祖母にはとても気の毒だし、家族も落ち着かない。

 今後、新たな入所先が決まったとしても、ようやく、落ち着いてきた祖母の容体が、また新たな環境に移されることで、老健に入所した時のように、情緒が不安定になったり、食欲、体力の低下などしないか…、心配はつきないのである。

文/奥村シンゴ

プロフィール:大学卒業後、東証一部放送・通信業界で営業や顧客対応などの業務を経験し、6年前から祖母の認知症在宅介護を経験中。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディア、阪神地区のテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。他時折テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。

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この記事へのみんなのコメント

  • フーちゃん

    似たような状況でこまっています もう半年で5カ所も変わりました 途中癌が見つかり元々在宅酸素を使っていたりとあちこち悪い状態で受け皿がなくたらい回し状態です かわいそうで涙出ます

  • SingleAgedBoy

    私の母も87歳で要介護2、大腸癌手術後に回腸ストーマとなり、脱水症状や腎臓病の予防に常に注意が必要な体になったが、加えて癌の再発や認知症(MCI)悪化、転倒事故、サルコペニアを防ぐためにも、一段と細かな生活介助などが必要になった。 母は以前は要支援1の認定でデイサービスに通っていたが、手術後は脱水症状により入退院を繰り返し、その後に病院関連の老人保健施設に入所した。 手術後に推奨される抗癌剤投与を母の場合は断っており、残っている大腸との吻合手術の可否の判断が保留されているので、本来は手術した拠点病院の外科医による経過観察が必要な状態だ。しかし、病院で受診する=医療保険を使うためには老健から退所する必要があり、そうなると手続きなどが面倒なので、入所して3ヵ月たった今も造影CT検査などが先送りされている。 介護職員に加えて常勤の医師や看護師もいる老健だが、介護保険制度の枠内で出来ることはかなり限られる様子だ。手術後に急性腎障害で入院していた母への採血による腎機能検査は、入所した月に一度あったが、その時点でクレアチニン値が少し悪かったらしいのに、以後は検査が行われていない。体重・血圧も一度計っただけらしい。不安なので私が定期的に計っているが、毎日300kalほどの間食で栄養補給しているのに、最近になって体重が不自然に減ってきたので心配している。 母はこまめな水分補給とパウチ(水様便)の排出が必要だが、本人がそれを時々忘れるので、他人が数時間おきにチェックしないといけない。しかし今の施設では、個人のケアプランにそった職員による目配りが十分ではないのが現状だ。 母が入所した際に、理学療法士による短期集中リハビリも頼んだのだが、ほぼ自主的には運動しない母の場合は、週あたり2時間弱の訓練だけでは現状の体力を維持するのが精一杯だったようだ。体脂肪率は短期的に少し下がったものの、カートを押して歩く際の不安定性などには改善が見られなかった。 老健は在宅で生活が出来るように機能回復訓練や介護などを行う施設であるはずだが、母がいる施設では、日中に寝かせきり・座らせきりの放任時間が長く、認知症の悪化やサルコペニアを予防するための取り組みが希薄であると感じた。入所者の生活機能の回復を実現するためには、最新の知見を取り入れたケアプランの作成や、職員の熟練度と賃金の向上が不可欠だろうと思う。 地域によって濃淡はあるだろうが、要介護3以上の人が対象となる特養はどこも満員状態で入所待機者が多く、そのため、老健に一年以上も入ったまま特養の空きを待っている利用者が少なくないらしい。在宅復帰が困難な人たちまで老健で長期間介護する必要が生じると、職員の労力が重症者のために多く消費され、リハビリを充実させるという老健の本来の機能は、効果的には実現されなくなるだろう。 厚生労働省の「介護サービス情報公表システム」では施設の入所待機者数も記載されているが、それは数ヵ月前のデータであることが普通だ。利用者としては少なくとも月に一回はデータを更新してもらいたいが、役所の指導力が弱い上に、事業者間で競争原理が働いていないから古い情報が公表されるのかもしれない。

  • チロル

    老健はそもそも、リハビリ中心の在宅復帰施設として創設されていたので、認知症の対応に熟練した職員がまだまだ少ないのが現状です。また、老健の医師が認知症の専門性が高いとは限らず、看護師もまだまだ薬剤や認知症の知識は不充分ですので、症状の変化に早期に対応できないこともあるでしょう。 介護保険の報酬内で薬剤費用もやりくりしなければならないため、極端に処方を減らしたり、行動制限を求める結果、専門外の向精神薬を多用して認知症が悪化する事も考えられます。 認知症の方は環境の変化に対応することが難しく、適切なケアがないと進行することもあります。 この為、入所時は認知症が専門的に見られるのか?専門医師がいるのか、認知症専門の看護師、介護士がいるか、などの、老健の内情をよく知る必要があります。 リハビリ中心で在宅復帰をする方々にとって短期間で成果をあげるには、認知症の方々の存在は、リハビリのさまだげになりますから、共存は難しいです。そのため、目的別に棲み分けができているかも大切です。 このような施設特有の背景や、家族から離れる不安、まわりの認知症の方々の不穏な行動の不安と職員との信頼関係などの環境などの不安が認知症をより進行させます。 大切なのは、症状や目的に合った施設選びと考えます。様々な介護福祉施設がありますので、今一度、詳しく聞いてみてはいかがでしょうか?

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