認知症の祖母、数か月で施設を転々としなければいけない悲哀
認知症の祖母を在宅で介護してきたライターの奥村シンゴ氏が、独自の切り口でその介護体験を紹介する。
祖母は認知症の症状が悪化し、昨年11月、ついに施設入居したのだが…。
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私が30歳過ぎから6年間、在宅で介護してきた祖母は、認知症の症状が進行したため、昨年11月末に老人健康保険施設(以下、老健)へ入所した。しかし、そこで、さまざまなハプニングが相次いで起き、精神科病院へ入院した。
現在は、病院で症状が安定したので退院するよういわれ、特別養護老人ホーム(以下、特養)の入所を検討中だ。
結局、この数ヶ月で祖母は、自宅から施設へ、そして病院。また新たな施設へと転々としなければいけない事態になってしまった。
老健に入所が決まったときは、家族としてもホッと一息つけるかと思っていた。まさか、またすぐに祖母が落ち着いて過ごせる施設探しに翻弄する日々を送ることになろうとは…。今回はその顛末を記したい。
老健で、食器を投げたり、怒ったり…
老健に入所してすぐに、医師や看護師から、「祖母が不安定な状況が続いている」と報告が入った。
テレビを観たり、新聞を読んでいたりしている他の利用者に向かって「わたし、ボッとする人嫌いなの、仕事しなさいしないなら出ていきなさい」と怒り、食器を投げつけたり…。
こういった行動をたびたび起こすようになったというのだ。
結局、老健からは「認知症が進行し、他の利用者に迷惑がかかるので薬で落ち着かせておく」と告げられ、早く精神科の病院へ入院するように言い渡された。
老健では、祖母に3種類の精神安定剤が出された。服用すると、だんだん元気がなくなり、口をポカンと開け、ボッーと一点を見つめたような無表情になっていった。食欲もなくなりあっという間に寝たきりに。
薬が出される前の面会では、「ばあちゃん、大丈夫か?プリンにヤクルトもってきたで、一緒に食ベよか」と言う私に、「はいよ、おいしいものはいただきます」と喜んで食べていた祖母だったので、その変わりようには驚いてしまった。
このまま精神科の病院に入院すべきかどうか迷ったので、私は地域包括センター、老人ホーム紹介センター数社、在宅介護時にお世話になったケアマネージャーさん、病院勤務の経験がある私の彼女、知人…と、さまざまな人に相談し、複数の老人施設を見学に行き、面談をしてみた。
「入所は数カ月先です」、「おばあさまの今の状況で入所はちょっと…」、「精神科病院で入院・治療されてからまたご連絡いただければ」と、どこの施設もすぐの入所は難しいとの回答。
結局、精神科病院への入院を決意した。
薬を最小限にしたら、奇跡の回復
入院時、医師に「どのような治療がお望みですか?」と聞かれたので、「薬は最小限を希望します。在宅で6年間見てきての感想です」とお願いしてみた。
すると、医師からも「私も薬の副作用には疑問をもっています。一度薬を全部抜いて様子みましょう」とまさかの返事。この病院では、薬を極力使わずケアすることに力を入れているとのことだった。
結果、祖母の食欲はカロリー維持のため食べていたハイカロリーゼリーをストップするまでに回復した。入院してから約2ヶ月で、介助なしでご飯を食べる時があったり、部屋からお風呂まで歩いて行くこともある。老健で変わり果てた様子だった祖母からは、奇跡の回復としかいいようがないほどだ。
薬を最小限にして欲しいという家族の意向を汲んでくれた病院には感謝という言葉しか出ない。
認知症高齢者の受け皿不足は深刻
祖母が落ち着いてきたら、また次の問題が浮上した。
皮肉なことに今度は「食欲が回復し、暴れることもなく落ち着いているので、施設での生活が可能でしょう。ここは急性期病院なので、退院して元の施設に戻るか他の施設に移るのが原則です」と医師から言われてしまったのだ。
そこで、薬の処方は引き続きこちらの病院でしてもらうようお願いしたのだが、そうすると、以前入所していた老健には戻れないことが判明した。
老健では、他院で処方された薬の医療保険の適用は受けられず、薬はその施設で賄うのが原則なのだ。
また以前のような処方をされたら、せっかく回復した容体が元に戻ってしまうかもしれない。
そこで、老健には戻らないことを決めたものの、次の行く先がなかなか決まらない。
精神科病院から、特養の紹介をしてもらったので、近々見学・面接へ行く予定である。
そもそも老健は、在宅復帰を目標とする施設であるため、入所期間は原則3ヶ月だ。
祖母の担当医によると、祖母のように、施設で暴れたり、他の利用者に迷惑をかけたりといった理由で精神科に入院してくる高齢者が急増しているとのこと。しかし、受け入れ態勢が整っている施設は限られているため、病院、施設の不足は深刻だという。
祖母のように、行き場が定まらず、あちこち転々とする高齢者は多いのではないだろうか。
長い間、祖母の在宅介護を続けきたが、認知症の症状が悪化しため、熟考の末決めた老健への入所だった。
まさか、早々に病院へ入院し、この後は特養(予定)と、短い期間で、祖母を3カ所もたらい回しにすることになってしまうとは…。87歳の高齢である祖母にはとても気の毒だし、家族も落ち着かない。
今後、新たな入所先が決まったとしても、ようやく、落ち着いてきた祖母の容体が、また新たな環境に移されることで、老健に入所した時のように、情緒が不安定になったり、食欲、体力の低下などしないか…、心配はつきないのである。
文/奥村シンゴ
プロフィール:大学卒業後、東証一部放送・通信業界で営業や顧客対応などの業務を経験し、6年前から祖母の認知症在宅介護を経験中。在宅介護と並行してフリーライターとして活動し、テレビ、介護、メディア、阪神地区のテーマを中心に各種ネットメディアに寄稿。他時折テレビ・ネット番組や企業のリサーチ、マーケティングなども担当している。