眠りのプロが実践する「快眠ルーティーン」江戸時代の呼吸法、熟睡催眠術の呪文を公開!
熱帯夜に備えてエアコンをつければ寒くて寝つけず、エアコンを消せばひどい寝汗で目が覚める…。ストレス、生活習慣の変化、飲酒や喫煙などさまざまな原因で眠りの悩みが絶えない現代。令和の最新研究から江戸の知恵まで、あなたの「快眠」を助ける古今東西の知識を紹介する。
自然音や明かりで睡眠の質を上げる
睡眠のすべてを知り尽くす名医たちは、自分の眠りのために日々、どのような生活を送っているのか――。
中部大学・生命健康科学研究所の特任教授、宮崎総一郎さんは現在68才。夜9時頃に眠りにつき、午前2時になると目が覚めると話す。
「私の場合、5時間眠れば必要な睡眠はほぼ足りています。自然に目が覚めてからは、15分で電源が切れるタイマーつきのラジオをかけて、寝たり起きたりしながら朝を迎えています。6時25分にはNHKのテレビ体操をするのが日課。その後にカフェで朝食をとるのも欠かせません。メニューは洋食ならパンと卵、野菜サラダ、ヨーグルト、和食ならハムエッグ納豆定食が定番です」(宮崎さん)
寝具で有名な昭和西川の代表取締役副社長で睡眠研究家の西川ユカコさんも朝食を欠かさず、朝は必ず太陽の光を浴びていると話す。また日中は仕事をしながら川のせせらぎや鳥の声といった自然音を流す工夫も忘れない。
「日中に自然音を聞くことでセロトニンを活性化させるホルモンの『オキシトシン』の分泌を促し、夜のメラトニンを増やすことにつながるのです。オキシトシンはおしゃべりや人との触れ合いなどでも分泌されるので、日中はなるべく人と会話するのを心がけています。肌に汗が残ると眠りが浅くなるため、寝具も寝巻きも、吸湿発散性の高いものにしています。寝返りの妨げにならないよう、寝巻きは伸縮性のいい大きめのものを。ベストは綿やモダールなどの天然素材です。汗による冷えを防ぐため、夏でも長袖長ズボンで寝ています」(西川さん)
快眠セラピストで睡眠環境プランナーの三橋美穂さんは、やはり明るさにこだわりが。
「夜になったら部屋の明かりを暗くして、スマホやパソコンを使うときも画面の明かりをナイトモードに設定しています。全身をほぐして血行をよくするために、入浴後に軽く肩まわりのストレッチやヨガの『鋤のポーズ』をするのが習慣。副交感神経が優位になって寝つきやすくなるので、就寝時はホットアイピローを愛用しています」(三橋さん)
雨晴クリニック院長の坪田聡さんはベッドマットの上に、い草の寝ござをシーツ代わりに敷いているという。
「い草は昔から日本人に親しんできたもの。香りがよく、いまの時期はひんやりした感触で気持ちがよく、リラックスできます」(坪田さん)
→日本人は「世界一睡眠が足りていない国民」だった!「明るすぎる照明」と「長風呂」が快眠を妨げる原因に
自宅で実践できる江戸の秘伝・快眠法「眠りの呼吸」
【1】あお向けになって首や肩の力を抜いて目を閉じ、息を吐くときに下腹がへこむ感覚に集中しながら、5回深呼吸する。鼻から吸って口から吐くこと。
【2】胸からおへその両わきに向かって、両手で50回さする。
【3】おへその両わきから左右の太ももに向かって、両手で20回さする。
【4】両足の親指を同時に、前後に20回動かす。その後、息を吸うときに下腹がふくらむ感覚に集中しながら、20回深呼吸する。このときも、鼻から吸って口から吐く。
出典:宮下宗三『江戸の快眠法』
「江戸時代」「中世ヨーロッパ」の人も不眠に悩んでいた
睡眠に悩むのは現代人ばかりではない。
江戸時代前期に編まれた医学書『鍼灸枢要(しんきゅうすうよう)』に不眠改善のツボに関する記述があることから、遅くとも江戸時代には不眠が一般的だったと考えられる。
成鍼堂治療院院長で『江戸の快眠法』などの著書がある宮下宗三さんが解説する。
「江戸時代は6~9時間ほどが理想的な睡眠時間だとされていたようです。日照時間に合わせて、春夏は短く、秋冬は長く眠るのがよいと考えられていました。当時は灯りに用いる油がとても高価だったため、太陽の動きとともに生活していたのでしょう」
日が暮れても眠れない人が多かったのか、江戸の養生書には快眠のために「頭寒足熱」「酒は五分」「食事は腹八分」とも説かれている。
「“寝る前に怒らない” “寝る前の娯楽はほどほどに”という記述も。“日中の興奮が冷めず寝つけないなら、足の裏を摩擦して頭に上った血を末梢に誘導せよ”とも伝えられており、現代にも通じます。頭皮マッサージに関する記述もあって“つげ櫛で頭をこすると、頭にうっ滞した気血を散らす”というもの。現代で取り入れるなら、両手指を額の生え際に置き、軽く圧を加えながら後頭部に向かって20回ほど、さするように行ってみてください。シャンプー中に行うのもおすすめです」(宮下さん・以下同)
江戸時代後期の医師・平野重誠による『病家須知(びようかすち)』という家庭医学書には、よく眠るための呼吸法が記されている。
「いまでいうストレス性や自律神経の乱れによる不眠患者にすすめていたようです」
不眠を解消する方法だけでなく「眠りすぎは健康を害する」と戒める記述も、すでにされている。一方、中世ヨーロッパの人々は「二相睡眠」、すなわち朝までノンストップで眠るのではなく、午前2~3時に一度起きて二度寝するのが普通だったようだ。しかしこれも照明がない時代だったからこそで、現代では推奨されない。
「メラトニンは夜にしか分泌されないため、夜間はノンストップで寝てほしい。睡眠時間が同じでも、日中に眠っている人と夜眠っている人を比べると、昼夜逆転している人はがんの罹患率が高い傾向にあります」(西川さん)
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