認知症の症状と予防法「8つの脳内番地別・脳を鍛えるエクササイズ」【専門家解説】
認知症の人と向き合っていると理解しがたい行動の連続にストレスを感じることがある。「なぜこんな行動をしてしまうの?」という理由を「脳」の専門家が解説する。脳神経細胞の特徴を知り、どこが衰えているのかをチェックしてみましょう。脳を鍛えるエクササイズも紹介します。
脳は使わない部分から機能が低下する
認知症になったからといって、脳が一気に全部衰え、私たちと違う思考回路になるわけではないと、脳内科医の加藤俊徳さんは言う。
「脳の神経細胞は、同じような働きをする神経細胞ごとに集団を形成しています。そのグループのことを私は“脳番地”と呼んでいます。それぞれ【1】思考系【2】運動系【3】伝達系【4】理解系【5】記憶系【6】視覚系【7】聴覚系【8】感情系の8つに分けられます」(加藤さん・以下同)
よく使われる脳番地は、細胞同士のつながりが密になって成長する。反対にあまり使わない脳番地は発達が未熟なうえ、早く衰える傾向にあるという。
「どの脳番地が衰えたかによって、認知症の症状も変わります。
たとえば、言語を司る伝達系脳番地が衰えてくると、頭の中では言いたいものが浮かんでいるのに、そのものの名前が出てこない“失語”という症状が現れやすくなります。会話をしていても“あれ”“それ”といった表現が多くなり、次第にコミュニケーションが取りづらくなります」
耳が聞こえにくいのは年のせいだろうと、難聴を放っておくのも危険だという。
「耳が遠くなると脳への刺激が減り、聴覚系脳番地が衰えます。脳の各部位は連携しているので、この部分が衰えると、理解系や伝達系など、ほかの部位にも影響が出ます。耳の聞こえが悪いと思ったら、迷わず耳鼻科を受診してください」
脳は役割ごとに8つのグループに分かれる
8つの脳番地の各働きについて解説する。
【1】思考系脳番地
思考や判断に関係する脳の司令塔。左脳・右脳の前頭葉にある。
【2】運動系脳番地
手足や口などに指令を送り、体を動かすことを司る。
【3】伝達系脳番地
身振りや表情を含め、コミュニケーションを司る。
【4】理解系脳番地
目や耳から入れた情報を理解し、整理整頓する役割がある。
【5】記憶系脳番地
覚えたり、思い出すことに関係し、大脳の側頭葉下部・内側部と小脳にもかかわっている。
【6】視覚系脳番地
視覚的情報を集約して整理。目の真後ろの後頭葉と前頭葉にある。
【7】聴覚系脳番地
言語や音など、耳からの情報に関係しており、耳に近い左右の側頭葉にある。
【8】感情系脳番地
喜怒哀楽などの感情を生み出し、相手の気持ちを読み取る感性や社会性に関係する。
認知症の話を遮ったり、否定したりしてはダメ
認知症の症状が進行すると、支離滅裂な言動を繰り返すようになる。イライラすることもあるだろうが、それでも絶対、頭ごなしに否定をしてはいけないという。介護福祉士の尾渡順子さんがその理由を解説する。
「認知症の人自身、いままでできたことができなくなっていくことに不安を感じています。なぜ怒られたのか、その理由を忘れてしまっても、そのときに感じた不安や不快な気持ちは心に残っています。たとえ相手の話が間違っていても、否定せずに受け止めてあげてください」(尾渡さん)
何を言っても反応がないと思われがちだが、実は傷ついている可能性があるのだ。家族としては“できないこと”に目がとまりやすいかもしれないが、認知機能が衰えても周りの手助けがあれば“できること”もある。
「認知症の人の尊厳を傷つけないよう、本人ができることに焦点を当て、それを周りの人がサポートしてやらせていくことが大切です」(加藤さん)
私たち自身も認知症にならないよう、いまから予防しておきたい。脳は使わないとどんどん老化し、老廃物がたまりやすくなるという。次は、脳番地別に効果的な脳への刺激の送り方を紹介する。今日から心がけてほしい。
8つの脳番地別・脳を鍛えるエクササイズ
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