認知症の人が見ている世界「約束を忘れる、徘徊する」症例別の対処法を専門家が解説
■自分がどこにいるかがわからず知っている場所に行こうとする
「徘徊は、何かしら目的があって歩き続けている場合がほとんどです。夜中にトイレに行こうとして外に出ようとするのは、記憶障害からいつも通っている廊下を認識できていないのが原因。自分がどこにいるのかわからないので、とりあえず知っている場所に行こうと歩き出してしまうんです」(加藤さん)
【私たちが見ている世界】徘徊する
【認知症の人が見ている世界】とりあえず知っている場所に行こうと歩き出してしまう
【付き合い方】
「トイレの場所がわからないのなら、トイレのドアに『トイレ』と張り紙をして、ほかの扉と区別をつけましょう。どうしても外に出ようとするときは、一緒に付き添い、頃合いをみて“寒くなってきたから帰ろうか”などと声をかけてください」(尾渡さん)
【症例7】顔の見分けがつかない
■目では見えているもののそれが何か認識できていない
「人物の見当識障害が進むと、毎日接している家族の顔も区別できなくなることがあります。目や鼻など顔の断片は認識できるものの、顔全体をまとめて捉えられなくなるからです。夫を亡くなった父親と勘違いするのも、顔の見分けがつかないうえ、自分の年齢や家族の生死に関する記憶が消失しているからです」(加藤さん)
【私たちが見ている世界】顔の見分けがつかない
【認知症の人が見ている世界】顔全体をまとめて捉えられなくなる
【付き合い方】
「家族は自分の顔がわからなくなることにショックを受けると思いますが、認知症の症状なのだと理解することが大事。顔を忘れても、声でわかることもあります。否定せず、時には認知症患者が思い込んでいる人物のフリをしてあげましょう」(尾渡さん)
【症例8】すぐに怒る・キレる
■感情の制御が困難になり瞬間的に感情が爆発してしまう
「感情系脳番地の機能が衰え、感情の制御が難しくなると、キレやすくなります。周囲が自分を受け入れず、責められているような気がして、攻撃的な態度をとる人もいます。認知症により人格が変わったのではなく、脳の変化により感情がコントロールしづらくなったんだと、理解することが大事です」(加藤さん)
【私たちが見ている世界】すぐに怒る・キレる
【認知症の人が見ている世界】周囲が自分を受け入れず、責められているような気がする
【向き合い方】
「認知症の人から暴言・暴力を受けた際は、場所・人・時間を変えるのが鉄則です。そのうちに気持ちが落ち着いたりします。“自分は丁寧に扱われている”と感じると暴言が収まることもあるので、怒りの原因を聞いてあげることも重要です」(尾渡さん)
【症例9】料理の味付けが変わる
■味や香りが感じにくくなり料理の味付けが困難になる
「甘味や苦味、塩味といった味覚を感じる機能が衰え、味が感じにくくなったり、味の好みが変わり、前と同じように味付けをしたつもりでも、うまくいかなくなります。特にアルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症は、初期の段階から嗅覚の低下や味覚障害が起こるといわれています」(加藤さん)
【私たちが見ている世界】料理の味付けが変わる
【認知症の人が見ている世界】嗅覚の低下や味覚障害が起こっている
【向き合い方】
「せっかく料理を作ったのに“まずい”“味がおかしい”と言われたら、認知症の人じゃなくても傷つきますよね。そのようなネガティブな発言は避けること。“味見を手伝うよ”“作り方を教えて”など、前向きな言動でフォローしてあげて」(尾渡さん)
教えてくれた人
脳内科医 加藤俊徳さん
医学博士。加藤プラチナクリニック院長。MRI画像を用いて1万人以上の脳を診断。主な著書に『マンガでわかる「認知症の人には、こんなふうに見えています」』(宝島社)など。
介護福祉士 尾渡順子さん
介護老人保健施設あさひな勤務。介護福祉士として働きながら研修講師や執筆、在宅高齢者向けのデジタルコミュニケーションサービス「寄り添いコミュニケーション 星輝しおり」の開発にも携わる。主な著書に『認知症の人を元気にする言葉かけ 不安にさせる言葉かけ』(中央法規)など。
取材・文/鳥居優美 イラスト/河南好美
※女性セブン2023年7月27日号
https://josei7.com/
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